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「比較級」でなぜ躓くのか? それは文法がハイブリッドだから

西仏伊語に比べて英語の難しさについて、前々回は①綴り字と音、前回は②語彙についてそれぞれ書きましたが、3番目は文法です。前回の語彙がハイブリッドで難しいことと同様に、英文法も似たような事情でややこしくなっている面があります。

すぐに思い浮かぶ例は、比較級・最上級のつくり方です。

もともと、外国語習得では「日本語になくて、外国語にあるもの」は、習得が難しい、いわば「鬼門」になります。比較級・最上級もこのひとつです。

本来、日本語になかった文法表現であるばかりか、なんと!形容詞・副詞の形が変わる(日本語では、比較の目的では形容詞・副詞は変化しません)、しかも変化の法則が一通りでなく複数ある、となると、ここで多くの初学者が躓くとしてもおかしくありません。

とくに戸惑うのは、比較級・最上級にするために語尾が-er, -estに変化するものと、前にmore, mostをつけるものの2つがあることではないでしょうか。

語尾に-er, -estをつけるやり方は、ドイツ語やオランダ語と同じです(ちなみに、ドイツ語やオランダ語は、1音節でなくどんな長い形容詞でも、今も-er, -stをつけます)。英語の「やまとことば」にあたるゲルマン語起源の系列(古くからある、多くが短くて簡単な語彙)は、基本、 -er, -estが付く形の変化です。

一方で、形容詞・副詞の前にmore, mostのような副詞をつけるのは、西仏伊語と同じやり方です。前回、見たように、フランス語起源など古英語よりあとに加わった語彙には、「長くて難解な」ものが多いので、結果として長い形容詞・副詞にはmore, mostをつけることになります。学校文法で「2音節以上はmore, most」と教えるのはこのためです。

英語の比較級・最上級の作り方について、簡単ですが「原則」と「例外」について以下に箇条書きにまとめました。

<原則>=学校文法での説明
・単音節の語には、語尾に-er, -estをつける。
・2音節以上の語には、前にmore, mostをつける。

<例外>
(1) good, well, bad, farなどは固有の変化(=不規則に変化)。
 ⇒good, well, bad, farは古英語由来。
(2) superior, inferior, major, juniorなどは変化しない。
 ⇒これらの語はもともとラテン語の比較級。すでに比較級なのでこれ以上の変化はしない。
(3) apt, clearは単音節だけれども、-er, -estのほかに、more, mostをつけることもある。
 ⇒apt, clearともラテン語・フランス語由来。
(4) real, promptは単音節だけれども、-er, -est ではなく、more, mostのみ。 
 ⇒real, promptともラテン語・フランス語由来。
(5) happy, prettyは2音節だけれども、-er, -estに変化。
 ⇒happy, prettyは英語プロパーの語。
(6) friendly, handsomeは2音節で、-er, -estと、more, mostの両方がある。 
 ⇒friendly, handsomeは英語プロパーの合成語由来。
(7) common, simple, quietは2音節で、-er, -estと、more, mostの両方がある。 
 ⇒common, simple, quietともラテン語・フランス語由来。

ただ、こんなに例外があるものの、それにもかかわらず、なんらかの傾向があることがぼやっとわかります。ただ、要因はひとつだけではありません。

まず、(1)(2)の例外は、西仏伊語にも同様の現象がありますから、ここは個別に覚えた方が早道です。

(3)以降について見ますと、(イ)英語プロパーの語には-er, -estを語尾につける、(ロ)ラテン語・フランス語由来の語には、前にmore, mostをつける、という原則がひとつの軸としてうっすらと浮かび上がってきます。

ただし、この一方で、単音節 vs. 2音節以上のルールも侮りがたいものがあります。

といいますのも、西仏伊語をメインでやっている者からみれば、ラテン語・ロマンス諸語由来の語彙と、それ以外のゲルマン語系の語彙について見分けがつく場合がかなり多いのですが、英語オンリーでやっていてこれを見分けることは無理です。そうすると、「単音節(≓短くて簡単なゲルマン語由来の語彙)」vs.「2音節以上(≓長くて難しいラテン語・フラン語由来の語彙)」の2つに分けて判断することにはそれなりに便利です。

ただし、問題なのは、英語の「やまことば」にあたるゲルマン語系の語は単音節の語が多いだけでなく、一方でラテン語・フラン語由来の語にももちろん単音節の語はあることです。ここで、比較級・最上級をつくる2つのルールが衝突して、混乱が起こることになります。

この衝突・混乱がとくに著しいのが、2音節の語についてです。(5)(6)(7)の例外を見ると2音節の語には両方のルールが混在している状態です。このあたりのグレーゾーンは、その語の出自と日常的な使用頻度の判断軸が入り混じって、英語母語話者にも「揺れ」がある、言い換えれば混乱がある様子がよくわかります。

このように、形容詞・副詞の比較級・最上級のつくり方を例に挙げましたが、文法の面では、このほかにも、名詞の複数形のつくり方(語尾にsをつける方法ではなく、語幹や語尾が変化するもの。たとえば、tooth⇒teeth、ox⇒oxen、woman⇒wemenなど)、名詞を修飾する形容詞の位置(通常は、名詞の前に置くが、金融用語などで形容詞を後置するものがある)などのケースも、2つの文法ルール体系が混じったまま現代まで残っているものです。

外国語として身につけようとする者にとって、ことばのルールである文法はシンプルであればあるほどよいわけですが、たかが比較級・最上級とはいえ、過去のいろんないきさつが、ここまで混乱したままで現代に持ち込まれているとなると、中学生たちだけでなくおとなですら面食らうのは、しごくあたりまえのことですね。

このほか、前々回の綴り字と音との関係が薄いところで一言触れましたが、最近流行の外国語「会話」について言えば、英語の発音はとにかく難しいです。スペイン語、イタリア語の発音の方がやさしいです。

以上、3回にわたって、いまや国際実用語となった英語の、西仏伊語から見た難しさについて書きました。もちろん、それぞれの言語にはそれぞれ特徴的な難しさがあるものですが、やはり英語は「やればやるほど難しい」「キリがない」というのが実感です。英語で挫折する人が多いとしても、その責任の一端は英語にもあると思います。

少し長くなってしまいましたが、お読みいただきましてありがとうございました。

英語が国際実用語である以上は、どうしても使わなければならない場面も出てきます。その際に、どうしたらよいか、の考え方については、また、機会をあらためて書きたいと思います。

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