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#シロクマ文芸部 チョコレート日和

「チョコレートがしょっぱい」

そう言って夏音なつねは大粒の涙をこぼしました。

今日の午後、透明な悲しみが一滴、心の中に落ちてきました。胸の奥でぶくぶくと泡を立てて、それが膨らんでもう喉元まで来ています。このままだといけない!と、家に帰る途中、コンビニに飛び込んだのです。

チョコレートは魔法の食べ物です。どんな時も、ひとかけらのチョコレートが元気をくれます。受験に失敗した日も、初めての失恋も、可愛がっていたインコのバーバラが逃げてしまった時も、チョコレートで乗り切ってきました。口の中で濃厚に広がるチョコレートを味わっていると、心が落ち着きました。いつからか、必ずそういう時に選ぶチョコレートがありました。

だから、今日もいつもの「ハートチョコレート」を買って帰ってきたのです。ところがパッケージを開けてみると、何だかいつもと違います。ハートが少し小さいのです。あれっと思って箱を眺めてみたらなんと「新ハートチョコレート」と書いてあります。

それをみた瞬間、喉元まで来ていた悲しみがポトリと一粒チョコレートの上に落ちました。あ、いけない、と急いでいつもより少し小さいけれどハートの形のチョコレートを口に入れました。

「チョコレートがしょっぱい」
「チョコレートだって新しくなる」

夏音の涙はポトリポトリと後から後から溢れていきます。しょっぱいチョコレートを食べながら、夏音は気づきました。

「ああ、私泣きたかったんだ」と。

小牧部長、今週もありがとうございました。

最近、もし猫を飼ったら、マチルダっていう名前にしようかなとかおもいました。夏音さんのインコはバーバラでしたが🐦夏音さんにどんな悲しいことがあったかは秘密です。

いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。