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4月3日「シン・ゲンゴウ」

「新元号が発表された!わーい!」
と女の子が公園ではしゃいでいた。
そんなに嬉しい?
すこし違和感を感じてると男の子が、

「ちえっ。発表されちまったなぁ…」
と落ち込んでいる。

なんだか派閥がある。
クラスとかによって違うのか?

すると女の子が
「じゃあ私に12000ゲンゴインね」
となぶるような目付きをして言った。

言われた男の子は、「家帰ったら振り込んどくよ…」
と手で追い払う手振りをした。

女の子は、「イエーイ!何買おうかなあ~」
とウキウキスキップしながら帰っていった。

賭博だ。明らかに賭博だ。
聞いたことない単位でやり取りしてる。
気になる。
負けた子が寂しそうにブランコに乗っている。
不審者扱いされるのを覚悟で聞きに行くことにした。

ブランコに恐る恐る近づくと、
「見てたんだろ?無様な姿をよ」
と向こうから話しかけてきた。
びっくりして、
「ハイ!」と言ってしまった。恥ずかしい。

「隣、座れよ」
と促され、久しぶりに乾いた土の感触を尻で感じた。

大人だな~と思っていると、
「俺は本当にガキだ青二才だ」
と切り出してきて、少し古い大人だ…と思った。

話を聞くと、予想通り新元号発表するかしないかで賭博が行われ、発表されない方に賭けてしまったそうだ。

「政府が発表しなくても、天皇が崩御されたらどのみち俺の負けだってことに、賭けてから気付いちまった。もっと社会の勉強をしておけばよかったぜ…」

何て声をかけたらいいのかわからない。
ブランコのきぃという音が妙に響く。

「でもいいんだ!さっちゃんの嬉しそうな顔見ただろ?あの顔が見られた時さ、俺負けてよかったなって思ったんだ。へっ笑えよ」

「へっあっそっすね」しか言えなかった。

「また1からゲンゴイン集め直しだけどいいか」

出た。ゲンゴイン。気になる。気になる。気になる。
「気になる?ゲンゴイン?」
また読まれてしまった。

「ゲンゴインってのはね、仮想通貨なんだ。今一番アツい仮想通貨と言っても過言じゃない。持っているだけで損することはない。まあ、賭けに負けたりしなければね」

アメリカン!

「今回はね、このゲンゴインをね、特別にお兄さんに紹介してあげようと思うんだ」

ブランコを僕の方に目一杯乗り出して語る男の子の両目は$マークになっている。

「入会金は当然タダ! ただ1500円。筆箱代だけ払ってもらおうかなと思うんだ。でも見てこの筆箱。すごいカッコいいでしょ」

ランドセルから出した筆箱には黒地に黄色い文字で「GENGOIN」とプリントされており、確かにちょっとオシャレだ。
少し欲しい。

この筆箱がもらえるのなら天才小学生の詐欺に引っ掛かってみるのも悪くない。
この子は将来大物になるかもしれないし。

「僕は大物になるよ~」
また心を読まれつつ、僕は財布を取り出し千円札に手をかけようとした瞬間。

「そこまでだ!もう逃がさないぞ!」と警察が覆面パトカーから颯爽と出てきた。

「くそう!」
と言って男の子はランドセルも背負わず駆けたが、大人の脚力にはかなわない。
連行されていった。

僕も事情を聞かれ、ありのまま話すと、
「あいつは天才詐欺師なんだ。あなた以外にも被害に遭った人が大勢いる。あの筆箱ちょっといいなと思っただろ。カラーバリエーションもたくさんある。でもな、あれは使ってると一ヶ月くらいで壊れるんだ。」

戸惑っていると、

「でもな、こいつは本当に頑丈だぜ」
とさっきとほとんど同じ黒い筆箱を取り出した。

警察官は、せせら笑って「同じじゃないぜ」と言い、
見ると黄色い文字で「GENGORO」と書いてある。

「ウチのデカ長の名前だ。かっこいいだろう。特別に2000円でいいぞ」

断ったら逮捕されるんじゃないかと思い2000円払うと、「それで良い」とだけ言われ去って行った。

帰り道に手がすべって筆箱を落としたらすぐ壊れてしまった。

僕は猫のエサを詰めて公園の茂みに置いた。
もし餌付けに成功したら「ゲンゴロウ」と名付けてやろうと思った。

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