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しょこたん④

「しょこたんの彼氏?」
「イケメンじゃん!!」

恥ずかしそうにしてる。
イケメンではないが、しょこたんが嬉しいならお世辞にも乗ろう。

前の晩、お母さんから電話があった。

『あの子最近、よく江戸川さんの話をしてたんです。カラオケに行くとか』

「すみません、お誘いしました。断られましたけど」

『私が言ったんです。失礼ですが、何か間違いがあるといけないんで…』

「そういった事はしません。僕のことで手首を切ったんですか?」

『江戸川さんは職員のことが好きだから、関係ないって言うんです。友達だって』

「職員にそういう気持ちはないです。あるとすれば翔子さんでした」

『妹にしか見られない。江戸っちは友達だから付き合えないと言ってるんです』


心の骨がポッキリ折れた。
[友達]という言葉は、なんて強固な堤防になるのか。

「こんな時に失礼ですが、翔子さんへ気持ちを伝えても構いませんか?」

『明日、翔子の病院へ行くんですけど、江戸川さんもよければ…』

「行きます。どちらの病院ですか?」

病院-中庭

しょこたんは他の入院患者に対して、嬉しそうに『彼氏』『彼氏』と紹介した。

「翔子、話したいからちょっと…」

『お幸せにー!』
声に押されてこっちへ来た。


「大変だったね。元気そうで良かった」

『あのー、お母さんから聞いたんだけど、江戸っちは私でいいの?ノリさんは?』

「紀子さんはどうでもいい。翔子のことが…好きだよ」

しょこたんは体を揺らしながら、

『江戸っちは私の彼氏?』「うん」
『私は江戸っちの彼女?』「うん」
『私のこと、好き?』「うん」
『私だけのこと、好き?』「うん」

何度も何度も確かめた。
待合室の隅で、小さな声で。

病院-待合室

面会時間が終わる。
お母さんは帰ったので、僕が病棟に送った。

しょこたんが顔を上げた。
キス?いや、鼻をツンツンする。
しょこたんも僕の鼻をツンし返した。
満面の笑顔になった。

『江戸っちありがとう』

病院の外に出て思った。
ここは異世界。
ここで確かなものを、外に持ち出せるのか。

--つづく--




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