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lumoインタビュー 「複雑かつポップ」な音楽性は、「未来からきた」ボーカロイドという存在に寄り添うために

このインタビュー記事は、音楽制作プラットフォーム・Soundmainのブログで連載されていた『オルタナティブ・ボカロサウンド探訪』を、当該サイトのサービス終了に伴いインタビュアー本人が転載したものです。
初出:2022/07/15


2007年の初音ミク発売以来、広がり続けているボカロカルチャー。大ヒット曲や国民的アーティストの輩出などによりますます一般化する中、本連載ではそうした観点からはしばしば抜け落ちてしまうオルタナティブな表現を追求するボカロPにインタビュー。各々が持つバックボーンや具体的な制作方法を通して、ボカロカルチャーの音楽シーンとしての一側面を紐解いていく。

第3回に登場するのはlumo。その活動の姿勢は実験的でありながらヒットチャートの常連でもあり、ボカロシーンの多様性を強く体現する人物の一人だ。電子的な編集が随所になされた複雑かつポップな楽曲群は、ボカロシーンのメイン層からマニア層にまで幅広く親しまれ、シンセポップやエレクトロニカといったジャンル名ひとつでは言い表せない類まれなオリジナリティを持つ。今回は制作方法や現在に至るまでの活動の経緯に加えて、その作風の背景にあるという一貫した「ボーカロイドの捉え方」についても語ってもらった。


「あなたもボカロPになれる!」から始めた音楽制作

音楽制作を始めたきっかけと、ボカロPを始めたきっかけを教えてください。

音楽制作を始めたのがイコール、ボカロPを始めたタイミングでした。2009年頃に友人に誘われて「THE VOC@LOiD M@STER」(略称:ボーマス)というボカロPの方たちが同人CDを頒布する即売会に行きまして。その当時はボーカロイドのことをよくわかっていなかったんですけど、色々な方がCDアルバムを1000円ぐらいで売っていて面白いイベントだなという印象を持って。そんな中、入場するために買ったパンフレットを読んでいたらDAWの広告があって、そこに「あなたもボカロPになれる!」みたいな雰囲気の文言が書いてあって。それで自分もボカロPになってみようかなと思って始めたのがきっかけですね。

音楽を始める前はどんな音楽を聴いていましたか?

中学~高校ぐらいの頃には、海外のオルタナ系のバンド……正確には違うジャンル名かもしれませんが、例えばNine Inch NailsやMarilyn Manson、The Smashing Pumpkinsなどを聴いていました。自分の作風とはだいぶ違う感じではあるんですが、好きなコード感や曲の雰囲気は影響を受けているかなと。J-POPや歌謡曲のコード感には今もあまりグッとこないんですが、そうした海外のバンドを聴いていた影響が残っているのかなと思います。

Nine Inch Nailsのlumoさんセレクトの一曲「The Hand That Feeds」

lumoさんの楽曲は詰め込まれた展開や煌びやかなシンセサイザーが特徴的ですが、どのような音楽から影響を受けているのでしょうか?

あくまで「こうしたほうがボーカロイドの特性に合った曲が作れるんじゃないかな」という理由でそうした要素を取り入れているので、自分としてはキラキラのシンセポップやそのアーティストから直接影響を受けている感覚はないんです。どちらかというと、曲全体の雰囲気や構造に関しては色々なアーティストの影響を受けていると思いますね。例えば曲の雰囲気でいうと、「ちょっとアニメソングっぽいのがいいな」とか、「70年代のアメリカのポップスっぽいのがいいな」とか、「ワールドミュージックっぽいのがいいな」とか、ふんわりとしたところで色々な音楽を参照しています。曲の構造でいうと、それこそ音楽じゃない建築物とか、そういったところからもインスパイアされています。雰囲気はこんな感じで、構造はこんな感じでというのをミックスして、そこから作り始める感じですね。

