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石上と神室のミッシングリンク

2019年末にキービジュアルが公開された2年生編は「そして──この中にホワイトルームの刺客がいる」とのキャッチコピーの下、ミステリーのフーダニット(=Who done it)要素を大きく孕む展開となった。

明確なテーマ設定のため、日頃から考察をしない人も「誰がホワイトルーム生なのかを当てよう」と躍起になったのではないだろうか?

かくいう自分もその一人である。

新巻後に思ったことや感じたことを整理したり、本編に出てきたキャラの名前や誕生日などを記録したりというはやっていたが、日常的に考察をするタイプの読者ではなかった。好きなキャラの活躍が見れれば十分という感じだったのだ。

そんな自分がそれまでと大きく変わったと感じさせられたキャラとは2018年秋に表紙を飾り、このnoteのテーマにもなっている神室真澄だ。

本筋とは全く関係ないため、その理由や詳細などは全て割愛させていただくが、数年前から神室に対して強い思い入れがあったのは事実である。

そういう経緯があったからこそ、特典ssや特典付録を収集し、この仮説に思い至れたのであろう。

前置きが長くなったが、本文に入るとしよう。

(最終更新:2023/2/14 02:32)

仮説の内容

石上と神室の間にはミッシングリンク(missing link)が存在する──つまり、2人の間には読者に明示されてない繋がりがあるという仮説を提唱したい。

以下、根拠とその詳細を述べていく。

本当は否定根拠も載せたいのだが、あまりにも出来すぎていて、これは否定根拠だろうというものがほとんど見つけられていない状況である。

筆者の力不足をご容赦頂いた上でお読みいただきたい。

肯定根拠①:石上の初登場巻は神室がイラスト化&カバーイラストを飾った1年生編9巻である

石上は謎の電話主としてよう実に登場し、2年生編の今では重要キャラとなっている。

そして、石上からの電話があった直後の章神室の秘密が回想形式で明かされている。

つまり、石上と神室を物語でどう扱うのかについて、作者が同時期に考えていたと言えるわけだ。

肯定根拠②:神室は坂柳の指示で夜のうちに1年生のポストに一之瀬を告発する紙を投函した可能性が高い

紙の投函に気づいた生徒たちで騒然となっていたとき、葛城は神室に対して鋭い視線を向けていた。

この紙が仕掛けられていたのは、ほぼ間違いなく深夜。誰もが寝静まった夜中だろう。朝、ポストをチェックする生徒はかなり限られているため発覚は帰宅の放課後になる。あとは誰かが見つけて、一之瀬の耳に入るのを待つだけ。
動揺するBクラスの生徒を注意深く見ている女子がいた。
葛城は、その女子を鋭い眼光で睨み付けるように見た。
1年Aクラスの神室真澄。坂柳の傍について回る女子だが、今日は一人のようだ。
「神室がどうかしたのか?」
「いや……なんでもない」

9巻, p103

この描写から、紙をポストに投函したのは神室と考えてほぼ間違いはない。

つまり、神室はこの日の前日の深夜、寮のポスト近くにいたことになる。

肯定根拠③:一之瀬を告発する紙が投函された日は石上が綾小路に電話を掛けた日の翌日(時間帯的には当日)の放課後である

まず、紙がポストに投函された日は金曜日である。

神崎と橋本の接触から今日で4日目。金曜日。
一之瀬に対する噂は日増しに広がり、今や全校生徒が知っていると言っても過言ではない状態にまで広がりを見せていた。

1年9巻, 一之瀬の秘密、神室の秘密

そして、石上からの電話があったのは木曜日である。

木曜日の夕方。オレは帰宅中の一之瀬の背中を見つけた。いつも男女問わず沢山の生徒に囲まれていることの多い一之瀬だが、今日は珍しく一人らしい。

1年9巻, 変わらないつもり

もっとも、オレが確認したいのはそれらの一般的なことではない。
「今日もなし、か」
父親がこの学校を訪ねてきて以来、定期的に郵便物をチェックしている。何かしらの接触をしてきても、おかしくない時期だからだ。

