見出し画像

繊細メンタルでも世界一周した私の書籍出版 世界の歩き方another story

「まだ29歳か? 早く30代においで! 人生もっと楽しいぞ」
29歳の誕生日にメッセージをくれた彼より、いつの間にか私の方がずっとお姉さんになってしまった。

世界一周から帰国後、期限の切れたパスポート

私と夫は、13年前に仕事を辞めてバックパッカーで世界一周の旅に出ました。約10か月かけて、24か国の旅。お金には代え難い、宝物のような経験でした。
しかし、帰国してからは旅する前と同じように仕事に追われる日々。そのうちに子どもを出産、子育てに仕事にと、さらに忙しい毎日を過ごしていました。
気がつけば、パスポートは世界一周から帰国したときの入国スタンプを最後に、期限が切れていたのです。

「世界を旅したら人生観が変わったでしょ?」と、よく聞かれます。世界一周で魔法のように生きる世界が変わると思う人が多いのです。
確かに、日本各地で講演会をするような旅仲間もいますが、私たちは会社員生活。子育てという変化はあったものの、むしろ子ども中心の生活は安定を求めるようになりました。旅をするなら無理のない近場の旅を楽しむスタイルに変化していったのです。

今は亡き旅仲間から受け取ったメッセージ

ある日、Facebookから世界一周の旅仲間の誕生日を知らせる通知メールに手が止まりました。
彼とは、ブログ上で知り合い、実際会えたのはイギリスで待ち合わせた2日間だけ。それでも「旅人」という共通点が、生まれ育った背景や職業などの壁を取り払ってくれました。
ロンドンのパブで仲間と集まり「なぜ旅にでたか?」という問いに
「世界一周の旅は、俺にとってただ遊びなんだ」と答えた彼。
シンプルな答えに、少年のようでありずっと大人にも感じました。

しかし、彼は旅の途中で帰らぬ人となってしまったのです。私の29歳の誕生日メッセージを受け取ってから1か月も経っていませんでした。
なぜ、彼だったのか。
彼の最後のブログを読むと涙がとまりませんでしたが、家族の気持ちを思うと悲しむことさえはばかられました。
「私も旅で人生を終えていたかもしれない……彼の分も精一杯に生きよう」

彼のFacebookから、誕生日の通知メールを受け取るたびにこの誓いを思い出します。昨年はなぜかいつも以上に心がゆらぎました。
旅から多くを学んだのに、遠い昔の出来事になりつつある……。色褪せてしまう前に、何かカタチにしよう。カタチとは電子書籍の出版でした。

弱気で繊細メンタルの私だから伝えられること

しかし、同時に躊躇する気持ちも生まれます。当時、ポテンシャルの高い旅仲間に囲まれ、まわりが発信するブログは注目を集める一方で、ゆっくりペースの私の旅ブログは読みごたえがないと感じていました。
しかし、脚色するつもりもありませんでした。そんな私のブログを「りりこのブログは正直だよね。そこにきっとみんな惹かれるんだ」と、彼がコメントしてくれたのを思い出されます。

もしかしたら、私だからこそ伝えられることがあるかもしれない。

弱気で悩みやすい性格の私に、今もなお旅の経験は「ありのままでいいんだよ」と、自分らしく生きることを後押ししてくれています。小さなことでも悩んでしまう人たちに、旅で気づいたことを伝えたい。
インドで出会った少年、アウシュビッツで見た景色……書きたいことが次々と出てきます。
それからは、とにかく書き続けました。仕事と家事育児の合間で、時間との勝負です。要領の悪い私は作業が遅く、おのずと睡眠時間を割くことに。それでも、きちんと仕事も家事育児もできていると思っていました。

自分の原稿で取り戻した想い

しかし、ある日仕事で大きなミスをしてしまったのです。
一歩間違えると患者さんに大ケガをさせ、数千万円の医療機器も故障させていたかもしれませんでした。幸い患者さんにも、機械にも影響はありませんでしたが、自分のしたことの重大さに動揺を隠せずにいました。
「私、いったい何をやっているんだろう……」
思い悩んで胸が詰まり、口に出して相談する気力さえありません。

そのような中で助けになったのは、くしくも自分の書いた原稿でした。
「目の前の状況にがんじがらめで苦しいなら、旅を利用してみてはどうでしょうか」そう書いていたのです。

私は書く手を止めて、電車に乗り少し遠出しました。お気に入りの場所のベンチに座り、何もしない時間を過ごし、そしてもう一度思い出します。
「彼の分も精一杯生きよう」
立ち止まり、見る景色を変えてやっと心が落ち着いてきました。

ひとりで電車に乗り見に行った景色

約1年かけて2冊目の電子書籍出版


12月7日、私は電子書籍を出版できました。
「もっと伝えたいことがあるのに」
出版する書籍には反省点も多く残ります。これも、私の人生の過程なのだと受け止めようと思います。今の私だから書ける内容なのです。
今回の書籍を書くにあたって当時のブログを読み返していると、今の自分が感じることとの違いも見つけました。旅は何年経っても新しい気づきを与えてくれて、きっと10年後にはまた違う学びがあるのだと思います。
そして、目まぐるしい世の中だからこそ、立ち止まる時間を意図的に作る必要があるのです。

出版した書籍は、ライター仲間のサポートもあり、Amazonで新着ランキング4部門と売れ筋ランキング2部門で1位、ベストセラー表示もつきました。何より、自信のない人や今の状況がしんどい人に、私の旅の経験を伝えられることが嬉しく思いました。

もし彼が読んでくれたなら「りりこらしい書籍だね」と褒めてくれるだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?