建築からインスパイアされるというのは現代音楽みたいな話ですね。

時期によっても全然違うんですけど、最近だとそのようにして曲を作っている感じですね。建築物だけじゃなくて例えばファッションとか、数学とか何でもいいんですけど、そうしたところに含まれる構造みたいなものを試してみたいなと思ったりしますね。それこそコロナ前の話なんですけど、シンガポールに行った際にマンションが複雑に組み合わさっている面白い建物を見かけたんです。これを音楽的に表現するにはどうしたらいいんだろう、みたいなことを考えたりとかするのが好きですね。

lumoさんがシンガポールで見かけたという建物

その一方で、活動初期の楽曲は現在と印象が異なる比較的シンプルなポップスでしたが、これはどのような音楽に影響を受けたのでしょうか?

活動初期は影響を受ける以前の段階というか、完全に学習の期間みたいな感じでした。そもそも「DAWって何?」「MIDIって何?」みたいなところからスタートしていて、こうしたら曲を作れるんだというのを学びながらだったので、何かに影響を受けるまでもなくああいった形になっているという感じですね。たとえばエフェクトという機能を知ったときにはやたらと深いリバーブがかかった曲を作ったりして。

2010年10月投稿の「Light At The End Of The Tunnel」以降の数作ではミニマルミュージックやノイズミュージック的な要素が取り入れられています。この作風の変化はどのような経緯があってのものでしょうか?

作曲を始めて一年くらいかけて、曲ってこういう感じで作ればいいんだなとか、ソフトの使い方などがなんとなくわかってきたので、少し変な音を作ってみたいなと考えていた時期ですね。DAWにもともと入っているシンセをいじって変な音を作ったりしていました。ちょうどその頃にポストロックやエレクトロニカ、ノイズミュージックを好んで聴いていたので、そうした要素が組み合わさって作品に表れてきたんだと思います。

ちなみに大学では「ノイヅ勉強会」という団体で活動されていたとのことですが、その影響もあるんでしょうか?

それはだいぶありますね。コンピュータ音楽が好きな人たちが集まって一緒に勉強したり、コミュニケーションを通して他の人の作風などを学んだりする研究室的な場所だったんですが、そこでの経験からは強く影響を受けていると思います。

2011年9月投稿の「vocandroid」からはっきりと現在に繋がる作風になったと思います。どのような経緯でこのような作風に行き着いたのでしょうか?

この頃にはDAWの特性を大体把握できるようになっていたので、「じゃあボーカロイドを有効に使えるような曲にするにはどうしたら良いのか?」をすごく考えて作ったのが「vocandroid」です。これまで以上にボーカロイドの存在を意識し始めた時期でした。

動画のサムネイルのスタイルもここから統一されていますが、当時から今後は統一していこうという構想はあったのでしょうか?

それは全くなくて、シンプルにあの曲がいつもよりも再生数が伸びたからその後も続けていったということなんですよね。同じサムネイル感で次の曲も投稿すれば「あの人の曲なんだな」と思ってもらえる率が高くなるかもしれないという理由でそうしています。

複雑な曲展開は機材の制限から

現在の制作環境について教えてください。

DAWは、基本的にはAppleのLogic Pro 9を使っています。今は新しいバージョンのLogic Pro Xがリリースされているけど、自分はちょっと懐古厨みたいなところがあるので執拗にPro 9を使い続けている感じですね(笑)。OSをアップデートしちゃうとPro 9が使えなくなっちゃうので、古いOSを使い続けているんですが、そろそろ限界がくるんじゃないかなと思っています。一番最初はWindows OSのPCでSonarを使っていたんですけど、途中からLogicに乗り換えました。

プラグインに関しては基本的にプリセットのものをずっと使っていて、ドラムだけAddictive Drumsを入れています。他のものは入れていないですね。音作りの過程でAbleton Liveを使ったり、Maxというビジュアル・プログラミングソフトで音を作ったりすることはあります。

ひとつの曲を作る過程でLogicとAbletonの2つのDAWを使うと。どのように使い分けているのでしょうか?