1年9巻, 変わらないつもり

オレの周りが慌ただしくなりだした日常。自分からは積極的に、何かをすることはなく、周囲に流されるように過ごす時間。多少大変ではあるが、手にしたかった日常の形はこういうものなのかも知れない。ひとつの答えにたどり着きそうな予感。
しかし、そんな時に野暮な出来事が起こる。
夜。枕元に置いていた携帯が静かに振動した。時計に刻まれた時刻は、午前1時過ぎ。

1年9巻, 変わらないつもり

勿論、同じ章内で日付が変わる可能性はあるが、流れからして同じ日とみていいだろう。そうでなければ、章の最初に曜日を明記しない。

根拠根拠④:1年生編9巻の神室のss「神室の思惑」が意味深である

これは一之瀬の犯罪者告発の紙が投函されていた金曜日の放課後のこと。

神室は綾小路の後を黙ってついてきて、4階で一緒に降りると、脅しのような流れで部屋に強引に入る。

「話があるんだけど」
「出来れば、もっと早く言ってもらいたいもんだ」
「何、予定ある?」
「いや。立ち話じゃ困るか?」
「私冷え性だから。良かったら入れてくれない?」
良かったら、と言うが、もはやそれは入れろという半ば脅しでもある。

1年9巻, p104

本編だけなら、坂柳が回りくどいことをして綾小路に一之瀬を救わせようとしたと解釈できる。

しかし、そのときにメロンブックス特典として配布された神室のssには意味深な部分がある。

「どうとは?」
「そのままよ。犯罪者だって話、信じる?」
「さあ。それにも興味がないからな」
「興味がなくても考えるくらいするでしょ。一之瀬が善人なのか悪人なのか」
「犯罪者だからって悪人とは言えないし、犯罪者じゃないから善人だとは言えない」
揺さぶりを掛けていく。この男が、本当に使える男なのかどうか。
──それが私に課せられた使命。

1年生編ShortStories, p180

綾小路が本当に使える男なのか調べたいらしい神室。

何故だろうか?

坂柳から逃れたいと思っている神室が綾小路を利用して、自由になりたいということだろうか?

しかし、それが自分に課せられた使命とも言っている。

神室が神室自身に坂柳から逃れることを使命として課すというのは少し不可解ではないだろうか?

つまり、神室の裏に何者かが潜んでいることを示唆している。

勿論、坂柳に課せられた使命という可能性もある。

だが、今度は綾小路を使える男なのかを神室が調べたいと思っているところでややおかしなことが出てくる。

坂柳は綾小路の実力を強く認めている。一之瀬を救わせるのに綾小路が使えるかどうかなど分かっていることだろう。

まあ、これだけでは確証は得られないが、石上と神室が繋がっているなら、腑に落ちる描写であることは間違いない。

肯定根拠⑤:石上と神室が綾小路と初めて意思の疎通を行ったのはどちらも体育祭のときである

神室は1年生編5巻において、綾小路の前に姿を現した。

体育祭終了後、リレーの余波が冷めやらぬ中の綾小路はAクラスの神室に声を掛けられる。

告白かと思われたが、実際は坂柳の使いであり、綾小路を坂柳のいる場所まで案内しただけだった。

そして、神室を帰した坂柳はよく知られたあのセリフを発する。

坂柳「お久しぶりです、綾小路くん。8年と243日ぶりですね」

幼少期の綾小路とホワイトルームを知る特殊な生徒であることが判明した。

一方の石上は2年生編4.5巻において、堀北の前に姿を現したが、綾小路のいる場ではなかった。

綾小路の前に石上が現れ、会話といえるやり取りを初めて行ったのは2年生編6巻である。

体育祭の昼休み、坂柳クラス対策も兼ねて体育祭を欠席していた綾小路の部屋に同じく欠席者である坂柳が訪問し、普段はできない濃密な時間を過ごしていたところ、チャイムの音が響いた。

篤臣の指示で強制奪還に来た大人たちかと思われたが、その声の主は若く、綾小路が声だけを覚えている人物だった。

そして、「月城とホワイトルーム生を排除しても平穏は訪れない」という意味深な助言を伝えると、早々に帰っていった。

登場のタイミングは2人の関係を示唆しているかもしれない。

肯定根拠⑥:石上は坂柳理事長の用意したボディーガードに通行を許されている(更新あり)

体育祭の昼休みに扉越しに綾小路との会話を初めて行った石上。

寮のロビーにはボディーガードがいたため、綾小路の部屋の前に行くには彼らに通行を許されるような理由が必要である。

誰かが気を引いてそのうちにこっそり侵入する」という線は、ボディーガードが3人いたので現実的でない。

坂柳理事長の知り合いだから事情を説明した」という線は、文化祭のときも坂柳理事長は相変わらず篤臣による連れ戻しを懸念していたため、不自然な点がある。

「2年生と偽った」という線は、そもそもボディーガードとして危機管理が甘いと言わざるを得ないので可能性は低い。

すると、考えられる線は次の3つぐらいしかないのではないか?

