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講師なのに!?僕が講義をやめたわけ

 「わたしは講義をしない。君たち自身に学んでほしい。授業は毎回君たち自身が学んだ内容を応用するセッションになるから」

 チーム基盤型学習を提唱したLarry K Michaelsen博士は、学生たちに最初の授業でこのように伝えたそうです。この言葉を僕が聞いてから、初めて教壇に立つとき、必ず学生たちに「僕は講義をしません。授業をします。ゴリゴリの脳のトレーニングをして、脳に汗をかく90分間にしましょう。」と伝えています。そして、僕は今日も教壇から学生たちの学びを微笑ましく眺めています。

 さて、今回は、『講師なのに!?僕が講義をやめたわけ』というテーマでお話をさせて頂きます。僕が講義をやめて授業を行うようになった理由、そして過去の授業から現在の授業への移り変わりについてお伝えさせていただきます。教師の方にはヒントになるように記載していきます。それでは、お付き合いください。 

0.僕が教師になったわけ

 作業療法士として病院に勤務していた僕は、「患者さんの笑顔をつくりたい」と日々奮闘していました。そんな時、専門学校の恩師から「面接を受けてうちの学校に来てみないか」と声をかけていただきました。一人では限界があるけど、僕が教えた学生たちが現場で頑張ってくれれば、より多くの患者さんが幸せになるのではと思い、学校に教師として務めることにしました。

1.ホワイトボードへの板書と教室中に響き渡る僕の声

 教師になって1年目の僕は、教育について学んだこともなかったので、講義をどのようにしたら良いかわかりませんでした。90分間の授業をどのように構成すればいいのかもわからず、ひたすら他の教員の授業を聞かせていただき、真似をすることにしました。また、学生の頃のノートを引っ張ってきたり、学生からノートを借りて見せてもらって調べまくりました。そして、テキストを読み漁り、それらの内容を授業ノートにまとめていきました。最初の授業では、板書と板書の内容を説明していきました。

 どうやら僕の声は、催眠効果があるようで、講義をしていると学生が寝てしまっていました。これは、僕の伝え方の問題と学生のモチベーションの問題があると思いました。ここで、ふと昔を思い出したのです。過去の先生方も僕と同じような授業形式で授業されていました。で、僕は悪い学生だったので寝ていました。そして、すごく怒られていた。でも、疑問に思ったのです。「あれ?寝るのって学生(過去の僕)が悪いんだろうか。」くそ面白くない授業をしてしまっている自分が悪いのではないだろうか。そう考えた僕は、面白くない授業を解決するために片っ端からテキストを夜遅くまで読み込み、それこそ睡眠時間3時間ほどで、起きている時間はほとんどの時間を授業作成に当てていました。

 さて、皆さんは学生が寝てしまうのは、学生が悪いと思いますか?僕の教授力の問題だと思いますか?

2.薄暗い教室にぼんやり光るPowerPointと響き渡る僕の声

 教師になって2年目。ホワイトボードに記載することをやめました。毎回ホワイトボードに記載することに労力の無駄を感じたからです。腕も疲れるし、自分の声もかすれてしまう。学生も板書についてこれないなどの問題から、思い切って変更することにしました。板書用の授業ノートを作成していたこともあり、この労力が無駄になるのか・・・と悩みましたが、学生のために頑張ろうと決断をしました。PowerPointのスライドを使って授業を行うことにしました。その次の年から、授業資料を作成する労力は減りました。しかし、部屋を暗くしたり、手元に資料があることで、安心するのか、眠る学生が多くなりました。職場の同僚からは、『睡眠学習コーディネーター』という不名誉な称号を与えられるほどの安眠環境を提供していたようです。「あー、これは駄目だ」と思い、これも変更することにしました。