基本的にはLogicで全部作っています。Abletonはオーディオファイルの加工が色々できるので重宝していますし、またデフォルトで入っているエフェクトもLogicとはちょっと違うので、その感じが欲しいときはAbletonで音を作って書き出して、Logicに取り込んで編集するといった感じです。贅沢な使い方かもしれないけど、Abletonだけで完結するのは個人的には難しいなと思いますね。

また、楽器を演奏することも好きなので、ハードウェアの楽器を弾いた音を録音して使ったりもしています。例えばNord Electro 3というキーボードとか、microKORGという小さいシンセサイザーとか、NovationのMiniNovaというマイクロシンセなどを持っているので、それらの音を加工したりして音作りをしています。あとはTASCAMのレコーダーも持っているので、例えば机を叩く音とか自分の声とか色々な音を録音して使ったりしています。一時期はアフリカのパーカッションみたいな楽器を買って、それを録音して加工して使うこともしていました。

ということは、曲中のシンセの音はすべて実機で鳴らしているんですか?

一部でLogicにデフォルトで付いてくるアナログシンセの音源を使ったりしていますけど、上物は基本的に全部実機ですね。

打ち込みではなく実機にこだわる理由は何かあるんでしょうか。

DAWを使って曲作りを始めたときに、MIDIの音が味気ないというか、何か機械的に聞こえたんですよね。例えば、実際に弾こうと思ったらとんでもなく難しいピアノ曲とかも、打ち込みだと簡単に作れちゃうわけじゃないですか。それが自分としては味気なく感じるというか、もっと肉々しい感じや生感みたいなものが欲しいなと思うので、自分で弾いた音を使うほうが個人的には好きですね。

作曲はどのような手順で行っていますか?

曲によって作り方はバラバラですけど、最近に限った話でいうと、初めに曲全体の雰囲気やムードを決めて、そこから曲の構造を作り込んでいくといったような順番ですね。まずは曲の軸となるイントロ~サビの部分までを4トラックぐらいで簡潔に作ります。ピアノとドラム、ベース、メロディーがあればそれっぽい雰囲気のものがサビまでできるので、これを軸にしつつ、シンセや録音した音など色々なものを組み込んで作っていきます。それで1サビぐらいまで完成形に近いものにした後に、次をどうしていこうかと考えていますね。例えば、その1サビまで使っていた要素を一度解体して再構成したものでBメロを作ったりとか、全く別の物にしたいなと思ったら別の音を録音して作っていきます。

作曲や編曲の際に、他の人はこんな作業や機材の使い方はしないだろうというような工程はありますか?

ドラムに関してはAddictive Drumsを使っていることもあってMIDIで打ち込んだりもするんですけど、キックやスネア、ハイハットとかはそれぞれの音を書き出してオーディオファイル化して並べてみたり、切り分けたりしてドラムパターンを作っていくみたいなことをよくやりますね。「だったら結局MIDIでいいじゃん」みたいな話ではあるんですけど、オーディオファイルって自分にとっては紙とペンみたいな感じなんです。オーディオファイルをペタペタしながら「ここはこうしてみようかな」と、ある意味思考のツールのような感じでオーディオファイルを扱っています。これは他の人はあまりやらないんじゃないかなと思います。

「逃避ケア」や「スーパーハイ!」など、カットアップを交えたトラックの作り方についてもお伺いしたいです。

そもそも、自分がやっていることは実はカットアップではないんじゃないかと思っていまして。いわゆるカットアップって、他の音源があった上でそれの美味しい部分とか、ここを使ったら面白いよねという部分を抜き出して、それを組み合わせて再構築していくというのが一般的な作り方だと思うんです。自分の場合、例えば何かの音を一瞬入れた後に、次はこういうエフェクトで音を入れたら面白く繋がるんじゃないかというのを考えて、いわゆるドミノ倒し的な感じで作っていくことが多いので、カットアップとは違うなと思いますね。

