しょこたん①
風のうわさでユイの結婚を聞いた。
ユイの言葉をそのまま返したい。
〘幸せになって下さい〙
30前後は忙しかった。
忙しかったのにYESとNOが幾度も交錯した。
音楽療法の仕事で、高齢者施設に週2で通っていた。
しょこたんが寄ってきた。
『ノリさんの胸、見てきましたよ』
先日の温泉旅行で、職場美人と言われる紀子さん(仮名)の胸を、僕のために観察したという。
『大きかったけど、重力に逆らうのが苦しそうでしたよ』
全く興味は無かったが、施設内に僕と紀子さんをカップリングしたがる空気があった。
「そうなんだ、ありがと」
しょこたんは週3勤務のヘルパーさんで、パンダみたいな女の子。
利用者さんに可愛がられてる。
「またよろしくお願いします」
駐車場に向かって歩くと、車のボンネットに白いモノが見える!
近づくと、白い御札がセロハンテープで貼ってあった。
事務所に話すと、
『ごめんなさい。こちらで対処しますので』
と言われた。
気味が悪かったが、施設に任せることにした。
僕は前後合わせて2時間しかいないので、職員さんとの交流は希薄だった。
舟木一夫さんの [高校三年生] は大人気。
バスガイドのユイを引きずっていた僕は、曲目に [東京のバスガール] を入れたが、これも人気だった。
「発車オーライ」の後に休符を入れるよう何度も指摘したが、誰も聞き入れなかった。
しょこたんが寄ってきた。
『ノリさん、男の人と旅行に行くらしいですよ』
「そうかー。車に御札が貼ってあったんだけど、そういう事ってあるの?』
『江戸っちのファンじゃないですか?ハハッ(笑)』
僕が御札のことを忘れた頃、車は前回より装飾されていた。
「旅行楽しかったよ、また行こうね」
と書いた紙が、御札と一緒に貼ってある。
しょこたんが立っていた。
左手にレク用のテープを持っている。
『江戸っちは、いつもそうやって行っちゃうんですよ…』
こわばるしょこたんの手をつかんで、事務所から見えない角に引っぱった。
腕にサポーターを着けている。
「しょこたんと話したいから、時間ちょうだい!絶対に怒らない、約束する」
『勤務中なんでお昼になっても、いいですか?』
「分かった、ここで待ってる。必ず来てね」
午後1時近くになって、しょこたんが姿を見せた。
セーラー服を着ていたが、もう驚かなかった。
--つづく--
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