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歌姫幻像 その2

 不慮の死とは誰にでも訪れる死を意味するのだろうか。
 ホイットニー、彼女のファースト・アルバムとセカンド・アルバムは買って、当時、よく聴いたものだ。
 あの人なつっこい笑顔、明るさ、快活さに隠されていたもの、その支えきれないほどの重さを知るとき、天性の歌手であれ、その人生を全うすることの難しさを思い知らされる。
 48歳で突然閉ざされた彼女の、夢の彼方にある世界は、いまでも少しも輝きを失っていない。
 
 「I WILL ALWAYS LOVE YOU」、この曲は、「NHK SONGS」に出演したシャリース(母国では、チャリース)で聴いて、くじけそうになるくらいの深い衝撃を受けた。
 ホイットニーとはまた違う高みに彼女も達していた。そして、その後の彼女の生き方を知るとき、感慨は言葉にできそうにない。
 
 彼女は、幼い頃から、歌の物真似が好きだったという。賞金で家計を支えるため、コンテストに頻繁に出ていたようだ。父は事件で亡くなった。
 15歳くらいで、ユーチューブで評判になった頃には、物真似歌合戦のレベルを遙かに凌駕し、本物の歌手になっていた。まだ、母国フィリピン以外では、アルバムは出ていなかったはずだ。
 まさか、あの小さな女の子が、オリジナル(セリーヌ、ホイットニーetc.,)の歌と堂々と渡り合い、軽々と飛び越えてしまうとは。
 誰もが意表を突かれ、驚愕し、賛嘆し、熱狂した。
 なぜなら、オリジナルが追求した理想の歌の先に、もうひとつ別の理想とする歌声が聞こえてきたからだ。
 確かに、こんな歌であったらと心のどこかで願っていたような気がする歌が、あの少女の声で、見事に、より力強く、圧倒的な声量で、しかも、より洗練されて、完璧に、実現されている。
 それは、もう物真似ではなく、歌そのもの、真実の歌である。それが新しい命を獲得したとき、それは唯一無二のオリジナルとなる。
 ひとりの人間が歌いうる歌の極点をはっきりと差し示している。
 もし可能なら、これは、わたしの儚い願いでしかないが、シャリースには、都はるみの歌を歌い継いでほしい。
 彼女には、はるみ節を継承するだけの才能と力量がある、わたしは、そんな他愛もないことを思い、シャリースのCDを1枚ネットで買った。
 
 これは、わたしの妄想みたいなものだが、彼女に歌ってほしかった楽曲が幾つかある。
 アンコ椿は恋の花(都はるみ)
 愛はかげろうのように(シャーリーン)
 会いたい(沢田知可子)
 ロマンスの神様(広瀬香美、スキー場のリフトの上でよく聴いた歌だ)
 この世の花、からたち日記(島倉千代子)
 岸壁の母(二葉百合子)
 母の好きだった歌、母の年が近かった叔父はあの戦争でニューギニアに出征し、敗戦で命からがら日本に帰り着いたが、そのまま病死した。リンゴを食べたいと言うので、母が買ってきて食べさせると、とても喜んでいた、涙を流していた、そんな話をよくしていた。
 
 彼女の歌唱で最も多くの聴衆に衝撃を与えた「MY HEART WILL GO ON(セリーヌ)」と「I WILL ALWAYS LOVE YOU(ホイットニー)」が世界デビュー後にCD化(スタジオ録音)されずに終わったことが、なんとも残念で仕方がない。
 
 シャリースが到達した最高の地点、パフォーマンスは、DAVID FOSTERと共演したステージでの「TO LOVE YOU MORE」と「ALL BY MYSELF」であろう。
 人間が歌いうる歌の極致がどのようなものか、それらの歌ははっきりと示している。これを凌駕する歌はおそらくない、今後も、現れることはないだろう、そう思うと、心が薄衣のように引き裂かれてしまいそうになる。
 シャリースは、LIVEで、その真価を発揮する。
 
 ジェイクとなった人には
 無法松の一生 度胸千両入り(村田英雄)
 若い頃、飲み友達がスナックでよく歌っていた歌だ。いつの間にか、聞き覚えて、わたしも歌えるようになっていた。
 彼とは、競馬にもよく行った。年に1,2度は泊りがけで競馬場のある宝塚へ行き、夜は、梅田とかに繰り出したものだ。ギャンブルは何でもひととおりやっていたが、酒の飲み過ぎで四十代半ばに亡くなった。まだ、中学生を頭に、三人の子どもがいた。
 「おやじは、若死にした」とよく言っていたが、まさか、同じことになるとは。最後に行った見舞いのときには、だいぶ弱っていたが、まだ、希望を失っていないように見えた。それが、なんとも言えず、掛ける言葉も見つからなかった。
 見舞いを渡すと、彼は、嬉しそうに礼を言って、枕の下にそれをしまい込んだ。競馬の儲けでおごってもらった分は、とうとう返せないままだった。
 雪の降り積もった日に、葬儀に行った。
 雪はなかなかやまず、お寺での葬儀の間も降り続いた。最後に、共働きの奥さんが、雪の中、外に出て挨拶していた。子どもたちが静かにそれを聞いていた。
 駐車場に戻ったら、車が雪ですっぽりと埋もれていた。
 まるで白無垢にでも包まれたような不思議な光景だった。あのときほど雪が白いと思ったことはない。
 
 星影のワルツ(千昌夫)
 これも母の好きだった歌だ。今になって思う、父の好きだった歌は、いったい何だったのだろう。父が何か口遊んでいるのを聴いた、そんな記憶がない。本当だろうか。
 父は、戦争を生き延びた。復員して、母と結婚した。
 
 おやじの海(村木謙吉)
 さざんかの宿(大川栄策)
 さくら 独唱(森山直太朗)
 桜坂(福山雅治)

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