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路線図

上京していつの間にか20年が過ぎた。
人生の半分以上を東京で過ごしていることになる。
食い潰されていく記憶のほとんど全てが田舎での生活。
学び、遊び、人と繋がり、そしてたくさんの夢を描いた。

社会人になり20年以上経った今、立ち止まる機会に恵まれた。
いつの間にか、自分が何をやりたかったのか、忘れていることに気付いた。
いつの間にか、誰が大切なのかを考えなくなっていることに気付いた。
そう、いつの間にか自分自身を失っていることに気付いてしまったのだ。

改めて思い返す。あの時の記憶を。

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高校卒業間近の2月、父と乗った初めての地下鉄。
アパートを探して大学付近の駅を乗っては降りてを繰り返した。
物思いに耽る間もなく開閉するドア。
交互に押し寄せる闇と光。
そのスピード感に圧倒された。
僕はずっとキョロキョロ車内を見渡していたが、父は真剣に路線図を見つめていた。
なぜ出不精な父が一緒に来たのだろう。不思議でならなかった。

とても低く小さな声で、父がぼそっと呟いた。
「路線図みたいな道なんだよな。」
「ん?」
「お前が今まで進んできたのは一本道だ。
来月からはこの地下鉄みたいに東西南北どこにでも行ける。
色んな道順がある。お前が好きに選べる。でもそれはお前の責任でもある。」
「・・・。」
僕は何も答えられなかった。
意味が解らなかったという方が正しい。

あれから20年の月日のなかで、
故郷に逃げ帰りたいと思ったことがあった。
父は僕を育てるために東京から田舎に戻ったのだから、
僕も戻るべきではないかと悩んだこともあった。
選択肢の多い道より一本道のほうがどんなにか楽だろうと考えてしまった。

やがて今日。
僕は新たなパートナーと一緒に、真剣に路線図を見つめている。
夢を叶える場所を探して。
一つ一つの駅名から夢が生まれ虹がかかる。

僕が選ぶ新しい道。
僕達が掴む素敵な未来。

父の一言は僕を支えている。


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