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ループライン#34

【夕陽が丘駅】…………Naoki Mita(2)

「鷲(わし)神社じゃないか」
「懐かしいだろ?」

 手渡したのはアルバムだった。紅葉や木漏れ日、霧雨などに包まれた古びた神社の写真が、数ページに渡って何枚も並んでいる。
 直幹は学生時代から写真にハマり、今に至るまでずっと趣味にしている。時間を見つけては色々な写真展に足を運んだり、自分で撮影に出かけたりもする。カメラはお金がかかると言われるけれど、あくまでも趣味でやっているだけだ。デジタルの一眼レフを一台、あとは一番最初に思い切って購入したいいカメラを、長く大切にしている直幹である。

『““いい写真”には色々な種類がある』

 目の前にいる二人が昔かけてくれた言葉だった。その言葉がなければ写真を続けていなかったかもしれないと思うと、不思議な気持ちになる。感謝の代わりに定期的に作品を見て貰うのは、三人で会う際の慣例になっていた。

「今年の秋はあんまり遠出出来なかったから、ちょくちょく鷲神社に通って定点撮影っぽいのを目指してみたんだ」
「こういうのもいいなあ。置きっ放しじゃなくて、ちょっとずつ微妙に場所がズレたりしてるのが」
「素人撮影だからその辺はご愛嬌だろ」
「いやいや、別にからかってる訳じゃねえよ。本心本心」

 藤岡は楽しそうにページをめくる。

「なおきの写真はさ~……あったかいんだよな~」

 横から一緒に覗き込んでいた守山が、そう言って目尻を下げた。

「ボクが撮ってみてもさあ、なんか違うんだよ。これがセンスってものなのかね~」

 心底羨ましげな声にこそばゆいような気分になり、直幹は首の後ろを意味もなく掻いた。身内贔屓だとしても、やっぱり褒められると嬉しい。好きでやっていることだから尚更だ。

「ありがとな、モリ」

 お礼を言えばへらりと笑う。隣では藤岡が熱心にページを眺め続けている。

「お前、風景写真専門か?」

 視線を落としたまま口を開いた藤岡に『そんなことないよ』と告げれば、彼は強面に似合わぬ仕草で小首を傾げた。

「いつも、あんまり人が写ってないと思ってさ」
「ああ。ほら最近はさ、プライバシーうんぬんが厳しいから。どこに出す訳でもないんだけど何となくなー」
「そうか。何だか勿体無いな」
「え?」
「モリも言ったけど、お前の写真あったかいからさ。人物撮るのにも向いてるんじゃないかって思ったんだよ。まあ門外漢の言うことだから聞き流してくれていいんだけどよ」

 サラリと言ってビールをグビリ。

「気が向いたらさ、うちのチームのチビ共でも撮りに来てくれよ。応援がてら。いつもサポートしてくれてる親御さんも喜ぶだろうし」
「……そう、だな。あ、でもあんまり期待はしないでくれよ? テクニック的にはスナップ写真に毛が生えた程度の腕前なんだからな」

 慌てて付け加えておく。

「すいませえん! おにーさん、徳利もう一本おんなじの!」

 守山が元気に声を上げた。宴はもう少し続くようだ。


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■2021.05.18 初出

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