それはそれとして、こういう作風になったのは、使っていた音源によるものかもしれません。最初の頃はLogic Proに入っているデフォルトの音源を使っていたんですよ。それを使って曲を作ると、ちゃんとした音源を使ってるものと比べて音がチープな感じになる。そうした制限の中でも、カットアップのようにすることで音の質がうやむやになるように感じたので、結果としてそういう作風になったのかなと。

ドラムなどを一旦オーディオ化したり、シンセを録音して使うといった作業工程を踏むからこそ、カットアップのようなサウンド感になるのかもしれないですね。

そうですね。皆さんがどのように曲を作っているかはわからないですけど、例えばAメロを全体的に弾いてみて録音する方が多いと思うんです。自分はそれよりも短い単位で、それこそ1小節分ぐらいの音を録音して繋げてたりしていますね。曲によってはAメロを通して弾くこともありますけど、その中の良いところを抽出して組み合わせながら作っているという感じです。

「逃避ケア」のラスサビや、「デンパラダイム」の2番など、曲調が大きく変わる展開も特徴的です。lumoさんがこのような表現に惹かれる理由はありますか?

やっぱり聴いている人に何らかのインパクトというか、爪痕を残したいみたいな気持ちはありますね。カットアップ的な表現もそうですけど、普通だったらここで切れないよねというところで音がプツッと切れたら、聴いている人にとってインパクトのあるものになるんじゃないかなと思って、こういう表現を使ったりします。それに自分は飽き性みたいなところがあるので、同じパターンを繰り返すだけだと作っているうちに自分が飽きちゃったりしますし、聴いてくれる人にとってもそうなんじゃないかなという不安もあるので、その結果として複雑になるみたいなことが多いかもしれないですね。

あと、曲作りとはあまり関係ないかもしれないですけど、情報量が多いものが好きですね。一度では理解できないけど何度も繰り返すことによって理解できるものに惹かれるので、そうしたことも影響しているのかなと思います。

曲調が大きく変わる複雑性に加えて、「メトロハドロンコライダー」や「QFT」などコード進行が複雑な楽曲も目立ちます。コード感に関して影響を受けたアーティストや楽曲を教えてください。

色々な方から影響を受けていると思うんですけど、それらの楽曲の時期に限った話でいうとやっぱり渋谷系ですね。例えばCymbalsであるとか、コナミの音楽ゲームを作られているwac(脇田潤)さんというコンポーザーの方が好きです。調べてみたら、Cymbalsの沖井礼二さんとwacさんは早稲田大学の軽音サークルで一緒だったみたいで、そうした系統のコード感が好きで影響を受けていると思いますね。あとはDorian Conceptという、ヒップホップ感があるけどメインはジャズピアニストみたいなアーティストのコード感であるとか、あとは『輪廻のラグランジェ』というアニメのOPテーマでRasmus Faberと中島愛さんによる「TRY UNITE!」という曲とか、このあたりのコード感も影響を受けていると思います。

ちなみにコードを数拍ずつ別の音色で鳴らすようなことをよくされている印象なのですが、あれはどのように作っているのでしょうか?

コード感だけを先に決めて、そのコードだけを録音したら次は別の音に切り替えてそのコードを録音してというのを組み合わせて作っている感じです。

ボーカロイドは「未来から来たボーカリスト」

lumoさんはボーカロイドの中だと初音ミクをメインに使われていますが、初音ミクでよく使うパラメーターやDAW上で挿すプラグイン、エフェクトなどについて教えてください。

パラメーターをいじることはしていなくて、基本ベタ打ちです。「VEL」「BRE」「BRI」「GEN」とかを曲全体でちょっとだけ変えたりはしますけど、曲のパートごとに値を変えるのは一切やっていないですね。人間っぽく歌わせたいみたいな気持ちは全然なくて、むしろ機械的に歌わせたいという気持ちで作っているから、パラメーターは変にいじらないほうがいいのかなと思っています。プラグインに関しても基本はLogicのデフォルトのものしか挿していないので、変わったものは使っていないですね。ただ、Logicに入っているコンボリューションリバーブのプラグインが個人的に好きで、ほぼ全トラックに挿していると思います。

初音ミクのパラメーターをあまりいじらなかったり、Logicのデフォルト音源をそのまま活かすためにカットアップのような手法を取ったりするのは、ある種のチープさみたいなところに惹かれているのでしょうか?

