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黒澤文庫の食卓、『レオナルドの食卓』

先月、久し振りに髙島屋S.C.の4階にある「cafe 黒澤文庫」に立ち寄りました。
あまり時間がなかったので「少しだけ」と思っていたのですが、店内に足を踏み入れたら「ずっとここにいたい!」モードが “ON”。たいしてお腹も空いていないのにハンバーグ カレードリア・セットを注文して、結局 長居してしまいました。

黒澤文庫のHPより

cafe黒澤文庫には店中いたるところに本があります。どこに移動しても本棚と椅子がある … 我が家もこんな風に模様替えしたいなぁ!といつも思うのですが、現実的ではないですかね。
ここに座ろう!と適当に選んだテーブル席に、おっ!偶然にも美術関係の本が並んでいます。ラッキー。

ハンバーグ カレードリアが出てくるまでのパートナーを選びましょう。
どれどれ。。。これだ!
『レオナルド・ダ・ヴィンチの食卓』(渡辺怜子)。

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レオナルド・ダ・ヴィンチは、言わずと知れた『モナ・リザ』を描いたルネサンスの巨匠なのですが、それだけにとどまりません。芸術面だけでなく科学・工学、自然哲学など彼ほど万能の才に恵まれた人は他にいないのではないでしょうか。

我が家の本棚にある『ルネサンス画人伝』でヴァザーリはこのように語り始めています。

この上なく偉大なる才能が、多くの場合、自然に、ときに超自然的に、天の采配によって人々の上にもたらされるものである。優美さと麗質、そして能力とが、ある方法であふれるばかりに一人の人物にあつまる。その結果、その人物がどんなことに心を向けようとも、その行為はすべて神のごとく、他のすべての人々を超えて、人間の技術によってではなく神によって与えられたものだということが、明瞭にわかるほどである。人々はそれをレオナルド・ダ・ヴィンチにおいて見たのである。彼の身体の美しさはいくら賞めても充分ではない。それに加え彼のあらゆる行為には、限りない深さ以上に優雅さが存在していた。彼の能力は十二分に発揮され、どんなことに心を向けようともやすやすと解決したのである。彼においては力が巧妙さに結合していた。魂は常に堂々として寛大なる性格をもっていた。彼の名声は広がり、生前だけでなく死後も、後の世の人々の間に一層広まったのであった。(田中英道氏 訳)

ヴァザーリ『ルネサンス画人伝』より

ヴァザーリはレオナルド・ダ・ヴィンチの逸話を紹介する言葉の端々にも、
真に感嘆すべき神的な人であったこのレオナルドは」
「彼は実に快く会話をし、人の心を惹きつけた
「彼の仕事の中に思考や頭脳、精神の大なる神性が示され、その敏速さ、正気、美しさ、優雅さなど、誰も匹敵するものがいないほど恵まれたものであった」
などなど、言い尽くせない最大の賛辞を送っているのです。

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そんなレオナルド・ダ・ヴィンチの関連本は、彼が万能の天才であるがゆえに少々難解なものが多く、実はこれまでちょっと敬遠してきました。

しかし、今回手に取ったのは 美しい装丁に包まれた柔らかい雰囲気の一冊。

内容は、レオナルド(著者と同じようにこう呼ばせていただきます)がどんな食事をとっていたのか探究していくエッセイです。着眼点が面白いですね。
食事に関する記録を残していないレオナルド。著者の渡辺怜子さんによると、彼が遺した膨大な「手稿(ノート類)」(=あらゆる方面への興味とその探究の記録)から、“食材” に関係あると思われるワードをひとつ一つ拾い上げ、それを検証していく…という気が遠くなるような作業を要したそうです。

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レオナルドの「手稿」といえば。。。
数学、天文学、植物学、土木工学、軍事技術、建築、解剖学、地理学、物理学から、絵画の構成案、馬の研究、子どもの研究、鳥の飛翔に関する研究など。。。レオナルドが興味と関心を持ったあらゆる分野の事象が書かれているそうです。

