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演者が演出側に回り、世代を重ねる2.5次元舞台

2023年8月は2・5次元舞台にファンにとって豊作の時期です。「舞台 刀剣乱舞 七周年感謝祭 -夢語刀宴會」があり、「舞台 弱虫ペダル The DAY 1」があり「ワールドトリガー the Stage」があり「劇団 ハイキュー 旗揚げ公演」があり。常にどこかの劇場で2・5次元舞台をやっている環境というのが幸せです。

役者→制作側というルート

この中でも注目したいのは「舞台 弱虫ペダル」と「劇団 ハイキュー」です。もちろん原作から人気というのもあるのですが、いずれも演出家が過去の同作品に出演していた役者だという共通点があります。いま、2・5次元舞台では、短くはない歴史を重ねてきたことで過去の出演者がシリーズ最新作の作り手側に回っているのです。

弱虫ペダルは2012年に初めて舞台化され、2022年に10周年を迎えました。2022年の公演「舞台『弱虫ペダル』The Cadence!」から演出家を務めるのは、鯨井康介さん。2020年までの「舞台 『弱虫ペダル』」のシリーズで、総北高校の手嶋純太役をつとめた役者さんです。手嶋役としてもすごかったし、原作のキャラクターや物語の魅力を引き上げていて、ほとんど主役(座長は主人公の小野田坂道役の人です)ぐらいだったのですが、演出家としてもこれまでのシリーズの特徴的な演出を取り込みつつ、さらに新しい演出を上乗せしていい舞台に仕上げていました。

https://www.marv.jp/special/pedal/10th/

役者が演出をやる、演出家が役者を兼ねるというのは小劇場では珍しいことではないのですが、2・5次元舞台でそれができるようになったというのは、ひとえに2・5次元舞台というジャンルが短くはない歴史(弱虫ペダルは2022年に10周年)ができてきたからだと思います。

同様に「劇団 ハイキュー 旗揚げ公演」も2015年の初演から「最強の場所(チーム)」まで主人公を務めた須賀健太さんが演出家を務めています。須賀さんの日向 翔陽は本当に雰囲気と運動力が日向で感動しました。正直今回の舞台化は、演出が須賀さんというところでかなり期待しています。

ちなみに、先日「舞台 おそ松さん」の2nd Seasonの制作が発表されました。
https://osomatsusan-stage-2nd.com

脚本家のひとりに1st Seasonでおそ松役を務めた高崎翔太さんが入っています。振付には、F6おそ松さんを演じた経験のある井澤勇貴さんが参加しています。

ミュージカルを目指した「テニミュ」

「ミュージカル テニスの王子様」(テニミュ)から始まる、いまの2・5次元舞台の隆盛を振り返ると、この制作側の変化は大きいなとみています。テニミュの初期の制作は、ネルケプランニングがアニメの声優のキャストのスタッフィングもしていたこともあり、声優をしている役者も板の上に乗っていました。このときの演出や振付をしていたのは、ブロードウェイをはじめとするミュージカルにあこがれるなどしていた作詞家や振付師の方々。テニミュもそうですが、演出含め舞台の作り方に王道ミュージカルの流れを感じます。

演劇の風を吹き込んだ演出家たち

この世代を仮に「第一世代」とすると、その次の「第二世代」の風は演劇界から来ました。「舞台 弱虫ペダル」の演出や脚本を手掛けた西田シャトナーさん、「ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」」を手掛けたウォーリー木下さん、中屋敷法仁さん、「舞台 刀剣乱舞」の脚本を手掛ける末満健一さんなど、それぞれ小劇場中心に演劇界で脚本や演出の経験を積み、ときには劇団を率いていた人たちが2・5次元舞台の演出に入ってきました。ちょうど2010年代半ばぐらいだったと思います。手探りでやっていた役者の育成や舞台の作り方に、小劇場中心に演劇の手法が持ち込まれた時代です。個人的には役者や原作ファンだけでなく演出家に注目している演劇ファンが2・5次元舞台を見始めたころだとみています。

こうした経緯を経て、もうテニミュは2023年に20周年を迎えました。この時期に役者として舞台に出ていた人たちももうアラフォー。もちろんそのまま役者を続けていかれる方もいらっしゃいますが、制作側として「2・5次元舞台界隈」にかかわり続けるというのも切り開いた道のひとつだと思います。

2・5次元舞台という漫画やゲーム、アニメの原作からのメディア展開は、広い意味での「二次創作」だと思います。もちろん公式ですから原作側の確認はあるものの、演出家やプロデューサー、役者という原作者以外の人の解釈や思い、考えが上乗せされたかたちでファンの前に「これが我々の解釈した原作世界です」というものがお出しされる。ファンは、原作とともにその原作の、ときには隙間を埋めてくれるもの、ときには世界を広げてくれるものとして「公式の二次創作」である舞台を楽しむ。私は原作の世界が好きだからこそ、その世界を広げてくれるメディア展開を可能な限り長く楽しんでいたい。ということで、役者も含めて2・5次元舞台の界隈を支えてくれる人材が豊富になればいいなと思います。

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