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え、スタジアムって公益性ないの?

スポーツ関係者がざわざわするニュースがありました。

ざっくり言うと、市民団体が鈴鹿市に対し、市が、民間企業が市の公園にサッカースタジアムを建設するにあたって出した「公園使用料を免除した上での施設管理許可」を取り消すよう求めた、というものです。

市は、JFL所属サッカークラブ「鈴鹿ポイントゲッターズ」のスタジアム設置を支援するために許可を出したわけですが、そこに待ったがかかった、という具合。

このお話には前段があります。

今年1月27日、宇都宮地裁で「栃木市がサッカースタジアムの設置会社に対して公園使用料や固定資産税を免除することは違法」という判決が下されました。

栃木市も鈴鹿市と同じく、地元のサッカークラブ「栃木シティFC」のスタジアム設置を支援するためにこういう措置をしたんですが、これが違法と判断されています。

この記事では、そもそも何が起こっているか、法的にざっくりお話ししようと思います。

公園使用料って何?

まず、公園使用料って何か。

公園(いわゆる「公園」というより、公共の緑地とか公園、くらいに思ってください。)の管理者(多くは地方自治体)以外の者が公園に施設を作ったり、管理しようとするときは、公園管理者(地方自治体)から許可をもらう必要があります(都市公園法5条1項)。

で、許可を受けた者は「公園使用料」を払う必要があります。例えば鈴鹿市の場合、1㎡当たり年額600円と定められています(鈴鹿市都市公園条例11条本文、別表第1)。

この公園使用料は「市長が必要と認める場合においては,使用料の全部又は一部を免除することができる。」とされています(鈴鹿市都市公園条例12条)。

固定資産税って何?

次に、固定資産税は、土地建物の所有者が地方自治体に払わないといけない税金です。税額は大体、場所や形状、面積などで決まります。

これについても、市長が認めた場合に減免されることがあります。例えば栃木市では、特別の事由があり、市長が必要と認めたものは固定資産税を減免できる、とされています(栃木市税条例71条)。同様の条文は、鈴鹿市税条例72条にもあります。

どのようなときに免除できるの?

このように、市長が認めれば免除できると書いてあるわけですが、もちろん市長の独断で出来るわけではありません。

本来、使用料とか税金は、市が集めて市民全体のために使うべきものです。なので、取るべきお金を取らないことが許されるためには、それに見合うような公益性があることが必要。そして、それが「特別の事由」の内容だと考えられます。なお、公益性があるかどうか、減免するかは議会できちんと議論することが多いです。

何で住民が取り消しを求められるの?

ただ、仮に市議会で決めたとしても、議会の決定は多数決ですから、違法な免除が通ってしまうこともあり得ます。

なので、住民は、違法・不当な「公金を取らないこと」等について議会に待ったをかけてくれるよう、地方自治体の監査委員に「住民監査請求」(地方自治法242条)をすることができます。

そして、それでも是正されないときは裁判所に「住民訴訟」(地方自治法242条の2)を起こして、取消や違法であることの確認を求めることが出来ます。

ここまでで今回の図式のまとめ

そこで軽くまとめると、栃木市の事案では、

①「スタジアム建設は公益性があって『特別の事由』があるから、運営会社から公園使用料を取らず、固定資産税を免除する」という(議会での議論を経た)市長の判断について

②住民が住民監査請求を経て、宇都宮地裁に住民訴訟を起こして「使用料を取らないことが違法であることの確認と、固定資産税免除の差し止め」を求めたら

③裁判所はスタジアム建設について(公益性に裏付けられた)「特別の事由」がないと判断し「使用料をとらないことが違法であることの確認と、固定資産税免除の差し止め」が認められた

そして、同じ方式をとっている鈴鹿市でも、住民団体が市に対して、仮に住民が監査請求を経て訴訟を起こしたら違法と差し止めが認められるんだから、今のうちに中止しようよ、と申し入れているわけですね。

スタジアムに公共性はないのか

さて、ようやく今日の本論です。

運営会社にとっては、スタジアムを持つには土地と建物が必要だけど、そんな大きな土地は無いから、自治体の土地を使いたい。でも使用料は高いし、スタジアムを建てたら面積は大きいから固定資産税も高い。

地方自治体にとっては、スポーツクラブを誘致して地域発展に繋げたいけど、自前でスタジアムを建てる金はない。

この両者がwin-winの関係で手を組めるのが、自治体の公園を使ってスタジアムを建ててもらい、使用料と固定資産税を免除する方式だったわけです。

なのに、こうやって違法だと判断されたら、今後どうやって地方のスポーツ振興を進めるのか、と頭を悩ます関係者も多いと思います。

しかし、私は、今回の判決で、一概に、この方法が否定されたわけではないと思います。栃木の事件の判決文はまだ公開されていないので、どういう主張がなされて、どこが判断のポイントになったのかは正確には分かりません。しかし、報道ベースでは、

・市側は、試合や練習場に使われることで経済効果やにぎわいが生まれるなどと主張したが、裁判所は、市による経済効果の試算に疑問を呈し「市内の年間消費額に大きな変化が生じるとは考えがたい」と判断した。

・市側は、市民の利便性や福祉が向上すると主張したが、裁判所は、土日6時間で18~60万円かかるサブグラウンド使用料や、以前は数千円で使えたグラウンドが廃止されたことも踏まえ、「利便は後退している可能性すらある」と判断した。

とされており、実際にスタジアムが市民のためになっているのか、ある程度具体的な数字に基づいて判断していると推測されます。

つまり、スタジアムが持つ公益的な価値(スポーツ振興、飲食、宿泊、観光等周辺産業へ経済波及効果、雇用創出効果など。)を否定しているのではなく、本当にそれがあるのか?と問うている。

今後、控訴の可能性もありますが、鈴鹿市だけでなく、他の自治体も、一審判決の判断要素に照らして、予定しているスタジアムはどうなのか、を内部で具体的に検討していくでしょう。それは、建設の失敗を予防するためにも必要なアクションだと思います。今回のことは、きちんと個々のスタジアムのポテンシャルを判断して進めるべき、という良い意味での警鐘と捉えるです。

栃木の事件の判決が出たら続報を出したいと思いますが、今日はこの辺で。









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