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『欠陥だらけのユートピア。』(オリジナル短編小説集)

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過去に書いた短編小説のまとめです。欠陥だらけですいません。 目次 ①ロスト・ファンタジー(SF小説) ②InfiNight Killed the Radio Star(ホラー小… もっと読む
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【短編小説】ロスト・ファンタジー

 ファンタジーは潰えた。  古代から現代までの歴史において未開の土地なんてものは既になくなり、全ての謎は科学によって解決されていく。今となっては宇宙や深海でさえもその限りではない。  俺たちは、そんな搾りカスのような「失われた世界」の中で生きている。  俺は、人の世界観を覗く事が出来る。 「ねえ聞いたー? 新曲!」 「聞いた聞いたー、やっぱり彼女の世界観は最高だよねー」  教室の後ろから聞こえてくる姦しさから避けるように、俺は机に覆い被さるような姿勢でイヤホンを耳へと入

【短編小説】InfiNight Killed the Radio Star

「ーーこんなこと言ったら俺、また変なキャラ付け始めたんじゃないのかなんて言われると思いますけど、俺、実は見えるんですよね。ユーレイ」  誰もいない密室で男は雄弁に物語る。しかし、それは決して気が狂ったというわけではない。 「これリスナーの皆さんはまた川辺、会社の人間誰も聴いてないからってまたテキトーなこと言い始めたなんて思ってるんでしょうけど、残念ながらこれ、ホントのことなんですよね」  ここはとある地方の小さなラジオ局。そして川辺はそのラジオ局のパーソナリティーを務め

【短編小説】3泊4日のいちご狩りツアー

 図書館には死が詰まっている。  僕たちはそのたくさんの死を人生の中で学んでいく。そしてそれを超えた「死」を行える保証もなく、平等に死んでいくのだ。 「……レポートなんて書く意味、あるのかな」  誰も居ない市営の図書館の中で、僕はため息交じりにそう呟く。高校受験を控えた夏、唐突に出された理科のレポート課題を前にして、僕はどうにも気が乗らないでいた。  誰も僕がアインシュタインのような世紀の大発見をするなんて期待はしていない。そう思った瞬間、目の前のレポートが資源の無駄にし

【短編小説】心のナイフ

〇あなたはいつも僕らの上に立って「みんなは平等だ」なんて言っています。 〇今にして思えば、何で真実を告げはしないのでしょうか。それが僕には理解出来ませんでした。  息を吐けば白い煙が淡くもその姿を見せては消えていく。俺はそれを見てまたこの季節がやってきたのか、とため息をついた。  教室に今年から設置されることとなった暖房に期待を寄せつつ、昇降口を登って階段を上り始めた。中学校とはいえかなりの好待遇だろう。 「久しぶり」  進級してからあまり話すことがなくなった知り合いに