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井上尚弥と戦うということ~怪物に出会った日

森合正範さんの「井上尚弥と戦うということ~怪物に出会った日」を読み終えました。

井上とパヤノの試合の観戦後、ラジオプロデューサーから「結局、井上尚弥はどこがすごいんですか?」という質問に対して、スピード・パワー・ディフェンスなど簡単に言うと”全部凄い”という薄っぺらい説明に、筆者は何がすごいのか本当は分かっていないということに気づいて、対戦した相手に取材をしていきます。

スラムダンクで、中村記者が山王のセンター河田(兄)をみて「おおきくてうまいです」という感想に相田彦一の姉に「なんじゃその感想は」と怒られるシーンがあります。
すべてにおいてパーフェクトな選手は、どこが凄いのか上手く伝えきれずにシンプルな表現になってしまうのではないかと思います。

この本には、色々な対戦選手がでてきます。
一人目は、佐野友樹です。
薬師寺と辰吉の試合を見てボクシングをはじめます。網膜裂孔の手術をうけたが、次にダメージを受けたら網膜剥離になる可能性があるという医師の宣告を受けます。それでもボクシングを続け井上尚弥と対戦することになります。
「井上君の左は多彩で、一発一発のタイミングが違う。ジャブが来ると思ったら来なかったり、来ないと思ったらまたでてきたり、ジャブの軌道のはずが途中から急にフックになったり、そう思ったらボディーにくる。動きが柔らかくて、パンチに伸びがある。全身がバネという感じ。闘っていて、むちゃくちゃ練習しているんだろうなと思いました」という回想と、危険を察知する能力、洞察力が凄いとも言っています。

二人目は、田口良一です。
当時、日本ランキング1位の田口と19歳になったばかりの井上がスパーリングをし、ダウンを奪われ4ラウンドの予定が3ラウンドで打ち切られます。
この時、田口は「ダッシュをしてきたかのように距離を詰められた。ジャブから右ストレート、ボディーにもパンチが伸びてくる。相手の手が止まらない。その一発一発が経験したことのない重さだった」と回想しています。
ボクシング漫画「はじめの一歩で」が好きで、薬師寺と辰吉の試合、新井田豊や畑山隆則の試合を見てボクシングをはじめます。
井上とのスパーリングの後に日本チャンピオンになります。日本王座を返上して世界挑戦に挑むという選択肢もあったが、「井上戦を避けて上にいくつもりはないです」と負けん気が強く、田口ー井上戦が決定します。
2回、リングの下からみていた石原トレーナーは、「こっちの狙いが分かっているのか、、、。作戦がはまらない」田口が左を打ったと思ったら、今度は見切られ、あっさり首だけで避けられた。井上の対応力に感嘆しています。
結果は判定で井上の勝利。プロ4戦目で日本王座、日本最短タイ記録となります。
田口は井上戦後、WBA王座7度防衛し、2団体統一王者にもなっています。次戦でベッキー・ブドラーに判定負け、その後1階級上げ、フライ級で田中恒成に挑み判定で敗れて引退。引退会見で「井上戦があったから世界王者になれたと思います」と言っています。

その他にも、アドリアン・エルナンデス(WBC世界ライトフライ級王座獲得した対戦相手)、オマール・ナルバエス戦(WBC世界スーパーフライ級王座獲得した対戦相手)、黒田雅之(公開プロテスト・スパーリング相手)、ワルリト・パレナス(WBO世界スーパーフライ級王座初防衛した対戦相手)、ダビド・カルモナ(WBO世界スーパーフライ級王座2度目の防衛した対戦相手)、河野公平(WBO世界スーパーフライ級王座4度目の防衛した対戦相手)、ジェイソン・モロニ―(WBA世界バンダム級王座4度目、IBFバンダム級王座2度目の防衛した対戦相手)、ノニト・ドネア(第1戦と第2戦「第2戦の勝利でWBA・IBF・WBC世界バンダム級王座統一」の対戦相手)、ナルバエス・ジュニア(オマール・ナルバエスの息子)に取材されています。育った環境、ボクシングを始めるきっかけ、試合の回想など色々と書かれていて面白かったです。

個人的には、好きな試合はノニト・ドネア戦です。
第1戦では、2回にドネアのフックに井上の目がカットします。ドネアが2重に見えながら、11回には左ボディーフックでドネアからダウンを奪い、結果は判定勝利。
第2戦では、1回に左のジャブのフェイントから右ストレートでドネアからダウンを奪い、2回には井上の左フックでドネアがよろめいて、すかさず連打をたたみこみドネアが崩れ落ちて2回KO勝ち。
好きな試合なので、ドネアの詳しい回想があれば良かったですが、現役中の選手ですのでそこまでは難しいかもしれませんね。

直近では、2023年12月26日にタパレスと対戦し、10回KO勝ちで2階級4団体統一という偉業を成し遂げています。
2024年はスーパーバンダム級でネリやアフマダリエフの名前が挙がっています。どこまで強くなっていくのでしょうか?
今後も素晴らしい試合を楽しみにしています。

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