(1)石上は高育関係者であり、身元が保障されているから
(2)石上は坂柳理事長よりも上位の権利者と繋がっていて、ボディーガードと取引が可能だったから
(3)石上には同行者がいて、それは2年生だったから

(1)はそれ以降の巻において、否定根拠が多くなり、0巻において不可能だと確定した。

(2)は不可能ではないものの、その権力者が不明だし、現状はご都合主義の感が否めない。

すると、現実的なのは(3)のパターンであろう。

2年生編4.5巻で神崎が石上を少なからず知っていることが描写されていたため、同行者は神崎なのだろうか?

勿論違う。

神崎は石上のことを良く思っていないし、仮に協力したとしてもそのことを綾小路や坂柳に打ち明けないのは神崎の正義に悖る行為だろう。

石上と神室が繋がっているなら、この謎は一気に解ける。

神室は坂柳に好きで協力しているわけではなく、できることなら解放されたいと願っているため、クラス戦以外で坂柳に義理立てする理由はないからだ。

「ふふっ、よくお分かりで。真澄さんの悪癖のように楽しめそうな人なのです」
そう言葉にした瞬間、真澄さんは私に詰め寄り胸倉を掴みあげました。 そして、まるで親の敵でも見るような目で睨みつけてきました。
「私はあんたみたいな人間を認めない。反吐が出る」
「それはおかしな話ですね。あなたこそ、人間を名乗る資格がある善人なのでしょうか?」
私は傍に立てかけておいた杖を手に取り、真澄さんの首横に突きつけました。
「私がその気になれば、今すぐにでもあなたを葬れますよ?」
「くっ!」
どれだけ強がって威勢良さを振りまこうとも、晒したウィークポイントは消せない。 神室真澄という少女は、既に私の手中にある。
「あなたは優秀な人材なのですから、こんな形で失わせないでください」
「……いつになれば私を解放するわけ」

コミックアライブ2017年10月号付録の書き下ろし小説小冊子内、『坂柳有栖の日常―期末試験の裏側編―』

わざわざ昼休みに寮に来た口実も「昔の知り合いの坂柳が急遽欠席したと知り、心配になって様子を見に来た。坂柳のクラスメイトである神室にお願いし、部屋まで同行してもらった」などが考えられ、石上ならボディーガードに対して事情を説明するときの自然な理由をいくらでも思い付くだろう。

ただ、先ほど例として挙げたものは体育祭後でも別に構わない用件ではあるし、そもそも学生寮に行けるのか?という問題は考えられる。

それは体育祭に以下のルールがあるからだ。

参加する競技を終えた生徒定められた幾つかの指定エリアで応援すること

2年6巻, p31

一見、学生寮に行くのは違反のようにも思えるが、応援とセットになっている。

昼休み中もこのルールが適用されるというのは考えにくい。

勿論、昼食場所はいくつか指定されているだろうが、学生寮に行けないことが確定しているわけではない。

さて、体育祭の欠席者にもルールがある。

龍園「今回のルールを見てなかったのか?体育祭に不参加の時点で寮に待機だ。携帯も使えない以上Aクラスの頭は完全に機能しないってことだ」

2年6巻, p213

表向き病欠扱いのオレは部屋の外に出ることは固く禁じられている
一方、坂柳も寮から出られないわけだが、病欠、という形での欠席ではない。万が一出歩いたことを注意されることはあっても、休んだ理由に反することにはならないからな。

2年6巻, p301

欠席者は学生寮から出られないが、出席者にも適用されるとは解釈できない。

したがって、体育祭参加者が昼休み中に学生寮に行き、そこから戻って午後も体育祭に参加するのは可能だと言える。

石上と神室が繋がっているなら、2年生の学生寮に行き、神室と一緒に坂柳の様子を見に行くという体で寮に入るのは不可能ではなく、石上がボディーガードに通行を許されていることとの辻褄は合う。

