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ループライン#27

【スカイプラザ駅】…………Shuu Negishi(2)

 最寄りのモノレールの駅までは徒歩五分ほど。駅の近くには中学校があり、広いグラウンドでは生徒達がパラパラと散って掃き掃除をしている。
 最近の学校では清掃員を雇っているところもあるなんて話も聞くけれど、昔ながらの竹箒で自ら学び舎を清める学生の姿はとても美しいと思う。何がいいとか悪いとかではない。変わっていくことは自然なことだ。ただ、変わらないよさも確かにある。少なくとも自分も大昔学生だった時同じ経験をしていることで、子ども達と共通点……といったらいいだろうか? 一緒の目線で体験を語り合えるのがとても嬉しい。以前話をしたことを思い出して、楸は目を細めた。

 中学校前駅から三駅。スカイプラザ駅でモノレールを降りる。この駅は大きな立体駐車場に直結しているので、とりどりに並ぶ車のお尻たちを横目にショッピングセンターへの連絡通路を進んでいく。たどり着いた平日のショッピングセンターは閑散としていた。帰宅ラッシュの時間帯になればホワイトデーギフトのコーナーも混雑するだろうが、この分ならまだ芋洗い状態に挑むのは免れられそうだ。ホッと胸を撫で下ろしつつ、楸はきっちり巻いていたマフラーを緩めた。

 ――小さめのお菓子と……何かないものかなあ。

「奥様にプレゼントですか?」

 やってきた特設コーナーで、春らしい菜の花色の包みを手に楸がキョロキョロしていると、短く声をかけられた。ふくよかな中年の女性店員だ。営業スマイルとは別種と分かる、人懐こい笑みを浮かべている。

「そうなんですよ。これだけ色々あると、目移りしてしまうね」
「華やかですよねえ。この一角はハロウィン頃からクリスマス、お正月、バレンタインとず~っとイベント用のコーナーなんですけど、ホワイトデー前のこの独特な雰囲気、私大好きでして」
「ははは、そこに加わっている身としては少し恥ずかしいな」
「素敵じゃないですか。うちの夫も見習って欲しいわ~」

 仕事中だということも一瞬頭から飛んだらしく、あまりにも感情のこもった言葉に小さく吹き出してしまった。すぐに彼女はハッとして照れ笑いを見せた。

「あらやだ、失礼致しました。それで、そちらお決まりですか?」

 楸が手にした包みを示して言う。

「はい。……ああいや、あと他に添えられるものがあればと思っているんだが、何かオススメなんてあるかな」
「そうですねえ……王道は、やっぱりお花でしょうか? それからハンカチやミニタオルのような日用品、ハンドクリームなんかも最近は人気ですよ」
「なるほどなあ」

 花の名前を持つだけあって、椿も花は大好きだ。他にこれ! というものがなければ、それで間違いはあるまい。ならば差し当たり。

「ありがとう。後でハンドクリームやらを見に行ってみることにするよ」

 店員は嬉しそうに頷いて、お菓子の包みの会計を案内してくれた。可愛らしいショッピングバッグは遠慮して、楸は潰れないよう気を配りながら鞄に包みをしまう。頭を下げて見送ってくれる店員に軽く手を挙げて応えてから、華やかな一角を後にした。
 記憶にあるスキンケア用品の売り場は、確か二階の映画館方面だったはずだ。移動の手間的にも丁度いい。腕時計を確認して、楸はエスカレーターを目指し歩き出した。

 ――待ち合わせの時間までにはまだ一時間近くあるか。いい贈り物を選べたら、時間までゆっくり本屋さんでも覗いていよう。

 余裕のある行動は楸の常だ。不測の事態に備えてのことなのだけれど、実際にそんな事態に陥ることは滅多にない。……まあ、だからこその不測、なのだろうが。

 その滅多なことが、この日に限って起こった。


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■2021.03.30 初出


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