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しょこたん⑥

"色が白くて真っ黒なボブ、ぷにった姿はパンダのよう、黙っていても人が集まる、少し内気な女の子"

しょこたんは、僕の知らない姿になっていた。
妄想がひどく、暴れることもあるらしい。

拘束が解けて3週間ぶりの面会、お母さんと同席した。

「具合いが悪くなってる気はしましたが、拘束されるとは思いませんでした」

『それでも江戸川さんと会うときは、別人のように調子が良かったらしいんですよ』

病院の人はしょこたんと僕をみていた。
全然気づかなかったが、当然だろう。

「入院でしょ?治療するとこなのに、どうしてそんなに酷くなるんですか?」

感情的になってしまった。
看護師さんが説明した。

『統合失調症の急性期はそうなんです。翔子さんはまだ若いですし。症状をコントロールするために、○○病院で経過を診ることになりました』


しょこたんが出てきた。
両手を引かれ、白目をむいてヨダレを垂らしながら歩いてくる。

信じてくれますか?
たった3週間でこんなになるんですよ!
翔子はまだ16歳、明日を夢見る女の子。
楽しいことが待ってたはずなのに…


条件付きで院内外出が認められた。

お母さんと三人で作業療法室に入った。
防音仕様がされていてピアノがある。

『翔子、江戸川さんだよ、分かるよね?会いに来てくれたんだよ』

「俺だよ、江戸っちだよ。翔子、なんか言ってよ」

[…江戸ち?]

『そうだよ、アンタの彼氏だよ。アンタに曲を作ってくれたんでしょ?』

そんなことはしてない。

[やさしくて、ピアノが上手な、私の彼氏]

黒目が戻ってきた。
しょこたんの両手首を握った。

「江戸っちだよ、久しぶりだね。今【I LOVE YOU】弾くからこっちに座って!」

[江戸っち。歌ってくれるの?やさしくて…]

置いてある歌本を開いた。
弾き語りはぶっつけだった。

"I LOVE YOU 今だけは悲しい歌聞きたくないよ I LOVE YOU…"

フルコーラス歌った。
しょこたんはキョトンとしながら拍手をしてくれた。

[やさしくて、ピアノが上手な、私の彼氏。歌ってくれるの?私だけ?]

「そうだよ。翔子のためだけに歌うから、聞いててね」

【I LOVE YOU】の隣に掲載されていた、【街路樹】を選んだ。

"足音に降りそそぐ心もよう つかまえて街路樹たちの歌を 最後まで愛ささやいている 壁の上 二人影ならべて…"

人が次々と入ってきた。
ピアノの音が外に漏れたみたいだ。

--つづく--







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