肯定根拠⑦:石上は綾小路に電話を掛けた直後に不都合なことが起きたと明かしていた(更新あり)

綾小路「あの時は用件らしい用件を言わなかったな」
石上「かけたのは良かったが、直後不都合なことが起きた。それ以来連絡は取らなかったが……気になるだろうが、俺が何者であるかは関係ないことだ。何故なら、おまえにとって敵でも味方でもないからな」

2年6巻, p315

このように石上について真面目に考えたことがあるなら、考慮せざるを得ない描写がある。

この問題については2年生編4.5巻の星之宮のことを示唆していると解釈する人が圧倒的だった。

「というか、さっきのカッコいい子って……えーっと、誰だっけ~。どっかで見たことある気がするんだけどな」
「1年Aクラスの石上です」
え?1年生?って、まぁ2年生や3年生なら知ってて当然なんだけど……」
「どうかしたんですか。彼について思うことが?」
「うーん、なんか結構前に一度学校で見かけた気がするんだけどなあ……見間違いかも。ってごめん堀北さん、私ダメみたいっ!」

2年4.5巻, p292

・星之宮が2年生や3年生だと勘違いした
年度が変わる前に石上を見かけた

・学校で見かけた
=石上は学校の敷地内にいた

というわけで石上の不都合なこととは「星之宮先生に姿を目撃されてしまったこと」と解釈されているわけだ。

だが、石上が電話をかけたのは深夜

街灯、もしくはコンビニなどの深夜営業店の近くでもなければ、星之宮は石上の顔をはっきりと認識できていないだろう。

これには3つの疑問が考えられる。

・そんな危険を石上が冒すのか?
・星之宮は石上に気付いたときに全く声を発しないような性格なのか?
・星之宮はその日の夜中に外出していた根拠はあるのか?

つまり、石上に起きた不都合なことは以下の要素を満たす。(ただし、誰かに遭遇したということだけは仮定する )

・遭遇者は暗い場所もしくは薄暗い場所にいた
・遭遇者は冷静な性格か、寡黙な人物
・遭遇者は深夜外出する用事があった

根拠②③④などを振り返ると、神室はこの条件を全て満たしていることが分かる。

つまり、石上は暗い場所にいた神室と遭遇してしまい、人に目撃されてはいけない用事だったために息を潜め、1分弱様子を見た後に電話で綾小路の名前を呼んで切ってから、神室に接触をした。

一方の神室は石上を生徒だと勘違いした。用事の最中ではなかったものの、他人に深夜の外出を目撃されたのは都合が悪い。

しくじったと思ったが、万引きで鍛えられてきた冷静さで声などには出さない。石上が近付いてきたことで口止めを交渉するしかなかった。

高身長で上級生にも見える石上は3年生を装って神室にフランクに話し掛けると、1年生である神室は必要最低限の敬語で対応。

神室と綾小路が同学年であることと、何か訳があることを知った石上は神室を目撃したことを秘密にする代わりに連絡先の交換を要求した。

おそらく、こういう経緯だろう。

また、石上がそれ以来綾小路と連絡を取らなかったということは名前を呼んで存在を知らせることが目的だったか、もしくは直後の不都合なことを有効活用するプランに切り替えたかのどちらかだろう。