制限がある中で何かできることはないかなと考えながら作るのが好きだからですね。あまりお金をかけたくないという思いもありますけど、デフォルトで入っている音源でも満足しているので変に買い足したりはしていないんです。

「ハイパーサピエンス」では初音ミクの声に過剰とも言えるエフェクトがかけられていますが、あれはどのようにして作ったのでしょうか?

過剰なエフェクトがかかっている部分は、たしかAbletonのデフォルトのものを使っていますね。よく覚えていないんですけど、音がぐちゃぐちゃになるエフェクトを適当に挿したら良い感じになりました。

あと、特に最近の曲ではボーカルのピッチを整えるようにしています。初音ミクの声が連続するところを普通に書き出すとピッチがちょっと揺らいでしまうのが気になったので、揺らいで欲しくない部分は別のトラックを作ってその部分だけ書き出すみたいなこともやっていました。でもあまりにも面倒くさいので、今はLogicに入っているピッチ調整ツールみたいなものを使っています。確かLogic Pro Xからデフォルトで入ったツールだと思うんですけど、ボーカルのピッチを修正するためだけにLogic Pro Xを買って別で立ち上げています(笑)。

ボーカロイドのことはどのような存在として認識していますか?

ボーカロイドは未来から来たボーカリスト的な感じだと捉えていて、楽器というよりはあくまでボーカリストとして認識していますね。人間じゃないボーカロイド的な視点から、音楽を作れることが個人的にはすごく魅力だなと思っています。ボーカロイドの視点というのも、人それぞれで色々な捉え方があると思うんですよ。例えば、私は人間に操作されることでしか歌が歌えませんみたいな世界観の方もいらっしゃいますし。自分としては、人間を超えた視点で人類を俯瞰して見ることができるというのがボーカロイドの視点かなと思っています。

そう定義したときに、いわゆる恋の話とかで共感を誘うような感情ベースの音楽を作らなくてよくなるのがメリットだと思っています。人間的な感情を一切無視した音楽を作れることがすごく楽しいです。

音楽的な側面でのメリットはどうでしょうか。

ボーカロイドでしか作れない音楽というのは絶対にあるなと思っていて、そういった音楽を作れるのが音楽的なメリットの一つなんじゃないかなと思います。息継ぎを全くしなくてもいいし、とんでもない速さで喋らせることもできますし、人間の声では出せない領域の声を出すこともできるし。今まで人間だけでは不可能だった曲を作ることができるのは魅力的だと思います。

そういった点を踏まえて、lumoさんは「デンパラダイム」のような顕著な高BPM・高速歌唱の曲も作られていると思うのですが、これはcosMo@暴走Pさんやwowakaさんなどがボカロシーンのメインストリームで提示してきた要素でもあります。lumoさんは彼らとはまた違った独自の路線を開拓しているように思いますが、このような表現をするに当たり先例はどのように意識されましたか?

cosMo@暴走Pさんとwowakaさんにはめちゃくちゃ影響を受けてますね。それこそ作曲を始める前からお二人のことは存じ上げていましたし、特にcosMo@暴走Pさんの「初音ミクの消失」を聴いたときは、ボーカロイドにしかできない表現で本当に素晴らしいと思いました。高BPMだし、ボーカロイドだからこそ成立する歌詞になっているのでいまだにすごい曲だなと思っていますし、相当影響を受けていますね。

この曲以外にも、ボーカロイドでしかできないような表現をしている曲がすごい好きなので、自分としてもそんな曲を作りたいなと思っています。ちょうど「vocandroid」を作った頃から意識していますね。

個人的にlumoさんの作風のそうした先例と異なるところは、実験的でありながらも曲調・歌詞の両方に極めてポップ/ポジティブな感覚があるところだと思います。制作する際のコンセプトや気を付けている点はありますか?

