イニシャルK
煽り運転がどのように発生するのか、心理状態を想像してみた。
※フィクションです
道の駅 富士吉田。
閉館前ぎりぎりの時間にスタンプが押せた。
路面が凍結する前に、山梨の道の駅は訪問しておきたかった。
ゆっくり帰ろう。
雁坂トンネルを通り、秩父から回るルートを選んだ。
塩山の信玄通りからT字路を右折した。
ここから140号を真っ直ぐだ。
突然ラーメン屋から車が飛び出してきた!
右に避けたから接触はしなかったが、クラクションを何度も鳴らされた。
"向こうが悪いのに"
長い上りのストレート。
僕が先行する形になった。
レクサスNXのパッシングがしつこい。
登坂車線に入り先に行かせようとしたが、それでも後ろについてくる。
"煽ってるのか"
バックミラーを見ると、ヤンキー風のカップルが乗っている。
停車して喧嘩にでもなったら嫌だし、このまま料金所まで行こう。
峠を登り切った。
料金所を過ぎてトンネルを二つ抜けたところで、左に寄せて停車した。
ここに車1台分のスペースがあることを知っていた。
NXが追い越していく。
助手席の金髪ギャルが睨んできた。
車外に出て深呼吸と背のびをした。
心がモヤモヤするが、トラブルにならなくて良かった。
車に乗りエンジンをかけると、カーステレオから頭文字Dのユーロビートが流れる。
変な気持ちになってきた。
ヒルクライムでは馬力のないワゴンRは無力だった。
しかしダウンヒルなら、軽量な分だけコーナリングで詰められる。
埼玉側はテクニカルセクション。
大滝温泉手前までは信号もない。
"こらえろよ、オレのワゴンR"
"雁坂はオレのホームコース。湘南ナンバーに負けるはずがない"
飛ばし過ぎていきなりのアンダー。
タイヤが滑ったとき冷や汗が出た。
"クソったれ、生きててよかったぜ!"
ガードレールに接触。
"リアハッチのRは、不敗神話のRだ!"
NXの姿をとらえた。
"どんな強引でも絶対にブチ抜く!"
NXも速度を上げた。
2台並んだ状態でループに入ると、NXは左の駐車場に入って行った。
バトルを終え、大滝温泉のファミマに停車した。
僕は何をしていたんだろう?
女子社員の軽蔑のまなざしが浮かんだ。
"プロジェクトKのイニシャル、『交通安全』に努めなければ…"
ドアに白い傷が残っていた。
※フィクションです
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