石上と神室が繋がっているというのは後者にあたると考えられる。

石上は万引き常習犯のスリル中毒性を利用し、坂柳にバレないギリギリのラインで指示に従うというスリルを神室に提供したのだろう。

肯定根拠⑧:坂柳は修学旅行中に石上のことを綾小路に明かした

「この修学旅行中に色々と分かったことがありまして。学校に戻る前に、体育祭で綾小路くんに接触してきた人物のことでお話をしておこうと思ったんです」

2年8巻, p291

坂柳は修学旅行中に色々と状況を理解し、石上について綾小路に話すことを決めた。

何故このタイミングなのか些か疑問を覚える。

そもそも石上を通したボディーガードに話を聞けば、石上を当然視認しているのだから特定など1週間もあれば十分だ。

坂柳が単なる生徒なら質問に答えないかもしれないが、ボディーガードは坂柳理事長が手配した人物だ。その愛娘である坂柳の質問に正直に答えるぐらいはしていいはずだろう。

それなのに、坂柳が綾小路に石上のことを明かしたのは体育祭のあった10月から1ヵ月以上経過した11月下旬。

綾小路と気軽に接触できる立場ではない以上、会話のタイミングを窺う必要はあるが、坂柳が直接綾小路に会いに行く必要などない。

神室か橋本を使えばいいだけだ。橋本が信用ならないというのなら、1年目の体育祭のときのように神室を使いに出せば済む話。

つまり、綾小路に関することを神室に頼むのは坂柳にとって何らかの不都合が生じたと考えられる。

また、坂柳は綾小路の電話番号を知っているのだから、寮にいるときに直接連絡を取ってもいい。

夜中、オレのもとに1本の電話が入った。
「おまえから電話をかけてくるなんて珍しいな、坂柳」

2年7巻, p174

そういう状況にありながら、坂柳は電話で体育祭のときの訪問者が石上だと明かさなかった。

坂柳にとっても理解の及ばない事実が判明したのではないか?

神室が石上と繋がっていて、坂柳にそのことを内緒にしていたと考えれば以上の全てが腑に落ちるだろう。

肯定根拠⑨:石上は修学旅行中の坂柳からの電話を予期していた

坂柳が石上に確認の電話を掛けたとき、石上はやや意味深なことを言っていた。

そろそろ電話が来る頃だと思ってた。坂柳』
「随分と察知が早いんですね」
『1年生以外の誰かが俺の番号を求めてきたら、報告するように前もって伝えていた』
「流石と言っておきましょうか。あなたの噂は内外から聞いていますよ」
「もっと早く私に声をかけてくださっても良かったのではないですか?」
あえて接触を避けていたんだ。おまえも俺に関わる必要はないんじゃないか?』
「そうは参りません。今後、あなたが綾小路くんの前に立ち塞がるのか否か、それだけは確認しておかなければならないと思いましたので」

2年8巻, p305

坂柳が石上に関して電話を掛ける用があるとすれば、体育祭での訪問くらいだろう。

だが、坂柳理事長の用意したボディーガードから石上のことを聞き出せたはずの坂柳は、修学旅行中に電話を掛けている。

石上がこのタイミングを予期していたというのは一体どういうわけなのだろうか?

この時点では坂柳と一対一で通話していると考えているだろうし、綾小路に自分のことを話している場面という想定が念頭にあるわけではなく「随分と電話を掛けてくるのが遅かったな」などが妥当なセリフではないだろうか?

『俺のことを伏せろというつもりはない。遅かれ早かれ綾小路は俺の存在を知る。だからおまえが警告しろ。この学校生活を守るために何が最善の選択であるのか。いや、今もし通話を聞いているのならその必要もないか』

2年8巻, p306

石上が神室と繋がっていたとすれば、坂柳はその可能性の裏を取るために時間を要し、神室を問い詰めるタイミングとして修学旅行を選択すると予想するのはそんなに難しいことではない。

安易に神室を問い詰めて、石上のサポートを受けているかもしれない神室に白を切られてしまえば真相は闇の中に葬りさられてしまう可能性が高いからだ。

肯定根拠⑩:石上は坂柳が自分を止められるわけがないと考えている(更新あり)

坂柳は石上が綾小路の前に立ち塞がるのなら、自分が阻止すると言ったが、石上はその発言を不可解とでも感じているような様子があった。

『おまえが俺を止める?そんな無駄なことをするくらいなら無視すべきだろう。俺は綾小路先生に勧められてこの学校を選んだ。普通の学生として過ごすためにな』
『この学校で綾小路を消す可能性は今のところ無いと考えてもらって結構だ』

2年8巻, p305

石上と神室が繋がっていて、坂柳がその事実に気付くことが遅れたり、関係を終わらせることに失敗したりしているなら、石上のこのセリフの意味がよく分かる。

つまり、「きっかけはどうであれ、俺の協力者が近くにいることになかなか気づけなかったおまえが俺を止めるとは一体どこから湧いてくる自信なんだ?」と石上は言いたいのだろう。