個人的にもポップミュージックは好きなので、ポップで楽しいものを作りたいという気持ちがあります。ただ、単純にポップミュージックを作るんじゃなくて、どちらかというと違和感のあるポップミュージックを作りたいですね。例えば、『フランケンシュタイン』に登場する怪物とか機械みたいなものが見よう見まねで作った人間のポップミュージックみたいな、そういうちょっと変な感じのやつを作りたいなと思っています。

ただ、一番はやっぱりボーカロイド自体がそもそも実験的でありポップでもあると思う、というところなんですよ。合成音声で歌わせること自体が当初は実験的だったと思いますし、なおかつ可愛いビジュアルでポップアイコンとして成立している。そういった存在に寄り添うような曲を作るなら、実験的でありつつもポップである曲のほうが親和性が高いんじゃないかと思うんです。

つまり、lumoさんの曲はボーカロイドという存在があるからこそ成り立っていると言える、と。

そうですね。ボーカロイドだからこそできるものに面白みを感じるし、自分としてもそういったものを作り出したいなと思います。ただ、振り返ってみるとそんなに実験的に振り切れていないんじゃないかなと思うこともあって。どうしても既存の音楽の枠組みの中で考えてしまっているから、もうちょっと何か違うアプローチや実験的なことができないかなと常々思ってるんですけど、最終的には自己模倣して終わるみたいなことが多くて、そこはちょっと課題だなと思っています。

2014年12月投稿の「musiClock」あたりからは、高BPMや展開が控えめになっている曲も目立ちますが、変わらない魅力があると感じます。以前と比べて音楽に関する興味で変わった点や変わらない点はありますか?

ボーカロイドらしい曲を作りたいという気持ちはずっと変わっていないし、一時期はcosMo@暴走Pさんの影響もあって高BPMにすることがボーカロイドらしさが出る手法のひとつと思って意図的にやっていました。でも、曲を作り始めてみるとだんだんノリが一緒になってきてあまり違いが生まれないなと感じ始めたので、BPM以外でもボーカロイドらしさを出せるかもしれないと考えて、BPMを遅くすることも試したりしました。

展開に関しては、以前コード展開がめちゃくちゃ複雑な曲を作ろうとしたことがあったんですけど、その曲を楽器で弾いて録音するとなったときに複雑すぎて挫折してしまったんですよね。体力的にもきつかったので、そこからは展開を控えめにするようになっていったところがあります。複雑なものを作ること自体は難しくないんですけど、やっぱり疲れるんですよね。でも同じフレーズを繰り返すだけでは物足りないなと感じるので、自分が満足する範囲でちょっとずつ差をつけたり展開を作ったりするようにしています。

「スーパーハイ!」から最新曲の「ハイパーサピエンス」や「パラレルレイヤー」まで3,4年ほどのブランクがありますが、この間に何か変化はありましたか?

曲作りに対するスタンスに変化はないですね。「パラレルレイヤー」に関してはゲームのキャラクター(編註:スマートフォンゲーム『#コンパス 戦闘摂理解析システム』の登場キャラクター「零夜」のテーマソングとなっている)に合った曲を作ったので、いつもとはちょっと違う感じになったかなと思います。単純に、仕事を始めて時間的な余裕がなくなったのでブランクが空いてしまったという感じですね。

最新の2曲に関しては、重い音作りのギターが目立っています。

確かにギターを入れていますね。順番としては「パラレルレイヤー」が先に完成していたんですが、「ハイパーサピエンス」という曲自体はその前から作っていて、1年ほど公開せずに寝かせていたんです。「パラレルレイヤー」ではキャラクターのコンセプトと合うかなと思ってギターを使ったんですが、それが意外とハマって良い感じになったので、寝かせていた「ハイパーサピエンス」にもギターを入れてちょっと作り直してみたという感じです。

「フードコート」としてのボカロシーンの面白さ

cosMo@暴走Pさんやwowakaさんからの影響は語っていただきましたが、ほかに特に好きなボカロPはいますか?

