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【カフェ】ドイツ人のウーリさんから教わる日本のこと

富ヶ谷は、案外インターナショナルなエリアで、うちのカフェにも外国人のお客様が多い。
ドイツ人のウーリさんもその一人。 本当はもっと長い名前なんだけど、ドイツ人でさえなかなか覚えてもらえないらしく、お店に来店した時に「僕の名前はむずかしいから、ウーリっと呼んでね」と言われた。
ウーリさんはジャーナリストだ。 2年前に日本に赴任したときから、週に2−3回は必ず顔を出してくれる。 取材や編集で緊張が続く仕事だから、1日のうちどこかで、コーヒーと甘いものでホットする時間が大切なのかもしれない。

たいていはお一人で来店するウーリさんなので、他のお客様が少ないと、おいおいこちらも手をとめてちょっとおしゃべりすることになる。

「この間すごい経験したんだ。マイナス20度のテントで寝たんだよ。」
マイナス20度?! 「北海道の氷のホテルに泊まったんだ。」
氷のホテルって聞くと、なんだかとっても素敵な響きだけれど、ウーリさんいわく、たった一人で、マイナス20度の屋外にあるテントで夜を明かすのはめちゃくちゃにきつい体験だったらしい。
「氷でできたエスキモーのイグルーみたいなのの中で、特別な防寒パジャマを着て寝袋で寝るんだ。その格好で、一人マイクを手にカメラに向かってレポートしたんだよ。寒さで機材はおかしくなりそうだし、携帯も動かなくなっちゃうし、なにしろ寂しいし、本当寒くて、朝まで一睡もできなかった。」

「ドイツからみたら日本は、地理的にもイメージ的にも遠い国だからね。日本の政治家がどうしたこうしたといった一般的なニュースじゃあ、本国のニュース番組で取り上げてもらえない。 だから、みんなが面白いっと思ってもらえそうなトピックを探しだして、それを取材して、ほらこんな面白い日本があるんだよ。っというのをアピールしないとオンエアの時間をもらえないんだ。」
というわけで、ウーリさんは日々、日本の面白体験を探して取材している。

この間は、消防署で地震シュミレーターを体験した。
「東日本大震災と同じ震度を体験したんだけど、怖かった。あんなに揺れる建物の中にいたことがないから、本当に驚いたよ。 机の下にもぐってくださいって言われたけど、机の下でもガタガタ揺れるからちっとも安心できなかった。日本人があんな地震と一緒に生活してるなんでびっくりしたよ。」
そんな地震体験のあとは、六本木ヒルズであった避難訓練にも参加した。黄色いジャンプスーツを着て、六本木ヒルズの広場で人工呼吸や、怪我人の搬送の訓練もして、なかなか本格的な防災訓練だったみたい。
「日本では、ビルの人全員で参加する訓練があるんだね。怪我人役の人とかもいて、訓練なのに案外緊迫した雰囲気だったよ。」
確かに地震の少ないドイツでは体験できない訓練だ。


なかなかお似合いです。

またある時は、岡山で「裸祭り」に参加した。
私も知らなかったけど、「裸祭り」はとても有名な歴史あるお祭りだそうで、大勢の男の人が、ふんどしいっちょで、冷たい水で身を潔め、お寺の境内に投げ入れられる木の棒をとりあうのだ。
ウーリさんもまさか裸で参加したの?
「もちろん。体験することが大好きだからね。 みんな親切でふろしきの巻き方とか教えてくれてね。 何しろすごい人数の人が、狭いお寺の中と外で棒を取り合うから、波に攫われるみたいに、右に左に押されるんだよ。立ってるのも大変で。いやー驚く体験だったね。 棒を手に入れたチームはその年のラックを手にするわけで、子供のようにすごく喜んでいたのも印象的だったな。」

ウーリさんをさがせ!

またある時は、女性だけの流鏑馬大会を見に、青森県まで足を伸ばす。
「知ってるかい。もともと流鏑馬は女性は参加できなかったんだよ。彼女たちは、流鏑馬をスポーツとして楽しんでいてね、伝統を重んじながらも、その伝統を残すために新しいことにチャレンジしているのに感動したな。」

確かにスポーツですね。


またある時は、
「日本ってジェンダーフリーを広めるのにも、マンガをつかうんだね。 しかもこのマンガは割と昔のものだって言うじゃないか。日本はもともとジェンダーフリーの素地がある国なのかもしれないね。」
なんの話かと思ったら、懐かしいあの「ベルバラ」でした。

オスカルさま

そんなウーリさんとのおしゃべりを私は結構楽しみにしている。
私の知らない日本をドイツ人のウーリさんが教えてくれる。 それが面白い。案外自分の国のことって知らないものだ。

つい先日、なんの流れだったか。日本人だからといってみな同意見ではなくて、同じ国でもいろいろな考え方の人がいるものだ、という話になった。
その中で、「たまたま朝テレビでみたある著名な評論家の言だけど」と断った上で、アメリカ大統領選でトランプが勝てば、ウクライナ支援がなくなって、そうするとロシアがウクライナの一部を併合するだろう。でも、それだけで戦争が終わるからその方がいいんだと言っていて、そういう見方もあるのだなっと驚いたという話をした。

「それは、その評論家が日本にいるからそういうことを言えるんだと思う。一度だれかに侵略されたら、一部だけってことはないんだ。日本は、なにかあってもロシアに国土を侵略される恐れは少ないだろ。 でもヨーロッパは違う。 他国に侵略されるっていうのはそういうことなんだよ。」

ドイツやヨーロッパの歴史が、ウーリさんの、いやヨーロッパの人たちの中に根づいているのを感じた。 自分たちの土地が他の人たちの土地とつながっていること、他の国の人と文字通り隣り合わせで生活すること、土地を奪われたり奪い返したりという日々が、まだ比較的新しい記憶のなかにあること。
日本のことを案外知らないと思うのは、単にお祭りのことだけじゃなくて、知らず知らずに当たり前だと思っている、日本人である私の物の見方が、実は当たり前じゃないんだ、ということも含んで、知らないんだ。

ウーリさんとおしゃべりするとそんなことにも気づいたりする。

ちなみに、ウーリさんはうちのバスクチーズケーキが大のお気に入りで「このケーキはドイツのケーキそのものだよ!」っと言ってくれる。
でもこのケーキの名前は「バスク」チーズケーキなんですけれど。なぜバスクがドイツと同じなのか。
いつか、ドイツでチーズケーキを食べてみないとな。
















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