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リスキルを測る(または、成功を定義する)

リスキルというより実態はクロススキルじゃないだろうか、なんていう説をさんざん唱えていながらもタイトルに「リスキル」を持ってきてしまうのはなんとも歯がゆい部分なのだけど、このほうが通りがいいのも現実なので、言葉としてのリスキルは使わざるを得ない。

と、言い訳から入りつつ、今回もリスキルの話題。いつものように天邪鬼的にやや拗れた視点で。今日扱いたいのは、「リスキルブームは『リスキルの必要性』『リスキルすべきFrom - Toのスキルとは?』『リスキルの教育方法は?』という話題が多いけど、その成果をどうやって測るか、という議論も合わせてする必要があるよね」というお話。

Re-Skilling as a Silver Bullet

そう。リスキルはブームだ。人材不足、失業対策、キャリアの長期化、DXへの対応、これらを一網打尽にする一手として語られる。そして新聞には「XXグループがYYY億円を投入して全社員ZZZZ人にAIを学ばせる」なんていうニュースが連日掲載されている。特集まで組まれる。ラーニングがこれまで耳目を集めるようになった事自体は喜ばしく感じているし、方向としてはいいんじゃないかと思う。でも素直に聞けないのが天邪鬼で。以下のようなところが気になっている。

  • Toのスキルって大体が「DXスキル」と言われる。で、それってなんのことか?AI?ではAIって何か?というと、、、マシンラーニング?マシンラーニングって本当に全社員が身につけるべきものなのだろうか??それを身につけると何ができるようになるのだろうか?「DXスキル」と言っても色々あるし、必要なレベルだって様々だ。マシンラーニングのエキスパートを育てたいのか、DXの種を見つける発想力を高めたいのか、DX実現のためにアライアンスを組んだりするビジネスプロデューサー的な人材にしたいのか、アジャイルにプロダクトリリースができるようにするためのAgile Project Managementr力が必要なのか?はたまた、ちょっとしたBPRを自力で実現するようなノーコード開発者やシチズン・データサイエンティストなのか?

  • From、つまり現在持っているスキルと関係なく一律で同じスキル(AIとか)を学ばせるのもちょっと乱暴じゃないだろうか。以前の記事の通り、リスキルは本当はクロススキルであって、個々人が既に保持しているスキルに何を足すとどんな活躍ができるか、というのを考えるべきだ。既存のスキルセットと目指すべきスキルセットのギャップを埋めるために必要なラーニングはそれぞれ異なるはずだ。

  • 予算も確保した。対象者を特定した。ラーニングスキームも作った。対象者は順調に学習を進めてくれている。さて、これでほっと一息、かというと、むしろ本当に大変なのはその先だ。学習を完了した人には、そのスキルを発揮してもらう場が用意されているだろうか?学習が座学だけでは完了しないのは周知の事実だ。プラクティスがあって初めて身につく。その場を設計されずに「DXスキルを身につけましたね、じゃああとは各々頑張ってください」だと、そのスキルが生かされることはない。

  • まだある。プラクティスを経験し、リスキルプログラムを終了した。個々人の視点で言えばこれでジャーニーは完了。しかし、組織の視点では個々で終わってしまっては片手落ちだ。結果的に、組織が必要としている新しいスキルセット群の、バリエーションとレベル、ボリュームは充足されたのだろうか?新しい時代を戦っていくためのスキルポートフォリオは完成したのだろうか?

AIのe-Learningコースを用意しました、全員必須でXX日までに受講を完了してください。それだけでリスキルができるなら簡単な話だ。新しい研修コースを一つ増やすだけ。これまで「研修部」がやってきた日常的な業務だ。しかし、上に指摘した4点をカバーしようとすると、それだけでは足りない。

リスキルをラーニングメニュー論にする以前に必要なこと

やらなければいけないことはこうなるだろう。

  • まず必要なのは、現状の「スキル」を定義することだ。そしてその組み合わせ(スキルセット)で「ジョブ」を表現することだ。例えば、「駆け出しタクシー運転手」ならこんな感じではないだろうか。

    1. 「普通自動車運転免許二種」

    2. 「ナビゲーション力レベル1(近隣5km以内なら道を記憶している)」

    3. 「機器操作力レベル1(知らない場所であっても迅速にカーナビ設定をしたり、様々な配車アプリ/決済アプリの操作方法を理解している)」

    4. 「接客力レベル1(最低限のマナーで会話できる)」

    5. 「雑談力レベル1(ひとまず相槌を打てる)」

  • 次に、新しいスキルとスキルセットの定義が必要になる。これから必要になる人の姿とはどのようなものか、その人はどの様なスキルセットを備えているのか。例えば、DX時代のタクシー運転手とは、ということを考えると、仮に自動運転が普及していっても運転手がいてほしいと思わせるような運転手になるためには、、、例えば以下のようなものが必要になるのではないか。(なお、実は「DX時代のタクシー運転手とは」という新しい人物像を描くこと自体も結構難しいことだったりするけれどそこは一旦おいておく)

    1. 「ナビゲーション力レベル3(自動運転が提案する道順よりももっといい道を知っていて、軌道修正を指示できる」

    2. 「機器操作力レベル2(ナビ変更を迅速にできる)」

    3. 「接客力レベル4(乗客のプリファレンスを理解した上で心地よくエンターテインできる)」

    4. 「雑談力レベル4(乗客の求めている情報を言われずとも察知しさり気なく伝える)」

    5. 「個性プロデュース力(ジャズタクシーとかミスチルタクシーとか、デートタクシーとかラーメンタクシーとか)」

  • こうして初めて「スキルギャップ」が特定される。ここまでくればようやくラーニングの出番だ。ギャップがあるスキルを埋めていく。手法は様々あるだろう。ただし、FromとToは個別化されたものなので、ギャップも個々によって異なる。よって、ラーニングメニューももちろん異なる。だから、必要なラーニングの構成も、FromとToを固定的に捉えたヘビーなものにしていてはとてもまわらない。コンパクトな構成のモジュールを揃えて、個々のギャップにあわせて組み合わせていくような対応になる。

リスキルの「森」

さて、ここまでは個々のリスキルジャーニーの話。そしてこれにOJTなどでの実践機会をセットにすれば、一人ひとりのリスキルを積み上げていくことができる。でもこれだと「木を見て森を見ず」の状態だ。組織としてリスキルに取り組むのであれば、組織全体のスキルポートフォリオの変化を見なければいけない。そのためには、FromスキルであれToスキルであれ、それぞれをブロックのように定義しておく必要がある。

スキルブロックが明確に定義できれば、あとはスキルブロックの積み上げをBefore/Afterで見ていく。更にはそもそも目指したいスキルセットをプランする時点で「何人がどの様なスキルをどのレベルで保持しているべきか」というプランがあるべきだ。それがあれば、リスキルのPDCAが可能になる。

簡単そうに書いてしまったけど実は難しい。最初の難関が「今のスキルポートフォリオの明確化」だ。でもこれをしないと現状がわからないので、PDCAしようがない。先月の売上がわからないのに来月の売上を2倍にするなんてことができないのと同じことだ。

仮に「今のスキルポートフォリオ明確化」ができたとして、次の問題はもっと難易度が高い。「このスキルポートフォリオ情報の鮮度をどうやって維持するか」という話になる。一応これに対しても打ち手はある。が、今回はもう既にだいぶ長くなってしまったのでまた別の機会に。

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