エピソードを絞り込むことでクリアになる作品の魅力 「舞台 おおきく振りかぶって」



2018年、最初の観劇は「舞台 おおきく振りかぶって」。制作決定が発表され、脚本がキャラメルボックスの成井豊さんと聞いてから、待ち構えていました。とても魅力的なステージに仕上がっていたので、ぜひ続編を期待したいです。


テニス、バスケットボールにバレーボールに自転車といろいろなスポーツの舞台を見てきましたが、野球は初めて。(「ダイヤのA」の舞台を見損ねていたので)。果たしてあの広いグラウンドがどう舞台におさまるのかーーとわくわくしながら行きました。

□舞台上で野球の試合が!!

結論から言うと「劇場で野球の試合を見た!」という印象です。

「まず選手が18人でしょ。長打をうったり走ったりといった野球の動きをあの舞台でどうやるの」と思っていました。が、見事にあの舞台で広々とボールを投げ、バットを振り、一塁、二塁、三塁、ホームベースへと走る。スピーディーで臨場感のある「試合」でした。

ただ舞台なので、なるべく役者の顔が見えるように、ピッチャーと、バッター・キャッチャーは横に1列に並ぶ。キャッチャーがボールを投げる演技をすると、それにあわせて周りが動き、バッターはバットを振るというかたちです。(「ナイバッチー」って叫びたかった!!!!)

塁を走るのは、うまく舞台に端から端まで三角形になるようにしてある。ホームベースは舞台の一番手前です。

□桐青戦までやってくれてありがとうございます。

物語は、西浦高校のメンバーの出会いから、予選の桐青戦まで。コミックスでいうと10巻近くありますが、うまくエピソードとセリフを整理して、2時間程度の芝居にまとまっていました。

やや物語のペース展開は早いものの、個人的には桐青戦までやって、初めて「西浦高校って何かをやってくれるすごいメンバーかも」と思わせられるので、よくぞここまでやってくれたと思いました。もちろん、三橋選手のトラウマである、三星学園との練習試合、武蔵野第一の試合観戦を織り込みつつ。

□実は居場所探しをしていた阿部選手

厳選されたエピソードによる舞台を見て実感したのは、「三橋も阿部も居場所を見つけたのだな」という感動です。

脚本・演出の成井さんのインタビューなどみないとはっきりしませんが、個人的な印象としてはコミックスの展開をそのまま描くというより「チームで戦う競技を通じて、個人、特に三橋と阿部が居場所を見つける物語」という印象を原作よりも強く実感しました。

原作はチームスポーツのすごさ(私としてはなぜ体育会系をやってきた人が日常的に声が大きいのか疑問だったのですが、おおきく振りかぶってを読んで初めて「試合中とか声かけあうからか」とふにおちました)を通じて、三橋という自尊感情の低い人間が認められ、認められることで自分から他の人に何かをしようとし始める成長物語を描いています。これはこれですごいのですが、舞台を見て分かったのは阿部もまた「仲間のいなかった人」ということ。

阿部は野球はうまいし、栄口という昔の知り合いもいる。でも結局榛名というピッチャーに認められず、いい別れができなかったことでどこかひねくれていたのだと思う。(確かに原作でも、友人がいないことに気がつくシーンがありました)。だから自分とあうピッチャー=自分を選手として、人間として認めてくれる人を探していたのではーー?阿部が選手としてなまじ優秀で周りとやりとりできていたから原作では気がつきませんでした。

別に同じ目標を目指さなくても、同じスポーツをしていなくても、阿部と三橋のような絆はできるかもしれません。でも、高校野球という魅力的かつ危うい世界を通じて描く絆はやっぱり尊い。

もちろん三橋と阿部以外のキャラクターも、ほかの2・5次元舞台に負けず劣らず原作のイメージを崩さずそれを超えてくるものでした。田島は田島だし、花井は花井だし。篠岡も、監督も先生も、みな細かなセリフや演出は舞台向けにアレンジされていても「ああこのキャラクターならこういう行動をする/こんなこという」と思わせてくれるもの。原作ファンが抱くキャラクターへのイメージとのズレがほとんどないように思えるのはさすがです。

□やっぱり歌とダンスは欠かせない

ミュージカルではないので、歌やダンスがなくてもいい。でも、舞台でも1~2曲あると、宣伝のときも使えるしなんといっても観客の印象に残りやすい。おおきく振りかぶっての場合は、かわいい全員でのダンス。しかも音楽はアニメの第1期のOPで名曲、「ドラマティック」。涙が出てきました。

ちなみに観客はほとんど女性。原作もそうですが、すでに役者ファンもいるみたい。(終わってから確認したら、私が見た舞台にも出ていました)阿部役は声が低くて阿部の怖さが増幅されました。三橋役の人は弱々しい振る舞いや、泣く演技が秀逸でした。2・5次元系とキャラメルボックスという舞台系のファンがうまくミックスしているイメージ。これからこういう作り方が増えてくれるとより市場が広がりそうです。ぜひ続編やってくれますよーに!!


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