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【旅する日本語】あたりまえの中に

海の街にはどうしてか猫が多い気がする。
そしてとても猫らしい。自由で、好きところに寝そべり、人と少しだけ離れたところでリラックスする。

この街は本島からもかなり遠く、小型船で1時間かかるところにある。
街には観光客と、お年寄りと、猫しかいない。
そして若者がいないのに、若々しい原色に彩られた家々。

晴れ渡った日ではなかった。
少し風もあり、夏だけれど少し肌寒い。
それでもその街のおばあちゃんやおじいちゃんは、家の前になんとなしに置かれた椅子に座り、
ひとりでどこというでもなく空(くう)を見つめている。

少し寂しい気持ちさえした街だったが、
ある老夫婦は、似たようなボーダーの服をまとい、お揃いであることに気づいているふうでもなく、小さな声で語り合い、鳥が足元を歩いても、猫が窓際で寝始めても、表情一つかえずに、
あたりまえの中に生きていた。

晴れても晴れなくても、外に出て座るという素敵なあたりまえを知った海の街。


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