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ヒトは戦争をやめられないのでしょうか

 ボブ・ディランの歌「風に吹かれて(Blowin’ in the Wind)」。「いったいどれほど多くの人びとが亡くなれば、人は気づくのだろうか。あまりにも多くの命が失われたということに」と歌っています。

 ピート・シーガーが作詞・作曲した「花はどこへ行った(Where have all the flowers gone)」。ミハイル・ショーロホフの小説『静かなドン』に書かれたウクライナ民謡をもとにした歌です。戦死した若い兵士たちが眠る墓地に咲く花。少女からその花を贈られた若者もまた戦死する。繰り返される悲しみ。人びとはいつになったらこの事実から学べるのだろうかと歌っています。

 ヒトは集団をつくって生存を図る動物であり、「縄張り意識」をもってしまう動物です。縄張り意識もからんでくる集団間の対立は時には暴力的な殺し合いにまで発展します。そしてまた、他の集団を攻撃するための道具(武器、兵器)をつくってしまうのがヒトの特性です。
 ユートピアという言葉があります。「どこにも存在しない場所」という意味のギリシャ語が語源です。戦争が起きない世界はユートピアなのでしょうか。ヒトは社会的知性を機能させることで集団間の対立を回避あるいは解決できるでしょうか。「ヒトは戦争をやめることができるのか」という問いはこれからも人類社会の大きな社会課題であり続けると思います。

 これまで数多くの人びとが自らの考えや信ずるところにもとづいて兵役を拒否してきました。「良心的兵役拒否」と呼ばれています。ロシアの作家レフ・トルストイの非暴力思想に共鳴した北御門二郎(1913~2004)は1938年、兵役拒否。その後は晴耕雨読の生活を続け、トルストイの作品の新たな翻訳に取り組みました。

 旧ロシア帝国にはドゥホボール派と呼ばれるキリスト教の異端の信徒たちがいました。彼らはその信仰にもとづき軍隊や兵役を否定しました。そして多くの信徒たちが迫害を逃れて19世紀末にカナダに移住しました。レフ・トルストイは『復活』を執筆して、その印税で信徒たちを支援しました。

 人類史上かつてなかった大規模な殺戮が起きた第一次世界大戦。戦争が始まった1914年、その年のクリスマスの時期、イギリス軍とドイツ軍が対峙する最前線で兵士たちは武器の使用を中止して歩み寄りました。さらに両軍の兵士たちはサッカーの試合をして楽しんだということです。また、フランス北部の戦場では、ドイツ軍とスコットランド軍の兵士たちが一緒に「きよしこの夜」を歌いました。映画「戦場のアリア」、そして最近刊行された絵本『戦争をやめた人たち』はこの「クリスマス休戦」を描いています。

 ジョン・レノンの歌「イマジン(Imagine)」。国家も宗教も所有も人間がつくりだした観念です。戦争が起きる大きな要因は人びとがこうした観念に深くとらわれてしまうことにあると思います。しかし、人間には想像するという能力も与えられています。人間は想像力をはたらかせることで、国家や宗教や所有もある種の幻想のようなものであることに気づけるかもしれません。私たちはどのように想像する(imagine)ことによって、戦争のない世界に向かって歩みだすことができるでしょうか。

参考文献
『ある徴兵拒否者の歩み』  北御門二郎  みすず書房
『北御門二郎』  ぶな葉一   銀の鈴社
『武器を焼け』  中村喜和  山川出版社
『兵役を拒否した日本人』  稲垣真美  岩波書店(岩波新書)
『兵役拒否』  佐々木陽子   青弓社 

NHK人物録「北御門二郎」

絵本『戦争をやめた人たち』 鈴木まもる  あすなろ書房

映画「戦場のアリア(Joyeux Noel)」予告編  クリスチャン・カリオン監督、2005年

「風に吹かれて」

「花はどこへ行った」(歌:ジョーン・バエズ)

「イマジン」(歌:ジョン・レノン)


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