利根川でユイと叫ぶ
20代後半の頃。
冬が巡る街角でユイに出逢った。
「何か飲む?」
僕は烏龍茶を2つリクエストした。
「いくつ?」『…1○』
20代前半に見える。
路地裏が似合う影のある女の子。
ユイの肩に手を乗せていた。
『どうしたの?震えてるよ』
「…嫌なことがあったんだ」
僕はそれ以上言わなかったが、ユイは頭を撫でてくれた。
おもむろに髪を上げ、頭を寄せてきた。
『見える?ここハゲてるでしよ。円形脱毛症なんだ』
腐った世の中だ!
こんな子が追い込まれるなんて…。
『辛いのが分かったから、私も見せたんだ』
『そういう時はね、利根川に行って叫ぶといいよ』
ドラマみたいな話、本当かな?
「お陰でスッキリした。ありがとう」
『待つことってできる?』
西口のデニーズで待ち合わせた。
ユイは意外と早く現れたが、制服姿に驚いた。
「本当に高校○年生なの?学校は?」
『行ってない。行きたくないから』
取り出した学生証を見ると、名前以外は本当だった。
Jkお散歩が流行っていたが、淫らなことはしないと誓った。
僕が英検3級の話をすると、
『私、英語得意だよ。練習してみる?』
彼女の英会話レッスンは楽しかった。
気がつけば日付をまたいでいた。
会計をすませ店を出たとき、
『川で叫ぶのやってみる?どうせ親は寝てるし、朝までに帰ればいいよ』
「やろうか!叫んだことないからユイちゃん教えてね」
関宿(現:野田市)に向かって車を走らせた。
江戸川ならすぐそこだが、二人は利根川にこだわった。
『せーのー、バカヤロー!』
「ばかやろ」声が出ない。
『バカヤロー!バカヤロー!』
「バカヤロー!」
ユイの指導もあり、だんだん慣れてきた。
周囲があまりに静かなので、そそくさと車に戻った。
『江戸くんは、私のこと好き?』
「…寒いね」
許されないと理解していた。
触れ合うことを拒んだ。
時がゆけば幼い君も、大人になると気づかないまま。
--つづく--
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