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生成AIは法務ナレッジマネジメントを変革できるか~肯定論・否定論

1 はじめに

弁護士の干場智美(SAKURA法律事務所・第67期)と申します(経歴はこちら)。
先日は、りーぷら様に「若手インハウスロイヤーが業務上留意すべきポイント」と題して寄稿をさせていただきました。拙稿をご覧いただいた皆様誠にありがとうございました。

 さて、本稿においては、「法務ナレッジマネジメントの推進」について触れたいと考えております。前稿である「若手インハウスロイヤーが業務上留意すべきポイント」とは、全くの別テーマであるように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、前稿は「若手法務の人材育成」を目的として執筆させていただいたところ、いずれも「法務の体制整備及び機能強化」を構成する一要素ですので、関連テーマとして採用させていただいた次第です。

 そして、昨年より生成AI及び生成AIを連携させたサービスの開発及び展開が世間を席巻していることに鑑み、以下では、「生成AIは法務ナレッジマネジメントを変革できるか」という視点から議論をさせていただきたく思います。

なお、以下の内容は、私個人の見解であり、りーぷら様や私が所属する団体の見解ではないことをご承知おきくださいませ。 

2 生成AIは法務ナレッジマネジメントを変革できるか~肯定論

(前振りは長かったですが、)私は、既に、昨年(2023年)の8月に、とあるセミナーで「AIでナレッジマネジメントを効率化できないか?」というテーマにて講演をさせていただいております。

その際には、今後AI検索機能を搭載したナレッジ検索サービスが出現すること前提に、概要、

- (生成AIが搭載された)AI検索機能によってリサーチ時間や法務部内での引継ぎに要する時間が減少する
⇒ 法務業務が効率化され、かつ、引継ぎ不足による法務人材のエンゲージメントの低下や法務ナレッジの紛失も防止できる。

- 生成AI(LLM:大規模言語モデル)の有する特質(言語処理機能)により、AI検索機能による回答は、経営陣や法務部以外の事業部の方にも分かりやすい
⇒ 法律知識が法務人材のみに帰属するという属人化の防止に資する。

ということをお伝えしました。

 すなわち、昨年の8月時点では、私は、「生成AIは法務ナレッジマネジメントを変革できるか」という問いに対して、肯定論を支持していたことになります。 

3 生成AIは法務ナレッジマネジメントを変革できるか~否定論?

その後、昨年末から本年にかけ、いくつかの電子法律書籍サービスにおいてAI検索機能が搭載された旨の告知がなされたため 、私も実際に利用してみました。

実際に利用すると、便利であると感じる一方で、法務ナレッジマネジメントの観点からは以下の問題が発生するのではないかとの感想を持ちました。

- プロンプト(AI検索機能における質問)の精度によって、回答の妥当性や回答の根拠として提示している法律書籍の適切性に差異が生じる
⇒ 従前より法務人材に対して要求されていたリサーチ能力の一部として、プロンプトリテラシー(適切な回答を導くために必要なプロンプトを入力する能力)が追加されるだけであって、法務人材にとって高度な専門性が要求される状況は変わらない。すなわち、法務ナレッジの属人化の問題や業務の非効率性に係る問題を解消できない。

- AI検索機能によって一定の回答が提示される以上、法務部内においてナレッジを共有しようというインセンティブが働かない
⇒ 結果的に、法務ナレッジの属人化を促進することになるのではないか。

 以上より、2024年3月現在、私個人としては、生成AIは法務ナレッジマネジメントにとって却って逆効果をもたらす可能性があるのではないかと考えているところです。特に、AI検索機能を用いたナレッジ検索サービスの導入が進むにつれ、(少なくとも日本の多くの企業の法務において)現在以上に法務の属人化が進む蓋然性もあるのではないかと思う次第です。 

4 肯定論と否定論に関する議論と展開

そうした私の問題意識と見解について、りーぷら様の照山浩由氏にお伝えしたところ、照山氏からは、「結局は、AI検索機能もツールであるから、利用方法次第でその問題意識は解消できるのではないか」とのご助言を頂戴しました。

私も、生成AIの現在の躍進が直ちに法務ナレッジマネジメントを阻害するとまでは考えておりません。しかしながら、大仰に言えば、日本企業の法務全体がAI検索機能の導入を通じて法務業務の属人化を(意図せず)推進してしまう前に、利用方法やサービス側の改善に関し何らかの提案や意識づけをした方がよろしいのではないかと考えております。

例えば、

- 電子書籍サービスにおいて、当該所属企業のユーザーのプロンプトの履歴を閲覧できるようにする。

- 電子書籍サービスにおけるプロンプト入力時にサジェスト機能(よく入力されるプロンプトの提示)を付し、適切なプロンプトを入力させるようユーザーに促す。

- 法務部内において、AI検索機能におけるプロンプトリテラシーの向上のための勉強会を行う。

- 法務部内において、プロンプト及び回答内容を共有し、日々の業務改善に役立てることを意識づける

などが考えられるところです。 

5 結語

とはいえ、私の問題意識自体が独善的かもしれませんし、肯定論・否定論や解決方法についても定見があるわけではありませんので、多くの法務パーソンの方と議論を交わし、知見を深めていきたいと考えております。

是非忌憚なきご意見を頂戴できれば幸いです。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。 

寄稿者ご紹介

SAKURA法律事務所 弁護士 干場 智美先生
一橋大学法科大学院修了、株式会社レオパレス21、株式会社リコー等を経て現職。現在は、労務/ジェネラルコーポレート/IPO支援を主軸業務としながら、リーガルオペレーションズ(ナレッジマネジメント等)についての活動も行っている。
事務所URL(弁護士等紹介ページ):
https://sakura-lawyers.jp/lawyer/tomomi-hoshiba/

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