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オモテが出ればボクの勝ち,ウラが出ればキミの負け

同じ研究機関に30年余りも長居していると,人生の相談事をいろいろ受ける機会がある.つい先日も「 “なろ天守閣” で御奉公せよとの打診があったのですが,断っても “ブラックリスト” に載らないでしょうか?」との悩みの相談があった.昔から “参勤交代” の風習があるなろ城下町ではこういう人事異動の話はよく耳にすることだ.農水省直下の研究組織としては,行政とのインターフェイスの “面積” は大学や企業に比べればはるかに広いだろうし,それに関連する業務もとても多いからである.

しかし,そのインターフェイスに研究者が身を置くかどうかはまったく別問題だ.

ある程度の年代の(まっとうな)研究者であれば,一度や二度はそういう “甘い誘い” を受ける.そういう人事異動の話を受けるかどうかで “人生の白黒” が決まってしまうかのように悩むのはしかたがないことではある.ワタクシのように,「なろ城下町での研究者人生なんて一瞬先は “闇” なのよねー」と悟ってしまったらコワいものは何もないが,そういう経験をまだ十分に踏んでいない若手の研究者だと,いったいどう決断すべきか二の足を踏んでしまうこともあるだろう.

昔々のことだが,ワタクシは「北海道の〜試験場の情報処理研室長にならないか」とのお誘いを内々に受けたことがある(「情報処理」という言葉がまだ輝いていた時代だった).ワタクシは,その手の異動の話が出るたびに,「じゃあ,毎年つくばでやっている数理統計研修は誰がやるんですかねー」とはねつけてきた.選考採用で “裏口就職” したワタクシとしては,研究現場に居続けるのは当然の意思決定だと信じている.いずれのポストが「余人を以っては代えがたし」かを冷静に考えれば,ワタクシが下すべき結論は自ずと出てくる.

いずれにせよ,この手の “年季奉公” の案件は “人身御供” の受諾者が見つかるまで延々と人探しが続くので,ワタクシは早い段階で “異動困難者” ということになってしまったようだ.

なろ城下町では研究や業務は “属人的” であってはならないとみなす文化が強まっている.しかし,実際に研究や仕事を進めるにあたっては,「これはその人に」「あれはあの人に」と個人名が出てくるのは当然ではないか. “ポスト” が仕事をするわけではない.仕事をするのは “人” である.

最初の「悩みの相談室」に戻ると,その質問者に対しては「異動先で何か得られるものがありそうなら行くもよし.しかし,今のポストでしかできないことがあるなら行かないもよし」と答えた.異動の提示を受ける/受けないでプラスもあればマイナスもある.勝者/敗者の二択ではない.少なくとも,異動話を蹴ったとしても城下町の “ブラックリスト” (そんなものがあるかどうかさえ知らんけど)に載るようなことはない.

研究者としての “人生行路” の明暗は人それぞれなので,一般論でどうこういうことはできない.適材適所という言葉を今一度かみしめたい.ワタクシの研究者人生は,あえてなろ城下町の “外” で悪行を繰り返して,“兇状書き” を自発的にばらまき,異動話がそもそも向こうからもちこまれないように “独立宣言” してしまうという戦略でやってきた.なろ城下町のしたたかなワルい研究者どもはみんなそうしているでしょ.

自分で選んだ新しい道が意外に自分に向いていたり,逆にイバラの道の藪こぎで病んでしまったりという話はよく聞く.いずれにしても,進化的タイムスケールで見ればどうせ一瞬だけの(研究者)人生なのだから,自分で悔いが残らないように利己的に生き抜くしかない.

研究者人生に関わるある決断をしたとき,オモテが出ればボクの勝ちだし,ウラが出ればキミの負けだ.

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