たくさんいますけど、特に好きなのはdaniwellPさんですね。「Nyanyanyanyanyanyanya!」という曲は、息継ぎなしの高速歌唱、歌詞が「ニャ」のみと、人間が歌うポップミュージックではまず無い要素で構成されているにも関わらず、めちゃくちゃ可愛いメインストリームのポップミュージックとして成立していて、ものすごい発明だなと。まさにボーカロイドでしかできない表現だなと思います。

最近だとご自身でWebアプリを実装されていて、ユーザーが描いたキャラクターが踊るもの(編註:「Wonder of Wonder Art」、下記Twitterよりリンク)とか色々なものを作られているんですけど、そこにボーカロイドの曲も組み込まれていたりするんですよね。今までボーカロイドはニコニコ動画やYouTubeなどのプラットフォームの中で生かされているという印象があったんですけど、そこからより拡張されているというか、ボーカロイドの可能性が広がっているなという印象がすごくあったんです。そういう意味でもdaniwellPさんはめちゃくちゃ好きですね。

あとは松傘さんというミクとヒップホップを一緒にやっている方がめちゃくちゃ好きです。ボーカロイドにしかできないラップというか、ボーカロイドだからこそあんな感じのラップになるんだなというところを突き詰めているのですごいなと思いますね。「初音ミクの証言」という、松傘さんをはじめボカロでヒップホップをやっている方が集まって作られた曲があるんですけども、それもすごく好きで何年経っても聴いちゃいますね。

ボカロシーンやカルチャーのどのような部分に面白味を感じていますか?

先ほどのボーカロイドの視点の話にも繋がりますけど、ボーカロイドはめちゃくちゃSF的な存在だと思っていて。例えば、昭和や平成初期の人に「数十年後には機械が歌を歌って多くの人を感動させているんですよ」と言っても信じてもらえないんじゃないかなと。SF的な存在だからこそ新しく生まれてくるものがあるというのがすごく面白いですね。

あとは散々言われていることなんでしょうけど、やっぱりボーカロイドを使うことでどんなジャンルの曲でもボカロ曲だとリスナーの方が認識して聴いてくれるというところが面白いですね。これは既に誰かがやっているかもしれないですけど、曲として成立すらしていなくてもリスナーは聴いてくれるんじゃないかなと思います。それこそジョン・ケージの「4分33秒」みたいなアプローチでどこまでボカロ曲として成立するかみたいなのはちょっとやってみたいなと考えています。

lumoさんの曲にはファンメイドの動画が多い印象がありますが、それについてはどのように見ていますか?

シンプルにありがたいですね。自分は絵が描けないし映像も作れないので、あの謎のサムネイルから想像して作ってくれるのはすごく嬉しいです。自分では気づかなかった解釈もあって、自分はこう思っていたけどこの方はこう捉えてくれているとか、その違いを見るのが好きですね。

リズミカルな曲調だったり、あるいは元の動画がシンプルなイラストを使っていたりすることもファンの創作意欲を刺激するのかなと思います。

シンプルなイラストに関しては完全にwowakaさんの影響ですね。最初の頃は初音ミクのイラストを使わないとやばいんじゃないかと考えていたんですけど、wowakaさんはシンプルで幾何学的なイラストだったから、自分もこういったシンプルなイラストなら作れそうだと思って、このスタイルになりました。

個人的に、lumoさんのエクストリームな音楽が継続的にヒットしていることはボカロシーンの大きな魅力のひとつだと感じています。ボカロシーンやご自身のリスナーに対してはどのような印象を持っていますか?

