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おばあちゃんへの手紙 エピローグ02

中はがらんとして何もなく静かだった。


しかし、
間違いなくその頃の家であり、
おばちゃんの供養の旅が
始まるきっかけとなった。

夢に出てきた家だ。

ただその時は、

中から若返ったおばあちゃんが出てきたり、
母と夕食の支度をしていたりと、
何かと慌ただしかったのだが、

今回は静まり返っていた。


それどころか
家具も調度品も一切なく、
ただがらんとした家の中の
空間が広がるばかりだった。


「お邪魔します。」

愛が遠慮がちに声をかけた。


しかし、帰ってくるのは静けさだけだった。

「誰もいないみたい。」

「そうだね。とにかく上がってみよう。」

靴を脱ぎ、
黒光りするほど磨き上げられた床板に
足を乗せた。

ヒヤリとした感覚が伝わってくる。

少しずつ奥の部屋に進んでいくと、
たったひとつ、
おばあちゃんのん文机が
残されていることに気づいた。


正座して座れば
ちょっとした書き物ができる
おばあちゃん愛用の小さな小さな文机だ。


「あれ、おばあちゃんの机だ。」
「それに、机の上に何か
封筒が置いてありますよ、パパさん。」


私はピンときた。


最初の夢で
おばあちゃんが私にくれたあの封筒だと。


近づいてみるとますます確信となった。


文机の前に
2人してちょこんと座り、
封筒を見つめる。


「これ、前の夢で
おばあちゃんがくれたものに間違いないよ。

でも前回は
夢から覚めると手紙に書いてあった内容が
どうしても思い出せなかったんだ。

夢の中であんなに号泣したのに…」


「じゃあこれで確かめられますね。
私も一緒に拝見してもいいですか。」

「もちろん、
今度は忘れないように一緒に見てほしい」

「はい」


2人は神妙な顔つきで頷き合い、
封筒に手を伸ばした。


封筒の中からは5000円札が出てきた。
これは、その後話を聞いて合点が言った。


父母が晩年おばあちゃんに毎月あげていた
お小遣いが5000円だったそうだ。

おばあちゃんは
いつもそれを大切そうに受け取って、
嬉しそうにしていたらしい。

そしてやっぱり次に写真が出てきた。

ただ今回は女性の裸の写真ではなく、
性別はわからないが
産まれたばかりと思われるおくるみに包まれた
裸の赤ちゃんの写真だった。


「なるほど、そういうことだったのか。」
私はあいに説明した。


ここには確固たる実態があるわけじゃないので
伝えたいイメージのようなものがあって、
まだ認識能力の未熟だった前回では、
正確に私の方が解読出来ず、
少々煩悩混じりのイメージ像を
作りあげたのではないかと。


細君はクスクス笑っていた。


だとするとこの赤ちゃんは、、
自分の子であるか
孫である私たちであるか、まではわからない。


でも、産まれたままの
無垢な赤ちゃんの写真からは
おばあちゃんの喜びと幸せが
伝わってくることから、
おばあちゃんの人生にとって大切なもの、
嬉しかったことが選ばれていることがわかる。


では、次に出てくるであろうあの手紙は、
いったい何だったのだろう。


はやる気持ちを抑えながら、
ゆっくりと数枚にわたる便箋を取り出した。



「んっ?」

その時、不思議な違和感を覚えた。

どこかでこの便箋を私は知っている。

それは前回の夢で見たから
とかそういうわけではなく、
何かもっと別の意味でだ。


しかし、
そこは何も言わず、

愛の顔にひとつ頷くと、

恐る恐る手紙を開いた。


「あっ」思わず声が漏れてしまった。


愛も気づいたらしい。

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