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ソアリンにあるラテン語読んでみた

こんにちは。今回はディズニーマニアである自分がソアリン(東京ディズニーシーにある、空を飛ぶアトラクション)の待機列エリアにあるラテン語で書かれた写本の解説をしていきます。私は本当にディズニーパークが好きで、年に数回は行きます。ディズニーパークはさまざまなこだわりがあり、ラテン語のようなマイナージャンルを専門にしてる人でも注目できるポイントがあるのもパークの魅力の一つだと思います。さっそく写本を見ていきましょう。この写本があるのはオベリスクがそびえたつ、天井が高い吹き抜けの部屋です(ロタンダと呼ばれるところ)。

ロタンダにある写本(隠れミッキーもあります!)

この絵の下にあるイタリア語で書かれたキャプションは、「有人飛行は新たなる高みへ射出させる 1300年頃 (Il volo umano catapulta a nuove altezze Circa 1300)」という意味です。catapulta「射出させる」は他動詞なので目的語が必要なのですが、この文には見当たらずこのような訳になりました。仮にil volo umano「有人飛行」を目的語と解釈すると、今度は誰(なに)がcatapultare「射出させる」かという問題が生じます。
もしかしたら、catapultareは自動詞のつもりで書かれたのかもしれません(おそらくアメリカで働いているスタッフがこのアトラクションを考えたと思われ、英語ではcatapultは他動詞でも自動詞でもあるのです)。イタリア語の場合、「射出される」と言いたい場合はcatapultareではなくcatapultarsiを使います。仮に自動詞のつもりでcatapultareを使い、このイタリア語のキャプションが書かれたのであればその意味合いは「有人飛行は新たなる高みへ射出される」となります。
本文のラテン語を読むつもりが序盤に脱線してしまいました。今度こそラテン語を読んでいきましょう。

一文ずつ見ていきます。原文の次に書いた日本語は「このラテン語を書いた人はおそらくこう言いたかったのであろう」という訳になります。

Miles volandi cupidus et laudem adsprans alas exemplo suo ratione sua construxit, ut moenia castrorum transvolaret.「飛びたがっていて、また賞賛を得ようとしている兵士が、城壁を飛んで超えるために自分のやり方で翼を組み立てた。」
まずet laudem adspransは 、正しくはet ad laudem adspiransになります。adの代わりにinを用いてもいいです。
exemplo suoとratione suaは訳に悩みました。exemplumもratioも「方法」という意味なのですが、別々の意味で訳そうとすると、ratioは「理論」という意味もあるのでexemplo suo ratione suaは「自分の方法で、また自分の理論に従って」と訳すこともできると思います。
第2文に行きましょう。

Auxilio tormenti adhibito alae eius tanto valuerunt, ne supra castra elevatus umquam videretur. 「射出機の助けを借りた彼の翼の効果は、彼が城塞より高く上がり決して見えなくなるほどであった」
ここで問題になるのがtanto… ne…という構文です。正しくはadeo valuerunt ut nonという構文になります。neを使うのは「~しないように」という目的を表すときです。またtantoを何かと呼応させて使いたいときにはquantoやquantumと一緒に使います(例: Quanto erat in dies gravior atque asperior oppugnatio, tanto crebriores litterae nuntiique ad Caesarem mittebantur「攻囲が日ごとにより激しくより苦しくなるほど、それだけ頻繁に手紙や伝令がカエサルへ送られた」)。この写本の第2文にあるneを目的を導くneと解釈することは難しいと感じます。というのもこの文のtantoという語は結果文を導くtantumを想起させるので(私の訳も、tantumを使いたかったのだろうと解釈して訳しました)、目的文でなく結果文のつもりでこの文を書いたと解釈するのがより自然だからです。
絵の下部にある第3文に行きましょう。

Certe non solum impulsione utatur, ut supra loca proelii aciesque se moveant aut castra oppidaque invadant. 「もちろん、戦地や戦列の上に移動したり陣営や要塞都市を攻撃するために空気の力を利用するのは一人ではなくなってほしい」
non solumはnon solusにすべきです(次の文の意味を考えると、この文は「飛ぶ兵士は一人でない」ことを強調したいのかなと思います)。solumは中性なので、今回のように人間に対して中性を使うのは皆無とは言わないまでも普通はあり得ないことです。
また、"utatur"と接続法が使われています。接続法には可能性などいろいろな意味合いを表しますが、願望と解釈しました。
そして急にmoveantやinvadantと複数形が出てきますが、ここは単数にすべきです。
最後の文へ行きましょう。

Tormento machina volandi iuncto unusquisque miles quavis figura omnia moenia oppidaque transvolet.「飛行の器械によって射出機が結合され、各々の兵士は思い思いの姿勢であらゆる城壁や要塞都市を飛んで越えてほしい」
tormento machina volandi iuncto「射出機が結合され」はどういうことを言おうとしてるのか理解するのは難しいです。射出機が結合されるとはどういうことでしょうか。また、machina volandi「飛行の器械」が何を指すのかも不明です。飛ぶ兵士が持っているのが飛行の器械だったとしても「飛行の器械」が射出機が結合されることにどういう影響を与えているのかが謎です。tormentumには他に「射出機から発射される物」という意味もあるのですが、この解釈は難しいと思います。なぜならtormento machina volandi iunctoという絶対奪格の主語は主文の主語と異なるものであるべきなので、射出機から発射される物は絵を見ると兵士であることが分かるので、主文の主語「各々の兵士(unusquisque miles)」と同じになってしまうのです。

以上になります。このラテン語を書いた人は基礎的な知識はあると思うのですが、おそらく長年ラテン語を書いていなかったせいか誤りが目立ちます。また、仮にこの作品に載るべきラテン語を考えた人を擁護するのであれば、「ラテン語書いた人とこの作品を作った人の伝達ミス」が考えられると言ってもいい気がします(つまりラテン語の案は正しくても、この写本を実際に作った人がスペルミスをして結果的に誤ったラテン語がアトラクションに飾られるようになった)。このような例は実際にフォートレス・エクスプロレーションにあります。ナビゲーションセンターにある地図に"FRETURN"と書かれていますが、これはラテン語fretum「海峡」の誤りです。この地図を作る過程でおそらく"m"がどこかで"r n"と誤読されたのだろうと思います。
いろいろ書いてしまいましたが、このラテン語を書いた人は間違いなくラテン語に本気で向き合ったと思われるレベルだったことは断言したいです。少なくともタワー・オブ・テラーの記者会見を聴く部屋にあるラテン語もどき"Draconi Dissoluti Perniciem Meritant"とは雲泥の差でソアリンのラテン語の方が優れています。
しかしながらディズニーパークは細部まで芸が細かいとよく言われているので、出来ればもっとラテン語の正確性にも気を配ってほしかったと思います(自分がディズニーファンでもあるので、「さすが、ディズニーはラテン語にまでこだわってる!」と思いたかったという気持ちもあります)。今後もディズニーパークにラテン語が増えることを願っています。ディズニーパークで見られるラテン語については、以前noteでこんな記事こんな記事でも書いたので、読んでいただければ幸いです。この記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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