そもそも自分はヒットしているとは思っていなくて、ホームランは打っていないけど一塁打ぐらいは打っているみたいな認識ですね。こちらとしては本当に自分がやりたいことをただ作っているだけなので、それを聴いていいねと言ってくれる方がいるのはすごく嬉しいです。

リスナーに関しては類は友を呼ぶというか、割と自分と似ている人が多くいるような印象があって。自分が好きだと思っていることを好きだと言ってくれる人は、どこか根本の部分が似ていたりするのかなと感じます。普通のポップミュージックとはちょっと違う、ひねくれている感じがあるからなのかもしれないですね。

自分も同じ体験をしたんですけど、ボカロシーンは若いリスナーが多いということもあって、lumoさんの楽曲をきっかけにヒットチャートでは珍しい音楽に触れて、そこから派生して色んな音楽を聴いていくこともあると思うんですよね。

そこはボカロシーンのひとつの魅力でもありますよね。ボカロシーンってフードコートみたいな感じだと思っていて、とりあえずそのフードコートに行って中華を食べて気に入ったら次は中華街に行くみたいな、そういう流れを作れるのはボカロシーンならではで面白いと思います。普通の音楽シーンだったら起こり得ない流れですよね。

でもその一方で、中華街からフードコートに来る人ってそんなにいないと思うんですよ。そこがもったいないなと個人的に思っている部分なんですよね。中華街で満足しているから別にフードコートに行く必要ないです、みたいな。ボカロシーンはちょっと閉じている空間だからなのかもしれないですけど、あえてそこにアクセスしようとしてくる音楽好きがそんなにいないのはもったいないなと思います。

例えば、菊池成孔さんによるDCPRGでボーカロイドの兎眠りおんをフィーチャリングした曲(「キャッチ22」)があって、そのアルバムをジャズの名門レーベルのインパルス・レコードからリリースしていて、それはすごく面白いなと思いました。ある意味、中華街の人がフードコートに来るきっかけを与えてくれているように感じて、こういうのがもっと増えてほしいなと思います。

それこそ、ハービー・ハンコックみたいな超大御所ジャズピアニストとかがボーカロイドをフィーチャリングした曲を作ったりすると、ジャズ好きの人がボカロシーンを覗きに来てくれるかもしれないし、これまでとは違う新しいジャズの表現が生まれる可能性もあると思うので、そうなったらもっと未来が開けてくるのかなと思います。めちゃくちゃ他人事ではあるんですけど、誰かやってくれないかなと(笑)。

ちなみに今までボカロのフルアルバムは作られていないですけど、予定などはありますか?

今のところはないですね。自分の作る曲はカロリーが高くて、家系ラーメンみたいなものだと思っているんですよ。家系ラーメンを10食連続で食べるのはしんどいので、楽曲の特性上アルバムという形式は向いていないんじゃないかなと思います。いざ作るとなったら在庫の心配もあるし、マスタリングして統一しなきゃいけないとか考えることがたくさんあるので、面倒に感じちゃいますね。

あと、自分自身が何かアルバムを聴いたとしても一回聴いた後は好きな特定の曲を繰り返し聴くことが多いんです。今の音楽シーンを見ていても、1曲だけ作ってシングルとしてストリーミングで次々と配信するスタイルも多くなってきているし、アルバムという形式にこだわる意味があまり感じられないというのもありますね。

ボカロカルチャーが動画サイトを中心に賑わっていったことで、「情報量の多い曲を一曲だけ聴く」という形を普及させた面もあるのかもしれませんね。lumoさんの楽曲は、そうした意味でもボカロならではのものという気がします。

そうですね。一曲を聴くために動画サイトにわざわざ行くというのは、それまでの音楽体験としてはなかったことなので。今となっては動画サイトでアルバム的に聴かせることも可能ですけど、長い間難しかったですからね。

リード文・聞き手:Flat
本文構成:しま


lumo プロフィール

Twitter:https://twitter.com/lumommmbon

ニコニコ動画:https://www.nicovideo.jp/user/1526859/mylist/18782179

YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC3lf_txBkZ5Jk7P_Wwm225Q

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