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おばあちゃんへの手紙 エピローグ04

「最後のここの文字は
パパさんの文字ではないですね。」


「えっ。」
慌ててその文字に目を落とす。


私の手紙の末尾に記されたその一文には、
こう書かれていた。



“追伸、この手紙は私の誇り。
たくさんのありがとうをありがとう。

愛さん、
悟を選んでくれてありがとう。
悟をよろしくお願いしますね。

引き出しの中のもの、もらってください。
これで心置きなく旅立てます。”



2人して、それは号泣のサインだった。

それからしばらくは抱き合って泣き続けた。


どれくらい時間が経ったのだろう。 
「引き出し…」と私は呟いた。


この文机の引き出しから、
おばあちゃんがよく、大好きな甘露飴を
取り出してくれたのを覚えている。

おばあちゃんとしては、
のど飴がわりに常備していたのであろうが、
子供の私にとっては格好のおやつで、
よくねだったものだった。

時に肝油ドロップなる時もあり、
それも大好きだった。

「開けてみよう」私は愛に目で合図したが、

愛はまだ鼻の頭を真っ赤にして
目は涙でぐしゃぐしゃだった。

でもキョトンとして、
何のこと?といった感じで
泣き止ますことには成功したらしい。

それにしても
“今”の切り替えのは
相変わらず大したものだ。


私はそっと引き出しに手をかけた。

木の感触を感じながら、
ゆっくりと引くと、

そこには
濃紺のフェルト生地であしらわれた
見るからに年代物の指輪ケースがあった。


ちょうど手のひらに乗るサイズで
ドラマのプロポーズシーンに出てきそうな
四角ではあるが、こんもりと丸みを帯びた
形をしていた。


蓋をパカっと開けると
貝が開いたかのように中の空間が広がり,
そこには本当に飾り気のない
シンプルな金のリングが、
でも凛として、存在感を讃えていた。



「指輪だ…」私が呟くと


「指輪ですね…」と愛も呟いた。


「おばあちゃんからの指輪、もらってくれる?」

と指輪ケースを優しく差し出すと、
愛は両手で大切そうにそれを受け取りながら、

「大切にします。」と微笑んだ。


指輪自体は
とても使い込まれた風格が漂っていたが、
そのケースの内側には“まつざかや”のロゴが。

ものは確かなものらしい。



私が「よかった…」と蓋を閉じた時、

その夢の幕も閉じた。



次の朝、

大切な夢を見た後の
独特の包まれるような暖かな気持ちで
目が覚めると、
しばしその余韻に浸っていた。


隣には、もう愛はいなかった。

朝の支度をしているのだろう。


ゆっくりと布団から出て身支度をしていると、
「パパさん、おはようございます。」
といつもの明るい声がきこえてきた。

振り返ると愛が満面の笑みを讃えて立っていた。




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