そういえば、我が家の本棚にはレオナルドに関する図録が2冊あります。
◉ <レオナルド・ダ・ヴィンチー天才の挑戦 展>(2016年東京都江戸東京博物館)
◉ <レオナルド・ダ・ヴィンチ 人体解剖図 展>(1995年東京都庭園美術館)
↑ 内容が少し難解なため、サラ〜っと目を通すにとどめていました。

確か「手稿」が載っていたはず・・・と、帰宅して図録を開いて鑑賞しました。
注目すべきは、描き遺した「手稿」にしたためた草書体の鏡文字が見事なこと、そして何よりドローイング(線描画)の美しい✨こと。

いずれもウィンザー城王立図書館『人体解剖図』より
左)『腕、肩、首の筋肉』1510-1511年頃
右)『上肢の骨と筋』1510-1511年頃

病院での遺体解剖の立会いを許可されていたというレオナルドの描く人体は、現代の専門家からも絶賛されています。
そして筋肉、骨の動きが優雅で繊細、この上もなく美しい✨のです。思わず腕を水平に伸ばしてレオナルドの描いた「骨」と同じ動きをしてみました(笑。

また植物の研究のために描かれたドローイングも素敵です。

左)ウィンザー紙葉『ブラックベリーの研究』ウィンザー城王立図書館
右)『花の研究』1504年頃・アカデミア美術館

ブラックベリー(左)は植物学的に正確に描かれ、絵画に描きこむためにデッサンされた花々(右)の可憐さに魅了されてしまいます。

もし私が絵の才能に恵まれていたならば、レオナルドと同じように手稿を残し、もっと探究心あふれる心豊かな日常が送れていたかもしれない。。。などと想像してウットリしたのです。

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話をcafe黒沢文庫と『レオナルド・ダ・ヴィンチの食卓』に戻しましょう。
著者の渡辺怜子さんは美術評論家や美術史研究者ではなく、イタリア料理研究家だそうです。もちろん芸術にも造詣が深いのですが、それ以上に「レオナルドが何を食していたのかを知りたい!」という目的がブレることなく進んでいるのがいいですね。
「パセリ」というワードから、“レオナルドがサラダのドレッシングに使用していたに違いない” とか、スパゲッティはレオナルドの時代から食されていたのか・・・など考察が続きます。

読み進めて 私が特に興味を持ったのが『ポントルモの日記』に言及している部分です。
去年『ポントルモの日記』を読んで 一人で大いに盛り上がっていた私にとって、この本について語れることが非常に嬉しいのです。
個人的な日記を遺していない万能の天才レオナルドと、一方で ほぼ食べ物のことだけを綴った『日記』を遺したポントルモ。同時代を生きたこの二人の画家の対比が面白いですねぇ。
ポントルモのことを渡辺怜子さんは次のように書いています。

変人でわがままだった人というが、これ以上簡潔に書けない作為のない文章とやや甘い面持おももちの彼の自画像とを思い浮かべ、私は彼がとても人間的な愛すべき人物で、その才能に深く敬意を持つものである

『レオナルドの食卓』より

私も、私も同じように感じましたよ!
私の脳内にある さまざまな分野の座標(社交性、仕事の速さ・・・など)に、二人の偉大な画家をピンマークづけて、一人でニヤニヤ。楽しいのです。

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おっと。気がついたら、cafe黒澤書店のハンバーグカレードリアをペロリと平らげ、ボリュームあるアイスウィンナーコーヒーも飲み干していました。

cafe黒澤文庫のインスタグラムより
ハンバーグカレードリアとセットにしたアイスウィンナーコーヒー

『レオナルドの食卓』後半には、「ミケランジェロの食卓」とか「最後の晩餐では何がテーブルに並んでいたのか」といった興味深い内容も書かれているようです。しかし残念ながらタイムアップ。
結局レオナルドがどんなものを食べていたのか・・・を読み解くことはできなかったのですが、素敵な空間で楽しい連想ゲームを繰り広げながら1月の休日を過ごしたのでありました。
「手稿」でもなんでもないのですが、自分の手帳に
“黒澤文庫での食卓は「ハンバーグカレードリア・セット」” 
と意味もなく書き込んだのです。
イラストを添えられたらどんなに素敵でしょうに。。。残念。文字だけです。

また日本橋に出かけたら、あの場所で「本」との出会いを楽しみたいものです。

<終わり>

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