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【考察】JR東日本の「キュンパス」は単なる企画切符ではない

何やらJR東日本が面白い切符を発売しています。
その名も「たびキュン早割パス」。

切符の詳細はJR東日本の公式ホームページをご覧いただくのがよろしいかと思います。切符の概要を軽く示しますと、

  • JR東日本路線(+一部私鉄線)が新幹線を含めて一日乗り放題になる

  • 価格は10000円

  • 14日前までに「えきねっと」限定で発売

  • 利用は(2024年)2/14~3/14の平日のみ

よくある「フリー切符」の類かと思いきや、少し変わった点があります。
それは、新幹線を含めて乗り降り自由ということ。
JR東日本は「週末パス」や「休日おでかけパス」をはじめとして、いくつかのフリーパスを通年発売していますが、その中で新幹線が乗り放題になるものは極めて珍しいのです。あったとしても、ことごとく発売制限がかかっています。(例:「大人の休日俱楽部パス」や「JAPAN RAIL PASS」など)
だからこそ、こうした事実が、一見すると強気に見える10000円という価格設定に、妥当性を与えています。そしてこれらの魅力が、鉄道ファンは言うに及ばず、旅行ファンや一般の人々を引き寄せているのでしょう。ネットニュースやブログ、X(旧ツイッター)等で「たびキュン早割パス」についての記事を多く見かけます。

前置きが長くなりましたが、この切符には以下の3つの特徴的な点があります。それは・・・

  • 利用が平日限定

  • 「えきねっと」限定での発売

  • 春休み期間の利用に限る

ここで上の3点を列挙したのは、単にこの切符の持つ制限を伝えるためではありません。この3点についてきちんと考察することで、JR東日本は、この「きゅんパス」を単なる乗り放題型の企画切符として扱っているわけではない、と分かってきます。それどころか、JR東日本の真の意図が見えてくるのです。
持論ではありますが、以下ではこれについて詳しく述べていきます。


利用が平日限定

先述したように、JR東日本はほかにも「週末パス」や「休日おでかけパス」など多くのフリーパスを発売していますが、そのほとんどが、利用を土日祝に限っています。例外があったとしても、「青春18きっぷ」など、(シーズン内であれば)常に利用可能としているものだけです。利用を平日限定としているものはほかにありません(注1)。この切符はその点で珍しく、特筆性を帯びています。では、なぜこの切符は、利用を平日限定としいるのでしょうか?

そもそも旅行する場合、平日と休日のどちらを選ぶことが多いでしょうか?
答えは言うまでもなく、休日です。平日に旅行をする人は少数でしょう。
すなわち、休日限定の切符があろうとなかろうと人は休日に旅行に行くのです。したがって、既存の休日限定の切符が、混雑に拍車をかけることは容易に想像できます。
この切符が利用を平日に限るのは、こうした流れを踏まえて平日の旅行を喚起し、混雑の平準化を図る目的があると考えます。話は変わりますが、JR東海ツアーズが推進する「ずらし旅」にも同様の目的があるのでしょう。

そして、このような狙いは、公共交通において昨今の議論の的になっている「ダイナミックプライシング」に通じるものがあります。
簡単に言えば、需要が高いときに運賃(料金)を上げ、需要が低いときにこれを下げるというものです。今回この切符を発売することで、需要が低い平日に(相対的に安い)企画切符で旅行を促進する一方で、需要が高い休日に(相対的に高い)正規料金での旅行を促す、という形で間接的に「ダイナミックプライシング」が達成されるのではないかと考えるのです。運賃部分の直接的なダイナミックプライシングは現在法的に難しい状況にあるので、こうした企画切符を用いた方法を用いたダイナミックプライシングの達成には、一考の余地があります。

注1:ただし、JR東日本はかつて「休日おでかけパス」の平日版ともいえる「ひみつの平日パス」を発売したことがある(現在は発売していない)。

「えきねっと」限定での発売

「えきねっと」とはJR東日本による、きっぷの予約サイトです。
先述のように、「きゅんパス」は発売をえきねっとに限っていますが、この背後にどのような理由があるのか考えてみます。

そもそも、JR東日本が通常発売しているフリー切符の中で「えきねっと」などインターネットでしか購入できないものはそれほど多くはありません。時代の流れもあって、「週末パス」など、「えきねっと」"でも"買えるものは数多くありますが、「えきねっと」"でしか"買えないものは珍しいです。大体は(窓口か)指定席券売機で購入できます。

こうした事実に反して「きゅんパス」が「えきねっと」限定での発売としている背景に、鉄道のネット予約へのシフトを促進する意図が見て取れます。
というのも、昨今の「みどりの窓口」の廃止の流れはとどまることを知りません。都区内や山手線の駅でさえみどりの窓口が廃止されている始末です。こうした流れにあって、JR東日本は、この切符の発売以前より切符の予約・発券のオンライン化を積極的に進めてきました。
以下のプレスリリース(2021.05.11)はその一例です。

https://www.jreast.co.jp/press/2021/20210511_ho01.pdfより引用

今回、「きゅんパス」という魅力的な切符を "飴" として用いることで、このチケットレス・オンライン化の流れを促進していく意図があるのではないか、と考えます。
そして、この切符に関して言えば、そのターゲットは明確です。
それは、ビジネス客ではなく、鉄道・旅行ファン
今まで紙の切符で移動していた鉄道ファンや旅行ファンを特にターゲットとしてオンラインへのシフトを促す意図があるのではないでしょうか。

春休み期間の利用に限る

この時期での発売となったのはたまたまでしょうか?
もちろん、それも否定はできませんが、私はたまたまではないと考えます。

JR東日本の繫忙期・閑散期のカレンダーを見てみると、2/14~3/14の時期は閑散期あるいは通常期となっていて、2024年に関して言えば繁忙期の日は一日も存在しません。すなわちこの時期での発売は、前に述べた混雑の平準化を達成するうえで丁度よいのではないでしょうか。

また、2月の上旬は春節と重なることで、多くの観光客でにぎわいます。
同様に、3月の下旬も学生(主に小中高生)の春休みとなり、賑わいを見せます。(実際にこの時期は繫忙期です)
この間にある2/14~3/14という時期は2つの繫忙期に挟まれた "閑散期" ということになり、こうした企画乗車券の発売がしやすかったのでしょう。

さらにこの時期は大学生の卒業旅行を多く控え、こうした切符への潜在的なニーズが見込まれます。
様々な条件がそろったのがこの2/14~3/14という時期なのだとみることができるのです。

最後に

このように一枚の企画乗車券から、背後にある複数の意図を垣間見ることができます。あくまで私の考察ですので、真偽のほどは分かりかねますが、以上のような事情があってもおかしくはないのでしょう。

ご意見・ご感想などありましたら、コメントいただけると幸甚に存じます。
noteでは、このような鉄道関連の記事のほか、プログラミングを用いた動画編集についても執筆しておりますので、お時間がございましたら、ほかの記事もご覧ください。


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