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#569 「巴機械サービス事件」横浜地裁(再掲)

2022年8月24日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第569号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【巴機械サービス(以下、T社)事件・横浜地裁判決】(2021年3月23日)

▽ <主な争点>
コース別人事制度の運用が違法な男女差別に当たるかなど

1.事件の概要は?

本件は、T社に入社した女性であるX・Y両名が同社に対し、自らが一般職とされ、総合職である男性従業員との間に賃金格差が生じていることについて、一般職と総合職の区別は性別のみであるから、この取扱いを定めたT社給与規程およびこれに基づく賃金制度が労働基準法4条(男女同一賃金の原則)に違反し、また、T社が採用段階において、Xらが女性であることのみを理由に一般職に振り分け、総合職への転換を事実上不可能にしていることがいずれも雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という)に違反すると主張して、(1)Xらが総合職の地位にあることの確認、(2)総合職であれば支払われたはずの賃金と実際に支払われた賃金との差額について、主位的に労働契約に基づく未払賃金請求として、予備的に不法行為に基づく損害賠償請求として、Xにつき合計489万1016円、Yにつき合計442万8176円およびこれらに対する遅延損害金の各支払を求めるとともに、(3)違法な男女差別により経済的、身分的な不利益を受け、精神的苦痛を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料各100万円およびこれらに対する遅延損害金の各支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社、XおよびYについて>

★ T社は、親会社が製作した遠心分離機のメンテナンス、設置等を業とする会社である。

★ Xは、2007年1月からT社において紹介予定派遣として勤務し、同年4月に同社との間で期間の定めのない雇用契約を締結して正社員となり、現在は総務課の一般職として勤務する女性である。

★ Yは、2008年10月、T社との間で期間の定めのない雇用契約を締結して正社員となり、現在は生産管理課の一般職として勤務する女性である。


<本件コース別人事制度、本件訴訟の提起等について>

★ T社は1978年6月に親会社の機械本部船舶部門のサービス部門を独立させ、同社の100%子会社として設立された。T社においては、設立から1999年3月までの約21年間、正社員は全て親会社からの出向者であり、同月に初めてT社独自の社員として総合職の従業員を採用し、この際に総合職および一般職によるコース別人事制度(以下「本件コース別人事制度」という)を導入した。

★ T社独自の一般職の従業員は2002年頃に初めて採用されたところ、2020年5月時点までに採用した一般職は9名であり、全員が女性である。また、これまでに同社が使用した総合職は56名であり、全員が男性であった。

★ T社の給与規程においては、一般職から総合職への転換を定める規定が存在するが、これまでに同社において一般職から総合職への職種転換がなされた実績は存在せず、具体的な基準を定めた規定も存在しなかった。

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