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スクラムで役立つアジャイルなマインドセット その1 小さく挑戦・小さく試す

これから、アジャイル開発をするうえで大切なマインドセットを数回の記事に分けて紹介していきます。真面目に仕事をしているはずなのに、なぜか上司からチームへの評価が高くない、他のチームに比べて指摘が多いなど、そういったお悩みを解消するお手伝いができたらと思います。

第1回は「小さく挑戦・小さく試す」です。

アジャイルでの考え方において、とても重要なのは、失敗を恐れないで挑戦する姿勢です。これには賛同してくださる方が多いと思います。新しい仕事のやり方を取り入れてカイゼンを進めるためには必須の考え方です。とはいえ、大きな取り組みに挑戦すると失敗したときのデメリットが大きいです。

それに加えて、新しい仕事のやり方を試すときは、必ず成功すると確約があるわけでは無いですよね。だから、成功するために新しいやり方を試すときに小さく試してみることで、もしも失敗したときのデメリットを小さくするために「小さく挑戦・小さく試す」を実践するのです。

具体的な例で説明します。学園祭でカレーを100人分作るときを想定してください。成功するかどうか分からない工夫として、カレーにマヨネーズを入れてみる取り組みをしたくなったときに、100人分のカレーに大量にマヨネーズを入れて美味しくないカレーが100人分できてしまうと非常に困ります。これは大きく試している例です。

とはいえ、新しい取り組みをしないと同じようなカレーが出店されていたら売れづらくなるでしょう。そこで、新しい試みとして小さな挑戦をするんです。カレーにマヨネーズを入れる取り組みをするときに、1人分だけカレーを入れて作ってみて美味しくなれば100人分作るときにもマヨネーズを入れてみたらいいわけです。

アジャイルのプロジェクトでは、この「小さく挑戦・小さく試す」ことを重視するのは、製品を作る方法(プロセス)でも、どんな製品(プロダクト)を作るかでも、同様です。作る方法だと、「こんなツールを使って開発してみたら捗るだろう」と思ったら、一度お試しに使ってみて、どうだったかふりかえって考えてみる。

どんな製品を作るかだと、「こんな機能を作ったらお客さんが喜んでくれるかもしれない」と思ったら、試しに小さく作ってみてお客さんからの反応を見たりする。これによって大きな失敗を避けられる上に、新しいことにどんどん挑戦していけるようになるのです。大きな取り組みは、多くの時間を調整しないといけなかったり、フットワーク軽く挑戦することが難しいですよね。

失敗しても怒られない、評価が下がらないどころか挑戦したことを評価される、そんな職場になると、どんどんカイゼンが進んで働きやすく、顧客に価値を届けられるようになるのです。

とはいえ、これらの怒られない、評価されるといったことは上司次第であり自分たちでコントロールすることができません。そのため、自分たちでコントロールできる「小さく挑戦・小さく試す」がオススメなのです。スクラム開発であれば、レトロスペクティブ・ふりかえりの時間が用意されています。この時間に自分たちが試したいこと・挑戦したいことを決めて着手していけばいいわけです。

小さく5分、時間の使い方を変えただけで改善された事例

私が支援していたチームであったふりかえりの時間のカイゼンで「小さく挑戦・小さく試めす」を実践した事例を紹介します。そのチームでは、2週間スプリントで、2週間に一回のふりかえりを実施していたのですが、スプリントの最後のレビュー付近の事以外を忘れてしまいがちになってしまうといった課題がありました。

そこで、チームで話し合い、スプリント中の進捗を可視化したグラフであるバーンダウンチャートをふりかえりの前に確認してふりかえりに臨むことで忘れていたスプリントの内容を思い出しやすくなるのではないか?という仮説を立てました。そして、2時間のふりかえりの時間の5分だけ使い方を変えてみるといったカイゼンを試してみました。

その後、2回ふりかえりを実施したあとに、自分たちのふりかえりが良くなったかどうかをみんなで評価しました。すると、進捗に関する意見が増えて、ふりかえりで確認する領域が広くなったことで、意見の数が多くなり議論が活発化し、カイゼンのアイデアの幅が広くなりました。たった5分間の使い方を変えるだけで、効果的だということがわかり、今では、そのチームは2時間のふりかえりの時間のうち15分ほどの時間を前回のスプリントを思い出す時間に使うようになりました。

小さく挑戦・小さく試すのは、なにもスクラムを始めたあとにだけ使えるものではないのです。スクラムを始めるときに使っているチームもあります。なぜなら、スクラムを始めるという仕事の仕方を変えることに上層部からOKをもらうのが難しかったり、「既存の仕事の仕方を変えたくない」といった意見が現場から出ることもあるからです。そういったときによく使われるスクラムを小さく挑戦する方法の1つとして、レトロスペクティブ・ふりかえりだけ挑戦してみるということです。

スクラムにはいくつかの会議があり、すべて導入すると開発効率が下がるのでは?と心配する声も上がりますが、週に1度1時間のふりかえりで仕事のやり方を見直す時間だと格段にOKがもらいやすいですし、勝手にやっても許される範囲でしょう。小さく挑戦・小さく試すのは、失敗を気にしなくてよくなるので、大きな心理的なセーフティーネットになるのです。

大きな挑戦をした末に失敗したチームの事例

逆に、私が支援する前にカイゼンに失敗して、カイゼンがあまりできなくなったチームも存在しました。そのチームが失敗したのは、システム開発をしている方にとっては馴染みの深いアーキテクチャ(ソフトウェアの構造)の変更です。そのカイゼン施策を試すためには、多くの時間をアーキテクチャ変更に費やす必要がありました。そのため、大幅に開発効率が向上することを上層部にプレゼンし、新機能を追加することを3ヶ月止めて、アーキテクチャ変更の業務に取り掛かりました。

しかし始めてみると、想定していた3ヶ月を大幅に超えて、アーキテクチャ変更は7ヶ月かかってしまいました。もちろん、その間に新機能は追加されていません。その結果として、上層部は、チームからの意見を受け入れてくれなくなってしまいました。これが大きな挑戦・大きく試すことをして失敗してしまったときの大きな問題です。

今回の場合、例えば、システムの1/3だけ試しにアーキテクチャ変更してみて、その結果として大きなメリットを感じられたら、他の部分にも挑戦してみるといった方法も検討してみると良かったのかもしれません。この方法は、最終的に全部のアーキテクチャを変更する場合、必要な時間や手間は大幅に大きくなります。

ちょっとずつ変更するよりも、すべてを一度にやったほうが生産効率はよくなります。しかし、そうすると結果を知るのが遅くなり、それまで継続するかの判断を挟むことができなくなってしまいます。その結果、大きな失敗をしたときに失うものが大きくなるのです。

まとめ

  • アジャイルでは、失敗を恐れずに自分たちの仕事のやり方(プロセス)やどんな製品(プロダクト)を作るかをどんどんカイゼンしていく必要がある

  • しかし、失敗を恐れないかどうかは、評価など自分たちでコントロールしづらい

  • 大きなカイゼンはデメリットとして、時間がかかることや、失敗したときのダメージが大きい

  • 小さな挑戦・小さく試すことを念頭にカイゼンすることでフットワーク軽く、失敗によるダメージを小さくできるので、失敗を恐れずに挑戦しやすくなる


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