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しょこたん~エピローグ~

しょこたんとの別れから8年。

音楽活動をおおむね終い、就職が決まった頃。

近隣の街の大きな書店で、極細の筆ペンを探していた。
店員に尋ねると、担当者を呼んでくれた。

しょこたん?

『…江戸川さんですか?翔子の姉です』

「そっくりですね。どうして僕が江戸川だと分かるんですか?」

『翔子の写真を見たことがあって、そうかなぁと思いまして…』

「翔子さんは今どうされてますか?」

『自宅から○△病院のデイケアに通っています』

しょこたんが戻って来てる!

書店

後で分かったこと。
当時の統合失調症の薬は強い薬で、白目になったりヨダレを垂らすのは一般的な副作用。

急性期は妄想が突発的に出て、若いほど振れ幅が大きく、暴走することも多い。

しょこたんの症状が落ち着いてきたんだ。

会うことは許されない。
僕はあのとき、しょこたんを棄てて逃げ出した。

一目見たい。
○△病院はすぐ近くだ。

病院-中庭

僕は夕方、デイケアが終わる時間を見計らって、中庭のベンチに座っていた。

それらしい人の列が中庭を抜ける。
何人かが灰皿に立ち寄った。


しょこたんだ!

以前より痩せて、髪も明るくなっている。
白い肌はそのままだ。

タバコを吸うしょこたんに対して、

『翔子、早く帰ろうぜ』

しょこたんは黙って火を消した。
軽薄そうな男と手を繋いで立ち去った。

現実はこんなものだろう。
僕には声をかける資格もない。

このとき、しょこたんは24歳。
障がいと上手く付き合いながら、少しずつ社会復帰してほしい。

さよなら、しょこたん。
ここに置いていくよ。

部屋に落ちていた四つ葉のストラップを、ベンチの隅にかけた。

🍀





もう一度出会えたら、その時は新しい曲に全てを込めて思いを伝えたい。
しょこたんの名前は翔子。翔べるだろう、必ず翔べるだろう。

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