3.アクティブラーニングとの出会いと擦り切れていく僕の精神

 教師2年目の夏。とある先生から「PBL(問題解決型学習)とTBL(チーム基盤型学習)をやってみない?」と声をかけていただきました。ここで、冒頭の「僕は講義をしません」という言葉に出会います。この時の僕に与えた衝撃はすごかったので、アクティブラーニングをほとんどの授業に入れるようになりました。PBLでは、ほとんど講義をしませんが、学生は寝ることもなく、他者との協調学習を通して楽しそうに進めていました。「講義をしなくても学生は学ぶことができる」と大きなインパクトを受けたことを覚えています。PBLは万能ではありませんが、『講義をしなくても学生が学ぶ方法がある』ことを知るだけでも授業を変えるきっかけになると思います。TBLでは、スクラッチカードを作ったり、小テストを作成するなど紙教材に力を入れてきました。これによって、学生はほとんど眠ることはありません。「やった!これで全員が分かったと言える授業ができた!」と思ったのですが、後日の定期試験では、平均点60点台…。赤点も続出。愕然としました。今までやってきたことは何だったのだろうかと…。しかも、授業準備が猛烈に大変になりました。毎回ある小テストを作成し、Excelシートに入力し、シアター(寸劇)をしたりと工夫をすればするだけ僕の精神は擦り切れていきました。この頃から心臓の痛みや動悸(狭心症か!?)、めまいなどが出てきました。ストレスがすごく家族にも強く当たってしまうなど大変なことに。学生の学びを促進したいと頑張ってきたことが僕の精神を削りに削り、ぼろぼろになっていきました。何度も仕事をやめようと思い、ぎりぎりの状態で3年間頑張りました。教師になった人であれば、同じような経験をしている方は多いのではないかと思います。

4.インストラクショナルデザインとの衝撃的な出会い

 アクティブラーニングはいい手法なのになぜ結果がついてこないのか?ということを考えるようになりました。そこで気づいたのです。アクティブラーニングという手法をただやろうとしているからダメなのではないかと。根本を学ばなければダメだと。PBLやTBLは良い手法なのですが、やっぱり一定数ぼーっとしている人(フリーライダー)が存在します。このぼーっとしている人たちをどのように学んでもらうか。面白い!もっと学びたい!と思ってもらえる方法がないのかと調べるようになりました。多くの文献を読み、テキストを読み漁りました。そこで、僕の人生を変えてくれた本に出会いました。それが・・・

『教材設計マニュアル』(amazonのリンクを貼っておきます)

でした。鈴木克明先生の本ですが、是非この本は教育関係者に読んでいただきたい。2002年に発売されていますが、教育に関する分かりやすく面白い本で、ストーリー仕立てになっています。この本との出会いをきっかけに、教育哲学やインストラクショナルデザイン(ID)の世界にのめり込んでいきます。

5.僕の頭の中に入っている言葉を紙教材へ落とし込んだら、考え方がクリアになった

 教材設計マニュアルに沿って、全ての授業を紙教材へ移行する作業をはじめました。独学で学べるように説明文もすべて落としこんでいきます。毎年、何を話していたかな?と思い返しながら一気にまとめていきました。この作業を行ったことで、「昨年はどのように話していたかな?」と思い出す作業がなくなったので、少しずつ業務が減っていきました。学生たちも口頭だけではなく、目の前に紙教材があり、その指示に従って学習をすすめるので、学びやすさは格段にあがったようです。ただ、紙を印刷し、配布するという作業工程が増えてしまい、僕の授業前の準備は大きくは変わりませんでした。

6.紙教材から学習管理システム(LMS)へ移行したら、僕の仕事は学生の学びを見守るだけになった

 2019年末から、人類は感染症の拡大という危機に瀕しました。教育の世界は、オンラインでの学習が注目され、多くの学校で導入されてきました。僕の学校では、「とにかくできることをガンガン進めてください」というありがたいお言葉もあり、圧倒的な作業量をもって、僕が担当するすべての授業の紙教材をmoodleに掲載する作業を行いました。そして、僕はZoomを使ったリアルタイムの授業やmoodleを使ったノンリアルタイムの授業、Zoomとmoodleを使ったハイブリッドの授業を行ってきました。

 moodleに掲載したことで、メリットが大きく現れてきました。配布資料も著作権に引っかからないものは全てmoodle上に添付したことで、印刷作業から解放されました。来年の授業はコースをコピペすることで授業準備は完了するので、授業準備からも解放されました。学生は、紙ファイルよりもスマートフォンは小さいので持ち運びが便利になりました。