「普通の学生として過ごすつもり」だから無用な警戒とも解釈できるが、石上は佐藤を脅させるなど綾小路に対してメッセージ性を孕んだ行動を取っている。

綾小路が側で聞いている可能性にすぐに思い至ったことからも、坂柳本人にしか理解できないようなメッセージを発している可能性は十分にある。

肯定根拠⑪:石上と椿は佐藤周辺の恋愛事情を知っていた

石上たちは八神の排除目的で綾小路を利用するにあたり、佐藤の恋愛事情を利用して脅しをかけていた。

「どういう意味か分からないんですけどー。なんてね」
佐藤はケヤキモールの女子トイレ近くで椿に声をかけられたらしい。そこでオレと恵の関係自分の立ち位置などを含め好転する材料をちらつかせ好奇心を擽った。
「佐藤を自分の部屋に呼んで安直な脅迫をしたようだが、それは本気で佐藤を操ってオレたちの関係を壊させようとしたんじゃない。脅してきたことを間接的にオレへと知らせることで行動を、つまり対処をさせたかったからだ」

2年7巻, p314

石上たちが佐藤の恋愛事情を正確に把握しているというのはやや引っ掛かる部分がある。

椿が探ったということも考えられるが、1年生と2年生で学年が異なることに加え、佐藤は椿のことを全く知らなかった。

佐藤が椿に気付かないのは仕方ないかもしれないが、佐藤以外の生徒たちには椿の姿が不自然に映るのではないだろうか?

女子の情報網を考えればどこかで引っ掛かってもおかしくない。

椿か誰かの隠密スキルが山村レベルなのだろうか?


実はそんなことを想定する必要はない。

体育祭の昼休みでの坂柳の会話を思い出そう。

「彼女のことも調べられる限り調べました。放課後の過ごし方から休日の過ごし方まで。今の綾小路くんは容易に後を付けることも出来る状況ですし」
3年全体が監視をしている以上、いちいち気を配ることはしていない。坂柳の密偵が紛れていたところで区別することは困難だ。以前尾行に気が付いた橋本、あるいはそれ以外の人間がいたとしても識別は出来ない。
「何故綾小路くんが彼女と付き合うことを選んだのか、その真実までは突き止められませんでしたが、見えてきたものもあります。強い信頼と愛情を向けている彼女の行動は、まるで盲信とも言える。この先彼女を利用して何らかの実験でも行うのか、あるいは救済をしようとしているのか。そのようなところだと推理いたしました」

2年6巻, p313

つまり、坂柳は密偵を使って軽井沢のことについて徹底的に調べあげていた。

綾小路を尾行していたのは同じ男子である橋本だろうが、軽井沢を尾行していたのは女子である神室である可能性が高い。

山村も考えられるが、坂柳は山村に天沢の尾行を指示している。いくら陰が薄いからといって山村にホワイトルーム生である天沢以外の尾行も任せるのは得策ではないだろう。天沢が疎かになっては意味がない。

「ひとまずご苦労様でした真澄さん」
自分の役目が終わったことで、神室はすぐにこの場を立ち去った。その後坂柳は携帯電話を取り出し、一本の電話をかける。
「引き続きお願いできますか?」
携帯で天沢を見張り続けることを電話相手に依頼し、最後に一言付け加える。
「やはりクラスで頼りになるのは山村さん、あなただけのようです」

2年4.5巻, p112

したがって、軽井沢に関する情報は神室が持っていると考えていい。

軽井沢と佐藤は仲が良いので副産物として佐藤の情報もあるかもしれない。

もし、石上と神室が繋がっているなら、神室の持っている情報を聞き出すことに何の障害もない。

繰り返すが、神室は坂柳のことを良く思っていない。

自分のクラスが不利になるならいざ知らず、軽井沢の恋愛事情を他人に横流したところで神室や神室のクラスが不利になる可能性は極めて低いだろう。

また、万引きの常習犯であり、モラルへの関心が低い神室なら尚更石上に情報提供することに迷いを感じる可能性は低い。

「万引きを見逃すどころか、もっとやってもいいって?」
「どうされるかはあなたの自由です。その部分に私が関与することはありません。そもそも道徳的にあなたに犯罪行為はダメだと訴えたところで、心に響かせることができるはずもない。違いますか?」
「それは、まぁね……」

