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『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は若者の努力不足なのか

コンサルティング会社代表の城繁幸氏による著書の中で企業の人事課との対話がある.
その時の対話相手は「彼らはわがままで、我々の世代よりも忍耐力が劣っている」と述べられている文がある.私はこの文章に納得ができる反面、些か疑問に思えた.

この本が書かれたのは2006年でこの時代の若者は現在では40歳、50歳くらいになっている.

この2006年当時の若者から今の若者を俯瞰して見てみると精神疾患(ADHDなど)の患者は増加傾向にあり、小中学生の不登校率も年々増加している.これは若者のわがままや忍耐力が劣っていると判断することができるだろうか.

答えは「否」ではないだろうか.本書で紹介されている話によれば同社は仕事の内容と卒業時の学生の願望のギャップをなくすためにインターンシップ活動を積極的に支援しているそうだ.さらに「若者の考え方が甘い」とも批判している.

確かに企業に就職してすぐに総括やチームリーダーとして先頭に立つのは難しいだろう.しかし企業側が「お前らは考えが甘いからダメだ」と突き放す考え方には些か疑問を感じる.

これだと「お前の考え方は甘いから現実を受け入れて会社の言う通りに動け」と言っているようなものだ.やはり上司と部下との間に壁ができてしまっている.

この本で紹介されている通り、バブル期に一斉に入社した1980年代の人材はバブルの債権処理など経済の停滞により事業の縮小などにより安定したレールでの昇進が難しくなり、会社の駒として従事してきた人間は地獄を見ることになった.とされている.

その追い討ちをかけるように本書で語られている2年後の2008年にはリーマンショックが起こり世界経済は一気に不穏な空気に包まれ、連日の円高報道で行き場を失った企業も多かった.より安定したレールでの昇進は難しくなったことを突きつけられた時代になった.

すると「若者がわがまま」という判断は誤っていたことを理解することができるはずだ.会社に従事し、仕事とはそう言うものだと信じた者は会社から早期退職願いを募集されるのに対し、自分の追い求める像を実現するために会社を3年で辞める若者のアドバンテージは大きく異なる.

今も昔も若者は会社よりも先進的な考え方をしているのだが、会社側が追いつけていない.と考える方が納得できるかもしれない.

グローバル経済を形成する中で求められるのは会社の適応力であり柔軟性に違いない.家族として人生を共にする企業が減少しているのは若者の境遇の変化による企業の柔軟性の結果ではないだろうか.

「最近の若者は考えが甘い」のではなく、会社側の人間が自分の世界に入り込んでしまった迷い猫になってしまっている可能性がある.この若者の意識と会社側の人間の思考の中心に存在するのが適度であり、求められる像に違いない.

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