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ルネサンスに続く ほのかな光・チマブーエ

日めくりルーヴル 2021年1月31日(日)
『六人の天使に囲まれた荘厳の聖母』(1280年頃)
(通称)チマブーエ(1240−1302年頃)

今から740年前、『モナ・リザ』(1503〜1506年)より220年以上も前に描かれた作品❗️これまで投稿した中で 一番古い絵画です。
実はつい最近まで、レオナルド・ダ・ヴィンチ以前の作品は一括りに【古い絵画】。ほとんど同じように見えたので、作品の特徴や作者について全く興味がありませんでした💦。この機会にちょっとだけ勉強します!

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初期イタリア美術を代表するチマブーエ(本名チェンニ・ディ・ペーピ)はゴシック期の画家ですが、「プロト(前)・ルネサンス」と呼ばれているそうです。
「ルネサンス芸術の歴史でもっとも影響力のある文書」と言われるジョルジョ・ヴァザーリが書いた『美術家列伝』でも、133人中一番最初に取り上げられているのが『チマブーエ伝』です。

どんなところがプロト(前)・ルネサンスなのか、作品を見てみましょう!

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(左)は本日のカレンダー。1280年頃に描かれた、チマブーエ初期の作品です。
天使たちに支えられて神の子と共に玉座に座する聖母が主題の ‘荘厳の聖母’。

金地の背景に、左右対称に天使たちが描かれた少々重々しい構図、そして聖母が硬い表情をしているのがビザンティン美術の影響だそうです。
しかし天使たちが横並びでなはく、上に重ねて描かれているのが遠近法を意識している証拠ですね。衣服のひだが自然なラインとして描かれ、一番前景にいる二人の天使の膝がマント越しに現れているところに、少しだけですが ‘人の身体’ を感じます。
遠近法、自然で彫刻的な表現を目指していたのですね。

それから10−20年後に描かれたのが(右)『荘厳の聖母(サンタ・トリニタの聖母)』(1290−1300年)、主題は同じです。
ずいぶん変化が見られます。玉座は建物のように組み上げられ、画面下側にいる4人の預言者は、アーチの中にいるようです。高さや奥行きをしっかり感じることができますね。
そして何より(左)に比べて聖母や天使たちの表情が柔らかく人間らしい
(ほんの少しですが💦)。
約100年後のルネサンス期を予感させます。
チマブーエは「その頃としてはまったく新奇なやり方であった、実際にモデルを使って描き、最善の努力を払」い、また「すでに確立されていた名声に応えようと、努力に努力を重ね」たのであります。素敵✨。

伝統を打破し、ルネサンスに道標をつけた画家はチマブーエなのですね!
『私のルネサンス』という本を書くことがあったなら(笑)、絶対にチマブーエから始めることにします❗️

ヴァザーリ『チマブーエ伝』(訳:小谷年司氏)によると、チマブーエの墓碑銘にはこう記されているそうですよ✨。

  チマブーエは君臨せり
  生きて画界に
  死して天上の星に

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このチマブーエの墓碑銘についてダンテは『新曲』の中で次のように触れました。

  チマブーエは絵画で勝利を博したと信じ込んだが、
  今ではジョットが主導権をにぎっていて、
  前者の名声に影を投げかけている

あらま。どういうことでしょう?
ルネサンス美術の創始者として有名なジョット・ディ・ボンドーネは、短期間ですがチマブーエの弟子であったとも言われています。
ヴァザーリは二人の関係について記します。

ジョットの名声の陰に隠れてしまったのは、弱い光が強い輝きの前では見えにくくなるのに例えられよう。チマブーエが絵画革新の一番手であったにしても、そこから出たジェットこそ、端倪すべからざる高い目標を定め、天賦の才に恵まれ、深い考えをもって向上に向上を重ね、後世、われわれの世紀が日常目のあたりにしている芸術上の偉大な成果をもたらした人々に、真理の扉を開いた人物である。

ジョットのことはまだ勉強していないので大きな声では言えません💦
しかし ジョットがいかに偉大な存在であろうと、チマブーエの意志とその作品が暗くて深い洞窟に穴を開け、光を導いたのであります(私見)!たとえそれがほのかな光であったとしても…。

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さて。
本日の作品をルーヴル美術館で見て(2019年10月)帰国した直後に飛び込んできたニュースがこちら。

ある住宅(フランス)の台所に掛けられていた絵画が、チマブーエの作品であることが発見され、オークションで2,400万ユーロ(約29億円)で落札された!
2019年10月28日 AFPBB Newsより

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まだチマブーエの名前もよく知らなかったので、「うわーっ!こんな【古い絵画】に29億…。一気に大金持ちだ!」と驚きました。

『あざ笑われるキリスト』。画像で見る限り、人々の重なりや人体表現、後景の建物など かなり自然な描写に近づいてきているような…チマブーエ後期の作品かしら?などと全くの素人が偉そうに…💦。
何よりキリストや周囲の人々からその場面の緊迫した表情が見て取れます✨。

落札者が明らかにされていないので、この作品の今後については分かりません。
しかし、修復された『あざ笑われるキリスト』といつかどこかで会えるといいなぁ…。と願ってやまないのであります。

<終わり>

おまけ。
ヴァザーリは『チマブーエ伝』をこんな記述で締めています。

最後に、言い残したが、チマブーエ以降今日に至るまでの素描家による自筆画稿をまとめた私の画帖の最初のところに、チマブーエが描いた細密画風の作品がいくつかある。今見ると、不器用以外のなにものでもないという気がしないでもないが、素描(デッサン)が彼の作品からいかに多くを学んだかは一目瞭然である。

ちょっと生意気でヴァザーリらしいところが憎めないのです😊。

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