【活版】オランダを代表する書体を作った人の話-失明するまで挑んだデザインの可能性
トーマスさんによるレクチャーの後半は、デドーズが生涯かけて取り組んだカバオーナメントについてのレクチャーだった。
グラフィックデザイナー、タイプフェイスデザイナーとしての顔だけでなく、デドーズがプライベートで取り組んだのがカバオーナメントによるデザインだ。
カバは、彼がデザインした文様パターンで、四角いボディに鋳造された、一見非常にシンプルな形状のモチーフである。しかし、よくみると、繊細でわずかにカーブした抽象的なフォルムがほどこされていることがわかる。
ちなみにKabaとはアラビア語で立方体という意味だそうだ。
1987年、デドーズはカバオーナメントのデザイン展開を研究するために、なんと重さ97kgの金属をつかって大量にこのモチーフを鋳造させ、それから30年にわたり、この2つのモチーフの組み合わせでデザインをどこまで展開させられるのかを試しつづけた。
彼は、このシンプルな2つのモチーフを、小さな四角い紙の上で、何百回も並べたり、回転させたりするうちに、それぞれのモチーフとその鏡像を回転させ4つの位置に配置するとそれだけで、1つの美しい基本となるパターンができることに気づく。
こうして見つけた8つ美しい基本パターンに1から8までの番号をふり、その番号を組み合わせていくことで、さまざまなデザインの可能性を探っていった。
そして、ついに2002年カバオーナメントによるデザインの第1巻が、彼自身の手で印刷され、発表される。
ところが、実はその時、長年集中して目を酷使したことで、デドーズの視力は急速に衰えはじめていて、程なくして彼は視力を失うことになる。そのため、当初計画していた第二巻以降を、自らの手で出版することができなくなってしまう。
その後、2006年、彼が3約30年にも渡って描きためた、なんと400ページにもおよぶスケッチはオランダの出版社の手で「The Kaba ornaments in vignettes, borders and patterns」 として1冊の美しい本として出版されることとなった。
その書籍のなかで彼はこう言っている。
「コンピュータの助けを借りれば、フォームやコンビネーションをもっと早く見つけることができたかもしれません。 でも、私はプロジェクトの当初からこの鋳造された金属製のオーナメントを使って手で作業を行ってきたし、今もそれを使いつづけることにある種の意味を感じています。「速さ」は求めていないのです。私にとって大切なのは、具体的に形あるものを作り出すことなのです。・・手を動かしてフォームやコンビネーションを発見していったこのやり方が、何らかの形で結果にも影響を与えていると思うのです。」
レクチャーの最後に、参加者全員にトーマスさんから、トーマスさんがカバオーナメントを使ってハンドプリントで制作した活版印刷のブックレットがプレゼントされた。
その、ブックレットをみながら、たった2つの形を使って、たった一人で、何百ものデザインを生み出したデドーズのことを考えると、自分ももしかしたら、いろんなところでもっと新しいアイデアが閃くかもれないと思うのは、ちょっと楽観的すぎるかも。
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