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『芸術的創造は脳のどこから生まれるのか?』は知性があって生まれるセレンディピティ

大黒達也氏による著書『芸術的創造は脳のどこから生まれるのか』は人間の脳メカニズムに基づいた創造性プロセスを分かりやすく紹介している.この芸術的創造は芸術のみならず仕事におけるアイデアや新しい発見を助長する際にも有効な手立てである.

そして創造性において最重要なのが「知性」である.この知性を基に創造的とは何かを考えてみたい.

記憶は2種類の大きな枠組みで捉えることができる.「潜在記憶」と「健在記憶」だ.

まず潜在記憶は人間のエピソードに基づいて記憶されることで無意識的な行動を助長するもので、自転車に乗ることやピアノが弾けることは潜在記憶に該当する.

健在記憶は情報を学習することによって外部に出力を行うことができる記憶で、過去の経験談やクイズの回答は健在記憶によるものである.

この両者の記憶の相互関係によって人間は知的活動を可能にしている.「知行合一」という概念は正に知識と行動の一致によって作られるもので、ピアノの演奏の例ではピアノに関する知識と潜在的な弾く行為に対する記憶が関係することによって素晴らしい音色を奏でることができる.両者の内、どちらかが欠けていれば素晴らしい演奏は不可能になる.

この潜在記憶と健在記憶の相互関係によって人間は知的活動を可能にすると述べたが、これは創造性の以前の話で、創造的活動はさらに複雑な人間の欲求と結びついて行われる.

まず、創造的な人を思い浮かべてみるとノーベル賞受賞者や芸術家、音楽家といったイメージを持つだろう.そしてこれらの人々は徐々に研究を進めるというよりは、ある日突然の出会いによって発見する場合が多い.ノーベル賞受賞者の例を挙げるとiPS細胞の発見に貢献した山中伸弥教授はシャワー中に「細胞に4つの因子を加えることでiPS細胞ができるのでは」と閃いたそう.他にも3つのクォークにさらに3つのクォークの発見に貢献した小林・益川理論の益川敏英教授もシャワー中に「4つ目が見つからないなら3つ同時に見つけられるのでは」という驚愕の閃きをした.

これらは人間の創造活動の究極系であるセレンディピティだ.セレンディピティは「偶然の産物」「幸運な偶然を手に入れる力」と言われ、ラブロマンス系のストーリーで用いられることが多いが、人間の知的活動にも当てはめることができる.

このラブロマンスの出会いと知的活動の出会いの共通点は行動プロセスによって引き起こされる偶然だということだ.

例えば、彼女(彼氏)が欲しいと思った時、家の中にいては作ることはできない.アプリでマッチングしても外に出てコミュニケーションをとることは必須である.閃きも同じように何も知らない状態で閃きに出会うことはできない.情報が存在してニューロン同士のつながりによって偶然引き起こされる出会いだ.要は何も知らない(知識がない)状態では何も生み出されないことを意味する.

本書の中では創造性を

内発的意欲(喜びや、驚き、アハ体験)

外発的意欲(金銭的報酬、他者からの称賛)

と示している.この2種類の意欲が先ほど述べた知的活動の基盤と繋がることによって創造することができるのだ.

このように創造するに関するセレンディピティには知性が必要であり0→1の情報ではないことが理解できる.実際に行われているのは「情報×情報=創造」である.想像性がある人というのは言い換えれば知性がある人でもある.しかし創造というのはこれほど単純なモデルではなく柔軟性や思考法、情報の捉え方など脳の様々な働きを利用して可能にしている.

今回はその一部分として創造に関する理解を深めてほしいと思う.

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