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フィードバックこそラーニングだ

学び業界に関わる私達にとって、学習のROIを意識することは様々な気づきにつながる。私達は自己中心的なものだから、Invest(努力/労力)が何故かReturn(成果)に比例すると考えてしまいがちだけれど、Do More With Lessの発想で考えると、学びの世界は大きく変わる。ということで、今日はその最たるものと言える「フィードバック」のお話。

研修以外が9割。

10:20:70。これって学び業界ではよく聞く話だ。一応復習しておくと、これは「人は何から学ぶものか」の割合を示していると言われている。

  • 10は、フォーマルラーニング。研修はまさにここに該当する。

  • 20は、他者からの学び。同僚や上司などとの交わりの中で学ぶこと。

  • 70は、現場で仕事を通して自ら学ぶこと。

この根拠は実は今ひとつよくわからないのけれど、感覚的には確かにそう感じさせられるものがあるし、今回はその真偽を問うつもりはなく、一旦この説を受け入れて話を進めたい。

で、これが正しいとすると、研修部門がものすごく頑張って素晴らしい完成度の研修を実現したところで、その効果には限界があるということだ。これは決して「だから研修なんていらない」ということにはならないのだが(10は10%でしかないけれど、この10%がなければ100%は完成しない)、そうは言っても、学習者の立場に沿って考えるなら、20や70を意識しなければ「成果」を最大化することはおぼつかない。

さて、そこでOJTに目が向くわけだが、ここでよく見受けられるのが「OJTという名のもとに現場丸投げ」という光景だ。OJTとはただ現場で仕事をするということではない。あくまで、「仕事を通して『学ぶ』」のがOJTだ。仕事を通して学ぶことができるようになっていないと学習は生まれない。何もせずに現場任せにすれば勝手に育つのだったら話は簡単だが、そうではない。そこには学習デザインが求められるはずだ。

鏡として。またはビデオカメラとして。

原理は難しくない。現場の仕事をOJTに変える最も汎用的な方法は「他者からのフィードバック」だ。自らの気付きだけでなく、周囲が鏡になり、もしくはビデオカメラになり、自分が見えない自分の動きを教えてくれる。そうすることで、得られる気付きが何倍にもなる。それはそのまま本人の成長の加速度に比例する。

ポイントはいくつかある。タイムリーで、具体的なフィードバックを、こまめに行うことだ。半期とか四半期とかでは全く足りない。週次?いや、全然足りない。毎日一回でも足りないくらいだ。一日数回くらいの頻度でいい。期間が空いてしまえばそれだけ成長の機会が失われてしまう。早くフィードバックすればその分早く成長できる。

スポーツの練習をイメージすればわかりやすいだろう。例えば、水泳の練習をしているとする。フォームがおかしいとき、その指摘はいつ行うのが正しいだろうか?一年後?半年後?来週?今日練習が終わってから?それとも「今」?1時間の練習の中で何度もフィードバックを受け、軌道修正できれば、わずか1時間の間でも成長できる。ビジネスの現場でも全く同じだ。

すべてがフィードバック

タイムリーで具体的で高頻度のフィードバックの有効性を感じてもらえたとすると、たぶん次に心配になるのは「そんなこと現実的には時間がなくてできない」「そんな箸の上げ下げまでフィードバックされたら自主性が失われてしまう」というようなことだろう。これはフィードバックの仕方で解決できる。コツは、全てのインタラクションをフィードバックの機会と考えることだ。

お互いに仕事をする関係であれば、そこにはインタラクションがあるはずだ。指示をしたり、確認をしたり、レビューをしたり、承認をしたり、意見を言ったり、報告したり。その一つ一つでどんな会話をしているだろうか。例えば相談を受けて判断するとき。ただYES/NOを答えるだけではなくてその判断の根拠を伝えるだけでも違う。相手がこちらの考え方を追体験できることで、そのうちその判断を本人ができるようになる。

相手が萎縮してしまうのでは?という心配は、おそらく「フィードバックとは相手にとって耳が痛いことを伝えること」という考え方が前提になっているかもしれない。しかしフィードバックとはポジティブなものもあっていいし、むしろポジティブなフィードバックのほうが多い方がいい。というか、ポジティブなフィードバックを中心にして相手に気付きを促すことだって可能だ。相手とのインタラクションの中で、良かったことを見逃さずその都度感謝する。しかも取ってつけた「ありがとう」ではなくて、「〇〇してくれてありがとう」と具体的に伝える。"Thank you"だけでなく"Thank you For…"と、Forを常につけるわけだ。

更には、フィードフォワードという手もある。仕事のスピードに懸念がある相手とわかっているとしたら。多分、「やっぱり遅い」とイライラ待っていて「やっと出してきたのか」と怒り出すのは生産的ではない。そもそもDueを明確に伝えただろうか?そのDueがなぜ大事なのかは伝えただろうか?そこが納得されていれば相手はDueを外さない。もしそれでもDueを外すようであればそこで初めて耳が痛いフィードバックをすることになるだろう。でも、このフィードバックは難しくないはずだ。なぜなら、予め伝えてあった事実に基づいて客観的なフィードバックができるから。フィードバックが難しいのは、相手の認識とこちらの認識の隔たりを埋めるところから始めなければならないときだ。客観的な根拠を持ったフィードバックなら、それがない。

1/10と考えるか、10倍と考えるか

現場でこんな、タイムリーで具体的で高頻度なフィードバックが行われている組織は、現場で成長する組織だ。さて、そうだとしたとき、L&Dとしてのあなたはどう考えるだろうか?もしかして、「それは現場がやることだ。自分の職掌の範囲外だ」と考えていないだろうか?

あなたがL&Dを仕事にしていて、10:20:70の話を聞いて自分の仕事の価値が低くなってしまったようながっかりした気持ちになったとしたら、もしかしたらあなたはL&D思考ではなく「研修部」思考になっているかもしれない。

逆だ。L&Dはむしろ、「どうすれば現場でこのようなフィードバックができる組織を作れるか」を考え、デザインし、仕掛けていく必要がある。10:20:70が示しているのは「L&Dが学習に貢献できるのはほんの10%だ」という意味ではない。「L&Dにとって研修は10%であり、組織の学びのためにL&Dがやらなければならない仕事はその10倍ある」と考えてはどうだろう。もしくは、あなたの仕事は今の10倍の価値を提供できる可能性がある、と考えてもいい。

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