しょこたん③
どこが障がいなんだろう、と思うくらいしょこたんは普通に仕事をしていた。
僕にも変わらない態度だった。
ササッと寄ってきて、
「ノリさん、佐渡島でたらいに乗ったらしいですよ」
要らない情報をくれる。
よく晴れた日。
レクが終わった後、屋上で洗濯物を干すしょこたんを捕まえた。
「俺たち友達なんだよね?」
『うん、友達です』
「しょこたんから見ると、俺っておじさん?それともお兄さん?」
『プチおじさんです(笑)』
僕はしょこたんの鼻の頭をツンした。
ニコっと笑った。
ツンツンした。
ニコニコっと笑った。
しょこたんが顔を突き出した。
『もう一回ツンツンしてください』
幸せだった。
「今度カラオケ行かない?」
『予定が…ちょっと』
[友達]というワードが苦しかった。
塩漬けにされて動けない感覚だった。
「ビバホームが出来たね。行ってみない?」
『その日、お母さんと出掛けるから…』
メールでも同様だった。
なんだよ[友達]って。
友達以上には思ってないけど、僕をキープしておくつもりなのか?
僕の方が妄想に取り憑かれそうだった。
しょこたんが寄ってきた。
『ノリさん、占いが好きらしいですよ』
「じゃあ紀子さんと占ってもらおうかな」
駐車場に行くと、ボンネットにポンカンが2つ乗っていた。
ドアに紙が貼ってあった。
『紀子の悪魔です。江戸川のカラオケは○にます』
不快だったし夜までの練習があったので、そのまま楽器店に向かった。
午後3時、高齢者施設から電話があった。
『今日○○さんと何かありませんでしたか?江戸川さんの名前が書いてあったもので』
「何かあったんですか!?」
僕は強引に聞き出した。
血まみれのタオルを職員が見つけた。
しょこたんはカッターで手首を深く切ったらしい。
車と同じ内容を書いた紙が、ゴミ箱の近くに置いてあった。
そのまま病院に連れて行かれ、入院となった。
心にもない僕の言葉がしょこたんを傷つけてしまったのか…?
でも、友達以上を望まない程度だから、別の原因かもしれない。
お母さんから連絡があった。
しょこたんのことを色々教えてくれた。
僕は悔やんだ。
4日後、病院に行き中庭に出る。
『江戸っち』
ベンチにしょこたんと、入院患者の女性が座っていた。
ここでも呼び名はしょこたん。
女性が「しょこたん、誰?」と聞いた。
『彼氏!』
「待たせたね、翔子」
--つづく--
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