9巻, p116

肯定根拠⑫:一之瀬降ろしの阻止について坂柳は解けない謎があると言っていた

「安心してください。今は誰も連れていません。実にお見事でした。綾小路くん」
「何の話だ?」
「私の気づかないところで、水面下で動いておられたようですね。幾つか解けない謎は残っていますが、答え合わせを求めようとは思っていません。ただ、何故一之瀬さんを守ろうと思ったのか、その点だけが気になったんです」
「待て。話が見えない」
「あなたが一之瀬さんを救ったからこそ、彼女はあの場で開き直り……いえ、立ち直ることが出来たとしか思えません。恐らく彼女は、あの場で初めて過去を告白したのではなく、事前に口にしていたんでしょう」
「その相手がオレだと?」
「そうです」
「オレを動かすために神室を使っただろ」
「神室さんを?」
「一之瀬が万引きをした過去。その話を明確にする前に、オレだけに流した」
「あれは彼女が勝手にやったことです」
「いや、それは違うな」
「何故そう言いきれるのです?」
どうやら、答え合わせを求められているのはオレの方らしい。

1年9巻, p219-220

坂柳は一之瀬を救うことについては神室が勝手にやったと言ったが、直後でそうではないと認めている。

これは別にいい。

少しだけ引っ掛かるのはそれ以外にも解けない謎が残っていると解釈できること。

石上と神室が繋がっているなら、その謎に関与しているかもしれない。

肯定根拠⑬:公式サイトの神室のセリフで誰かの遊びに付き合わされていることが示唆されている

「また面倒なことに私を巻き込むつもり?あんたのお遊びに付き合うのはうんざりなんだけど」

シンプルに考えれば、「あんた」とは坂柳のことだが、神室は男子のことも「あんた」呼びする。

「もしかして警戒してる?」
「警戒しない方がおかしいだろ。親しくもない女子、しかも敵であるAクラスの生徒が部屋に上がり込んできたんだ」
あんたのとこの山内とは違うわけだ」

1年9巻, p106

「そうね。そろそろ行きましょう。ここで彼と話していても時間の無駄よ」
あんた嫌われたんじゃない?」
空気の悪さを弄った神室に橋本がわざとらしい溜息を吐く。
「かもな。何となく聞いてみただけなんだが……。ま、精々頑張るんだな」

2年7巻, p33

石上と神室が繋がっているなら、神室は入学前に学校内にいた石上を異質とは思いつつ、「あんた」呼びや無愛想な態度でストレスを軽減していると考えられる。

肯定根拠⑭:衣笠先生が神室の出番があることを断言している

とりあえず、画集第2弾から該当部分を引用していく。

担当:神室のデザインについては、何か指定などあったんですか?
衣笠:これは俺覚えてます。本文でも書いたのかな?ちょっと堀北っぽいキャラっていうのは言った気がします。
トモセ:いやーもう全然覚えていないですけど……言いました?(笑)
衣笠:指定した内容は思い出せないけど、本文で書いた記憶がずっと残ってるから、たぶん間違いないんじゃないかな。

堀北っぽいというのは1年生5巻の二人三脚のシーンだろう。

気がつけば1位を走るのはAクラスの女子。どことなく堀北と同じ雰囲気を持つ美女が牽引するぺアだった。その後を2位の矢島含むCクラスペアが迫走する。

1年5巻, 開幕

続きを見よう。

トモセ:確かに挿絵とかでも似せてますね。
衣笠:なんで似せたかまでは覚えてないけど……言った覚えはある(笑)
トモセ:最近は出番なくなっちゃいましたね。
衣笠:出したくないわけじゃないですよ。俺も嫌いじゃないけど、なかなか1つの巻でたくさん出すのは難しいよね。出し過ぎると収拾つかなくなるし。
担当:今後出番はあるんですか?
衣笠:全然あるある

このように衣笠先生は神室の出番が全然あると断言している。

神室が石上と繋がっている設定なら、当然の発言だろう。

肯定根拠⑮:神室は衣笠先生のお気に入りである伊吹と学籍番号が重複している

伊吹がお気に入りということは神室にも何かしら役割を持たせた上で番号重複させていてもおかしくはないよね、って程度。

否定根拠①:2年生編4.5巻の星之宮の発言の意味が分からなくなる(更新あり)

本稿を批判的に読んだ人が全員抱くと思われる反論だ。

確かに、星之宮の伏線は何の意味があったんだ?とは思う。

これに関しては2つの可能性を指摘しておく。

「星之宮先生が石上を石上とよく似た人と見間違えた」
・「星之宮先生は二日酔いで記憶が混濁していて、実際には直接その人物を見たわけではない」

石上と似ている人物は誰か思い付かないだろうか?

