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#605 「熊本総合運輸事件」熊本地裁

2024年1月24日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第605号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【熊本総合運輸(以下、K社)事件・熊本地裁判決】(2021年7月13日)

▽ <主な争点>
残業時間にかかわらず賃金総額が固定されている給与体系など

1.事件の概要は?

本件は、K社に雇用されていたXがその就労期間中に時間外割増賃金の不払があった旨主張して、同社に対し、雇用契約に基づき、(1)時間外割増賃金813万1174円および遅延損害金62万8519円の合計875万9693円および内金813万1174円に対する遅延損害金の支払を求めるとともに、(2)付加金473万3030円(上記時間外割増賃金813万1174円のうち除斥期間対象分339万8144円を控除した額)およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<K社およびXについて>

★ K社は、1982年に設立された一般貨物自動車運送事業等を営む会社である。

★ Xは、2012年2月頃、K社と期間の定めのない雇用契約を締結し、2017年12月25日まで正社員として勤務していた者である。なお、本件訴訟におけるXの未払賃金の請求期間は、2015年12月1日から2017年12月25日までである。


<2015年就業規則の勤務時間、賃金等の定めについて>

★ K社においては、雇用契約締結当初、就業規則の定めにかかわらず、日々の業務内容等に応じて月ごとの賃金総額を決定した上で、その賃金総額から基本給と基本歩合給を差し引いた額を時間外手当とするとの賃金体系(以下「旧給与体系」という)が採用されていた。

▼ 2015年5月、K社は2002年に作成された就業規則を変更し(以下、変更後の就業規則を「2015年就業規則」という)、同規則に基づき、以下の内容の新たな賃金体系(以下「新給与体系」という)を導入した。

(1)基本給は、本人の経験、年齢、技能等を考慮して各人別に決定する。
(2)基本歩合給は、運転手に対し1日500円とし、実出勤した日数分を支給する。
(3)勤続手当は、出勤1日につき、勤続年数に応じて200~1000円を支給する。
(4)残業手当(見込んだ調整手当の時間を上回る時間外労働を行った場合の差額残業手当)、深夜労働割増賃金および休日労働割増賃金(以下「本件時間外手当」と総称)ならびに調整手当(法定労働時間を超えて労働した場合の残業手当見込分)から成る割増賃金(以下「本件割増賃金」という)を支給する。
(5)宿泊日当は、宿泊を伴う勤務を行う場合、一泊につき2000円を支給する。

★ このうち、本件時間外手当の額は、基本給、基本歩合給、勤続手当等(以下「基本給等」という)を通常の労働時間の賃金として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した額であり、調整手当の額は、本件割増賃金の総額から本件時間外手当の額を差し引いた額である。本件割増賃金の総額は、旧給与体系と同様の方法により業務内容等に応じて決定される月ごとの賃金総額から基本給等の合計額を差し引いたものであった。

★ K社は2015年12月からデジタコを用いた時間管理に基づく時間外手当の支給を行い、それらの時間および支給額を給与明細にも記載するようになったが、2015年就業規則の施行後も旧給与体系と同様に運行内容等に応じて賃金の総額を決定した後、その総額から定額の基本給と上記時間外手当を差し引き、残額を調整手当として従業員に支給していた。

★ 2015年就業規則制定の前後でXを含むK社の従業員の給与の総額や総労働時間はほとんど変わっていなかった。


<2015年の労働基準監督署の指導等について>

▼ K社は2015年5月、熊本労働基準監督署から、運転日報に運転時間、作業時間、休憩時間等の時間が適正に記録されていない状況となっており、労働時間を適正に把握しているとは認められない状況にあることから、自動車運転者に運転日報の適正記録を励行させ、もって適正な労働時間管理を行うよう指導を受けた。

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