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#507 「九州惣菜事件」福岡地裁小倉支部(再々掲)

2020年3月4日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第507号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【九州惣菜(以下、K社)事件・福岡地裁小倉支部判決】(2016年10月27日)

▽ <主な争点>
大幅な賃金引下げを伴う定年後再雇用の提案など

1.事件の概要は?

本件は、K社を定年退職したXが同社に対し、(1)主位的に、K社との間で再雇用契約を締結したのと同様の法律関係が成立している旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成27年4月から判決確定の日まで月額27万7200円(退職前の賃金額の8割)の賃金の支払を求め、(2)予備的に、K社が再雇用契約へ向けた条件提示に際し、著しく低廉で不合理な労働条件の提示しか行わなかったことはXの再雇用の機会を侵害し、不法行為を構成する旨主張して、2163万2000円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<K社およびXについて>

★ K社は、水産物や惣菜の製造・加工などを目的とし、昭和44年10月に設立した会社である。

★ X(昭和30年生)は、昭和48年3月から、K社において期間の定めのない労働者として勤務し、本社にて給与計算や決算業務などの事務を担当してきたところ、平成27年3月に60歳に達し、同月31日付で定年退職した者である。なお、定年退職前のXの賃金は月額33万5000円であった。

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<K社における継続雇用制度等について>

★ K社は高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」という)9条1項2号に定める継続雇用制度を導入しており、就業規則において従業員が満60歳に達した月の月末をもって定年とした上で、定年後も引き続き勤務を希望した場合は、労使間で締結した「継続雇用の選定基準等に関する協定書」の基準を満たしたと認めた者を再雇用とするものと定め、再雇用後の労働条件等については、定年後再雇用規程において、定年後の再雇用は原則として期間を1年とした期間の定めのある労働契約とし、再雇用にあたって会社が提示する労働条件は正社員時の労働内容と異なる場合があり、定年後再雇用契約は会社の提示する労働条件に合意し雇用契約書を交わして成立することなどを定めている。ただし、上記「継続雇用の選定基準等に関する協定書」は25年4月施行の高年法の改正に伴い廃止されている。
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<Xの定年退職までの経緯、本件提案等について>

▼ Xは26年12月、K社との面談において、定年後再雇用の希望を述べた。同社はこれを受けて、退職後の再雇用の労働条件として、次のように提示した。
雇用期間:27年4月1日から28年3月31日まで
勤務日:週3日
勤務時間:8時30分~15時30分(実働6時間)
賃金:時間給900円(通勤手当等なし)

▼ XはK社に対し、上記の条件では雇用保険の対象にならないこと等を伝えたところ、同社はXに対し、改めて以下のような労働条件を提示した(以下「本件提案」という)。
雇用期間:27年4月1日から28年3月31日まで
勤務日:月間約16日(週4日)
勤務時間:8時30分~15時30分(実働6時間)
賃金:時間給900円(通勤手当1万1000円)
加入保険:雇用保険・健康保険・厚生年金

▼ Xはフルタイムでの勤務を希望していたため、上記の条件では再雇用に応じられないと考え、27年1月、労働組合に加入し、申入れの結果、団体交渉が2回実施された。

▼ Xは27年3月末日をもって定年退職し、担当していた業務については、総務部の他の従業員に割り振られ、同部署に新しく雇用されたり、配属されたりした者はいない。

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