長身であり、用意周到な性格であり、捉えどころがなく綾小路の状況をしばしば無視するような人物だ。

石上が登場頻度を増やすとともに、急に登場頻度が減った人物がいないだろうか?

また、石上の父親に引っ掛かる設定はなかっただろうか?


「随分と聡明な子供だと思っていましたが、石上会長のご子息でしたか」
石上五郎。60歳を超え会長職についたがその権力はいまだ健在。前妻との間に子供はいなかったはずだが……。死別後再婚した妻との間に授かった子供だったか。
「向こうでご飯でも食べてなさい」
「分かりました。父さん」

0巻, p290,291

この前妻と死別してから再婚という石上五郎の設定は何の意味があるのだろうか?

無くても特に問題がないのにわざわざ描写されているということは何らかの意図があるはずだ。

例えば、石上は血の繋がった実子ではなく、再婚相手の実子ということで五郎の養子となっているパターンが考えられないだろうか?

また、綾小路の母親である美香のこのセリフを覚えているだろうか?

「知ってたんだ?アイツとのこと」
「俺が調べずとも、周りが勝手に調べあげる
「いつから分かってたの?」
「俺がおまえに結婚と出産話を申し出る前からだ」
托卵とか疑わなかった?」

0巻, p151

──そう。石上はあの男の隠し子の可能性があるのだ。

いや、これは別件で検討するレベルの内容なので、別のパターンも指摘しておこう。

まず、星之宮が石上の顔を認識していることからも、石上を見たのは昼間である可能性が高い。

普段見掛けない人物が校舎内にいたことが何度かあるが、星之宮が確実にそのような人物を認識したタイミングが1つある。

選抜種目試験だ。

「皆さん退室頂きましょう。特別試験は終わったのですから。先生方もどうぞご退室を」
坂上先生、星之宮先生共に月城理事長代行は退室を促す。
「しかし、我々には後処理が──
「それはこちら側で対応させていただきますよ」
月城理事長代行が合図を送り、数人の作業員が一斉に室内に入って来た。
「どなたですか。学校の関係者ではありませんよね?
怪討そうに坂上先生が聞き返す。
「今回の試験データを、政府はいち早く知りたいそうでして。そのために派遣された方々です、どうぞご安心を」
理事長代行にそう言われてしまっては、教師としては引かざるを得ない。2人は急かされるように作業を切り上げ、多目的室をオレたちと共に出る。教師たちは、そのまま職員室に戻るのかオレたちに気をかけることもなく歩いて行った。
一方の坂柳は、怪訝そうな様子で作業員たちを一瞥する。しかし多目的室の扉は閉じられ、ご丁寧に鍵までかける音が聞こえてくる

1年11巻

星之宮が石上を見掛けたのはこのタイミングだとすれば、少しの間だが印象的なシーンと考えられ、記憶に残る可能性がある。

そして、想起された記憶は二日酔いによって都合よく脚色され、中学3年生であった石上の顔の若さから2年か3年の生徒と判断していたのではないだろうか?

まとめ

さて、長々と肯定根拠を書き連ね、背景などを解説してきたが、どうだっただろうか?

1つだけ挙げた否定根拠さえ覆される過程を体験し、「石上と神室は繋がっているに違いない!」という感想を持てたのなら、本稿の執筆者として喜ばしいことはない。

石上と神室のミッシングリンクを確信したときはパズルのピースがはまっていくような感覚がありました。

意味のある情報は単純な量ではなく、関連性こそが大事なので、一度リンクすると連鎖反応が起きていくんだと思います。

どんなに劣勢な意見であれ、新情報を辛抱強く待ち続け、根拠を丹念に拾っていけば、大富豪の「革命」のように大逆転することも時にはある。

好きなキャラを信じて、よう実を楽しんでいこうではありませんか。

最後になりますが、引用部分を合わせて1万字を超える長文をここまでお読み頂き、誠にありがとうございました。

このnoteを石上と神室に捧げ、筆を置くことにする。

2023年2月2日──レイ@よう実

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