↑過去にLMSの教員と学生のメリットをまとめた記事です。こちらも是非読んでくださいね。

 2020年度前期の僕の授業では、ほとんどの学生がスマートフォンで学習を行ったようです。スマートフォンにもパソコンにも利点欠点があるため、どちらが良いという判断を下すことはできないと思います。ただ、今あるメディアを活用してICT教育を初めてみるということが本当に重要です。一律に機器を統一しようとするのは、世界では日本くらいです。世界では、自分の持っている機器で学習をします。確かに、学習のしやすさに違いはありますが、生活環境も異なりますので、一律ではなく、一つの文具としてそれぞれあるものを活用していけば良いと思います。

 さて、感染症も少しずつ落ち着いてきた頃から、対面授業が開始されるようになりました。僕は、今でもmoodleを使って授業をしています。対面で授業をする際も、学生は教科書とスマホでもmoodleを開きながら学習をします。授業は、僕の5分から10分の説明から始まり、60分の学習、5分から10分の僕のまとめで終了します。僕が1回の授業で話すのは10分から20分です。後の時間は、学生たちは問いに対してチームで考えたり、ディスカッションをしたり、個別課題をしたりしています。その間、僕は教卓からみんなの学習の様子を眺めたり、学生から出てきた質問に答えたりしています。準備から開放され、授業からも開放されたことで、学生の学習の様子をみて対応することに注力することができるようになりました。教員ならわかっていただけると思うのですが、この部分が教員の本質ですよね。

7.おわりに

 学生は学費を払って受講しているのに、きちんと講義を聞いて学習をしなければもったいないですよね。そこで、「みんなが分かったと言える、面白いと思ってもらえる授業」を提供できないかと考えるようになりました。

 ケースバイケースではありますが、「寝るのは学生が悪い」と決めつけてしまうではなく、「なぜ授業中に寝てしまうのか」と一旦、分析することが大事です。体調が悪いかもしれないし、たまたま眠くなったのかもしれない、家庭の事情で夜遅くまでバイトをしているのかもしれないし、プライベートでなにかあったのかもしれません。頭ごなしに「寝るな!」というと学生の気持ちが離れてしまいます。学習の意欲も極端に落ちることもあります。また、「自分の授業のせいで寝てしまっているのでは?」と自身で問いをたてることも重要です。学生たちにもっと学びたい!わかった!と言えるような授業を行うことが重要です。ここは、僕も日々精進だと感じています。慢心することなく工夫を積み重ねていきたいですね。

 最後に、メディアの選択について書き添えたいと思います。パソコンがいいのか、タブレットがいいのか、スマホがいいのかという議論もありますが、社会に出た時のことを考えながら選択する必要があります。例えば、医療従事者は必ずパソコンで業務を行います。スマホやタブレットが普及してきましたし、訪問診療や訪問リハビリテーションなどでカルテに音声入力をすることも増えてきました。ただ、病院では個人情報保護やうるさくなってしまうという問題から音声入力はできにくいという状況があります。とりあえずは、今後数年はパソコン入力が必須になります。ただ、最近ではパソコンを持っていないという学生も増えてきました。スマホの性能があがり、スマホで入力をすることができるようになってきたからです。このことによってパソコンを操作することが難しいという学生も増えてきているようです。社会人になって初めてパソコンのスキルが必要だと気づく人もいるようです。学生の内からパソコンに慣れておく必要があります。授業の中でも自分のパソコンを活用して学習をする必要があるのだろうと感じています。


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それではまたお会いしましょう。

”えでゅ”でした。





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