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作物と土への贈り物 農作業のためのロックンロール 〜深沢七郎『作物と音楽』より〜

昨年から家庭菜園で野菜作りを始めた。

やりだしてみるとこれが本当に楽しくて、昨年はビギナーズラックで多く収穫できた。家族で食べ切れないものは職場に持っていき仲間におすそわけ。「おい、これどこの?」「彼の農園だよ」などという会話が耳に入ると、すっかりいい気になり、狭いながらも我が家の家庭菜園、いっそのこと深沢七郎さんの『ラブミー農場』のようなイカした名をつけようか?などと思ったりした。

深沢七郎さんのエッセイ集『人間滅亡の唄』のなかに「作物と音楽」と題するものがあり、そこに興味深いことが書かれていた。ちょっと抜粋すると、いつだったか農業に関係する大学の学生さんが来て、(略)部屋のステレオからリトル・リチャードの歌が聞こえてきていた。「野菜なども音楽を聞かせれば成長が早い。」と学生さんがいうので「まさか?」と私は思った。(略)野菜にミュージックを聞かせれば、リズミカルな振動で、そよ風が吹いたより、よい影響があるかも知れない。そのことに、私と学生さんの意見は一致したのだが、(略)それにしてもミュージックは野菜よりも、土に影響するように、私には思えるのだ。野菜も生きているが、土も生きものだと思う

野菜や土に音楽を聞かせる。それによって作物の成長に影響するとは僕も本気で信じることは出来ないが、とにかくこの発想が面白い。何せ生来のナマケモノ体質のワタクシ、地味な草取りのような作業が大変苦手でその際はBGMがどうしても必要になる。ipodでこれまでは対応していたが、これからはプレーヤーを持ってきて野菜や土にも聞かせてあげようか知らん。農作業の楽しさが増すことは間違いないだろうし、作物や土への愛情もより深くなるはず。

そこで僕の農作業を充実させ、作物や土にも効く(?)アルバムを挙げてみたい。深沢七郎さんをちょっと意識してね。

①ブライアン・セッツァー『ロカビリーライオット』

エルビスプレスリーの登場は第二のキリストの誕生というほどのエルビスのファンだった深沢さん。このアルバムはブライアン・セッツァーが、そのエルビスを生み出したサン・レコードのロカビリーの名曲たちを、我々のようなリアルタイムでロカビリー黄金期を知らない者たちのために蘇らせてくれた快作。ノリノリの気分で作業を楽しもう!

②レヴォン・ヘルム『エレクトリックダート』

このアルバムジャケットの素晴らしいこと。映画「ラストワルツ」でのレヴォンとスコセッシのメンフィスについての対話より
レヴォン「国の真ん中あたりだろ。カントリーやブルーグラスがあの地でリズムとミックスされて様々な音楽がひとつになった」
スコセッシ「それで?」
レヴォン「ロックンロール!」
スコセッシ「になったのか!」
カッチョイイ〜!そんな南部の音楽を知りつくしたロックンローラーレヴォン・ヘルムの最後のアルバム。

③エリアコード615『エリアコード615/トリップ イン ザ カントリー』

爽やかな青空の下、このアルバムを聴きながら土いじりがしたい。60年代後半、ボブディランを魅了したナッシュビルの名うてのミュージシャンたちによるカントリーロックアルバム。ビートルズやオーティスレディングのカントリーアレンジなんかもがあって楽しい!

④アレサ・フランクリン『アメイジング・グレイス』

アレサの歌を聴くときははいつも音量を上げてその迫力に心を揺さぶられているのだが、農作業時には音量を控え目にしようか。近所の教会から聴こえてくる聖歌隊の歌声を感じながら農作業に勤しむ、そんなシチュエーションを想像しながら。歌声は自然と一体化し土や作物を心地よくさせるのである。

⑤ジミ・ヘンドリックス『ライブ アット ウッドストック』

深沢七郎さんはエッセイや対談でジミヘンのギターテクニックを絶賛している。屋外で聴くならやっぱりこれか。このライブでのヴードゥーチャイルドはなんとも呪術的。深沢さんは「土は神秘的」と言っているが、まさに土の精霊を呼び起こすような迫力。土よ、植物たちよ、さあ踊り狂え!

⑥フェイセズ『馬の耳に念仏』

ロッド・スチュワートのファンでもあった深沢さん。ソロのロッドも素晴らしいが、現在ローリングストーンズにいるロン・ウッドもいて、そして後年農場で音楽を作り続けたロニー・レインもいたフェイセズのこのアルバムを聴きたい。特にロニー・レインがリードヴォーカルをとった「デブリ」で途中から絡むロッドのコーラスには胸がキュンとさせられる。そして誰もがきっと楽しい気分にさせられる「ステイウィズミー」etc‥地味な作業に退屈さを感じたときはこのアルバムで気持ちのギアチェンジ。

⑦ジェシ・エド・デイビス『ウルル』

ネイティブアメリカンのギタリスト、ジェシエドデイビスの傑作アルバム。まさに土の香りを感じさせてくれる名盤。ぶっきらぼうなヴォーカルだがズシズシと重く心に響いてくる。そして唯一無二のスライドギターの音。つかの間の休憩に涼やかな風と共に流れてくる「ウルル」を聴くことの心地よさ。想像しただけでたまらない。

⑧ボブ・ディラン『奇妙な世界に』

太陽が南西のあたりに来て、風もひんやりし始めるころ、ボブディランのこのアルバムをかけよう。
以前、深沢七郎さんが公害問題について、「アブラムシにテントウムシという天敵がいるように人間にも天敵がいるのはいいこと」というようなことを言っているのを読んで目から鱗が落ちた。そして現在も地球温暖化にコロナウイルスと新たなる天敵に我々は翻弄され続けているのである。このアルバムが出たころ(1994年頃?)、作家の山川健一さんが「きっとディランは本当に世界は間違った方向に行ってしまったと思っているのだろう」と書いていた。間違った世界、奇妙な世界に対してのボブディランの嘆きの歌、そして深沢七郎の人間滅亡の唄を聴きながら、無力な僕はただその日を懸命に生きることしかできない。

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