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【その他の法務】プライベートを暴くということ(プライバシー権侵害)

今回はいわゆるプライバシーとか有名税とか言われることについての話です。

声優の下野紘さんのニュースがあって、結婚とかめでたいなと思うのだけれども、毎度出てくるのが他人のプライベート見て楽しいかなということ。

水川あさみさんのほうは、不仲とか書かれることについての法的措置なども書かれているところ。

誹謗中傷の相談対応をするときにも思うのですが、他人に対してあれやこれや中傷をする方のパワーはどこから来るのかなと疑問に思います。

遊戯王の海場瀬人役でも有名な津田健次郎さんなんかも結婚だとかの話は、家族にも迷惑になるからずっと隠していたという話もありました。

海外においてもパパラッチといわれ、著名人のプライベートを暴くことは問題にもなっているところですが、そういったタレント・芸能人さんたちのお悩みというのもよく聞くところです。

そんなわけで今回はそこんとこ書いてみます。

1 プライバシー権とは

明確にプライバシー権と定義されたものではないのですが、三島由紀夫氏の宴のあとという小説に関連した事件として、宴のあと事件判決(東京地判昭和39年9月28日:宴のあと事件判決)が参考にされています。

そこでは、プライバシー権について、「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と表現しています。

そのうえで、プライバシー権侵害の要件としては

①私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られる恐れのある事柄であること

②一般人の感受性を基準として当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること

③一般の人々にいまだ知られていないことがらであること

④このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたこと

この要件がすべての裁判において、必ず指摘されているわけではないのですが、こういった4つの要素を掲げることがプライバシー権侵害においては多くなされています。

そして、プライバシー権侵害として、過去裁判になっているケースを一部掲げると

・前科前歴情報
・疾病に関する情報
・私信
・住居情報
・各種個人情報
・位置情報
・収入や日常の購入など、経済活動にかかわる情報
・政治的活動に関する情報

などなど多くのトラブルが起きているところです(上記類型については、佃克彦著「プライバシー権・肖像権の法律実務(第3版)弘文堂」より引用)。

2 著名人であることでプライバシー権侵害は狭まるのか

プライバシー権に関する訴訟のなかで、報道機関側から出されるのが、

①著名人は、自ら世に出て有名になることにより、プライバシー権を放棄した
②著名人は、自ら世に出ることによって、プライバシーの公表に同意をした
③著名人の行為は公共性を有するから、公表が正当化される

こういった話が主張されることがままあります。

実際、アメリカにおいても、「自己の業績、名声又は生活方法により、もしくは、自己の行為または性格に対して公衆が興味を持つことを至当とするような職業を選択したものは著名人といわれ、隠して自己の持つプライバシーの権利の一部を失う」などという判示がされているようです(1950年米国:Chohen.vsMars事件判決)。

これは著名人の法理などという形で、著名人であるということから、プライバシー権侵害の範囲が狭まるという考え方になります。

しかし、これについて日本の裁判所はどのように考えているのでしょうか。

参考の一つになるのが、元プロサッカー選手である中田英寿氏について、同人の生い立ちなどを記した書籍出版に関しての裁判があります(中田英寿事件:東京地判平成12年2月29日)

この裁判において、メディア側は

「憲法上の表現の自由が優越的地位を占めていることからすると、プロサッカー選手になる以前の事柄であっても、社会通念上プロスポーツ選手であれば、その公表に承諾していると推認できる事項であればプライバシー権侵害にならないというべき」

と主張していました。

この主張に対し、裁判所は

著名人に関しては、その私生活上の事項に対しても世間の人々が関心を抱くものということができるから、その関心が正当なものである限り…(中略)…私生活上の事実を公表することが許される場合がありうる。

しかし、著名人であっても、みだりに私生活へ侵入されたり、他人に知られたくない私生活上の事実を公表されたりしない権利を有しているのであるから、著名人であることを理由に、無制限にこれが許容されるものではない。もっとも、国会、地方議会の議員や公職者ないしこれらの候補者等の場合は、民主政治の基盤を成す国民の判断の前提となる情報の提供という見地から表現の自由に対する保護が特に強く要請されるものであるから、これらの者については、私生活上の事項であっても有権者が正当に関心を抱くべき事柄として、これを公表することが許容される範囲も広いものと解することができる。

として、著名人であることから直ちに、プライバシー権侵害が狭まるという判断をしていません。

実際、プロサッカー選手について、政治家などとは同一に論ずることはできないとして、メディア側の主張を排斥しています。

そういうわけで、こういう判断からすれば、著名人であることからプライバシー権侵害が狭まるとはいえませんが、公表に承諾があったり、プライバシー権を放棄しているといえるような事情などがある場合には、権利侵害ではないと判断される余地は、一般の人々と同様に残っているところです。

3  まとめ

芸能人は世に出ることで名声を得るなどしているわけですが、だからといってプライベートを完全に売りに出しているわけでもないところです。少し前になりますが、深田恭子さんが適応障害を公表して休養するなど、精神的不調を訴える方々も少なくはありません。

誹謗中傷とはまた別の側面ではありますが、タレント・芸能人だからプライベートをむやみに暴いていいわけではないというのは当然のことだと思います。

冒頭の記事も法的措置を検討するということもありますが、最終的に裁判になった際、当該記事が違法とされたとしても、タレントが受けた精神的苦痛・損害に対する慰謝料が日本ではどうしても少ないと思われる(雑誌等が売れて得られる利益に比して)ことも問題であると考えます。

このあたりについては、表現の自由とも交錯する話ではありますが、立法的な措置含めて、検討が進められるべきであるとも思うところです。


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