くさび

女にちなんだ罪だからと、その罰として女と何もせずを我慢してきた。そんな半生。
さきほども、京都を並んで往く若い男女と擦れ違いざま、演技くさい呻き声を漏らす。
ファミレスの席にひとり着いた折、およそ1週間ぶりに事件の被害者である女から便りが届き、通知と共に文章が画面に表示される。
『にせつむり』なるキャラクターの名を『にせかたつもり』とこちらが誤ったことへの意趣返しなのか、俺がこの歳まで好きなままでいる『カービィ』を彼女は『カービー』と。
錯覚かもしれない愛情らしきものを己の内に覚えると同時に、見ず知らずの男女によって喚起された灼熱の嫉妬心は、息を吹きかけられた蝋燭の火のように瞬く間に消えていった。

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