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聞き書きワークライフ~経理~

世の中にある色々な仕事・職種の話を聞くのが好きです。
「営業は会社の顔!」とか「経営企画は社長の参謀!」とかの、印象的だが実際のところよくわからないフレーズでも語られがちな「職種」について、肌身で分かる話を人から聞いて、溜めていくのを細々としたライフワークにしたい。
今回は20代女性から、大企業メーカー・ベンチャーそれぞれで経理をした話です。

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――歴史も古く、企業規模も大きなメーカーと、ベンチャー企業のそれぞれで経理を経験されてますね。経理としての働き方も違います?
■同じ部分も違う部分もありますね。同じ部分でいえば、経理が仕事をする前提となる会計基準は同じです。国が決めているルール・原則ですので。
売上を計上するための条件や、投資家に公開する財務諸表の作り方など、転職しても前の職場で学んだことがそのまま活かせています。
■違う部分でいうと、例えば内部統制への意識です。大企業だと「ガバナンス」や「ルール順守」は前提として根付いていました。なので経理は会社の取引を追いながら、正しい数字を作っていくことに集中できていました。
一方で、ベンチャーだと若い人が多く、事業のスピードも速いので、何とかしてガバナンスや監査の上で問題ないルールを作って、現場に根付かせる仕事が多くなりますね。

――会社によって「経理職」と言っても働き方が全然違うのは面白いですね。順番に聞かせてください。

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――大企業メーカーではどういう仕事をしていたんですか?
■連結の財務諸表を作っていましたね。子会社からそれぞれ上がってくる数字を積み上げて、正しく経理処理をかける仕事です。
――それって極論、ルール通りに処理してくれるシステムがあったら自動化できる作業なんですか?それとも対人のやり取りとかが結構ある?
■自動化できちゃう部分も沢山あるんですけど、対人のやり取りもありますよ。取引の実態に応じて、適用すべきルールが違うので「実態、これはどういう取引なの?」をきちんと特定しないといけない、とか。
――なるほど、具体例を教えてもらえますか?
■例えば、親会社と子会社の間での取引は「内部取引」に当たるので「内部消去」というルールで処理します。一方「子会社が支払うべきお金を親会社が立替え払いした」ケースだと、適用するルールが違う。子会社の色々な取引について、まず実態をヒアリングして、本質的には内部取引にあたるのか立替払いに当たるのかを特定して処理する、みたいな部分は人とのやり取りが発生します。

――今教えてもらったような、パターンAにあたるのかパターンBにあたるのか、みたいな判断以外に「そもそも対応するパターンがよくわからない。これどうする?どうやって会計処理する?」みたいな部分から頭を悩ませるケースってありました?
■一番思い当たるのは合併周り・資本連結回りですね。海外の子会社が合併したときに、それぞれの会社の財務諸表をどう足し合わせて調整していけばいいか?差額はどうするか?などを綺麗にしていく仕事は、会計士の方も巻き込んで頭を悩ませました。
■今の会計基準だと「公正価値」って凄く出てくるんですよ。「この資産が将来どれくらいのお金を産むのか?」をできる限り見積もったうえで、その資産の評価額としよう、というような考え方なんですけど。
■でも現実、会社が保有しているそれぞれの資産について公正価値をきちんと見積もっていくってかなり大変で。。。どこまではきちんとコストをかけて見積もる、どこまでは簡便に算出する、という落としどころを考えて、会計士の方に提案して、承認してもらう、というようなネゴがありますね。

――なるほど、例えば個々の会社が、個々の会社なりに会計士の方々とネゴった部分があるのであれば、合併するときにそれぞれのやり方をどう統合する?とかの議論は複雑になりそうですね。。。
■ええ。あと会社の規模によっても監査の論点が変わったりします。例えばお得意先のお客様に適用するボリュームディスカウントについて、親会社であれば「売上総額に対して金額が僅少」ということで、ある程度までは簡便な管理を認めてもらえたりするんですけど、子会社になるとボリュームディスカウントが売上に対して与える影響が大きくなります。なので、いつ・どの会社に・どういう金額を・どういうルールに基づいて実行したのか?そのディスカウント額を何月の売上から差し引くのか?の管理が急に細かくなったりもします。

――ありがとうございます。ファーストキャリアで経理職を選んでよかった、身についたと思うことってあります?
■複式簿記と会計原則である程度、物事を考えられるようになったことかな。あと税務の知識。どこの会社でも使える知識だと思うし、実際に転職先の仕事でもすごく活用できている。

――スキルや経験が身についた、の他に、日々の仕事で良かったことはあります?
■わりと毎日の仕事は楽しかったな。物事を分類するのが好きなのかもしれないです笑。どこどこの会社とどういう取引をした、どういうモノが工場に入荷された、みたいなナマの事象がまずあって、それを「会計原則でいえばこのケースだな」「こういう会計処理にあてはまるな」と整理していくのは好きでした。「ナマの事象」「当てはまりそうな会計原則」「実務耐えられるか?」とかを勘案して「じゃあこういう経理処理にしましょう」が決まっていくのは、すっきりしたな。
■そこで考えたことに従って、例えば営業部に「この時点で、こういう書類を取引先と握っておいてください」「この数字を曖昧にしておくと後で絶対税務につっこまれますよ」とかをアドバイスしていくのは、やりがいがありました。

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――今のベンチャーでは、経理としてどういう仕事をしています?特に、前職と違う部分は?
■冒頭のガバナンスやコンプライアンスの話ですね。あと、財務回りもやるようになりましたね。きちんと入出金がされているかの確認とか、社外の方と債権債務・お金の受払い周りで認識相違が出た場合は、弁護士の方に対応相談する、とかです。

――なるほど。経理処理の仕事はあまり前職と変わりませんか?
■いや、結構変わりますね。
■前職って、毎年毎年の売上は割と安定しているメーカーだったんですよ。なので、売上はそこまで論点にならない代わりに、製造原価が凄く論点になったんですね。工場の食堂の運営費用とかも全て原価に計算しますし、マシンの生産量とかも加味して、結局原価がいくらかかったの?をガチガチに計算していました。
■今の職場では、原価はそんなに論点にならず、売上が論点になりますね。お客様から案件を取ってきたのはいいけど、それって会計基準に照らし合わせると本当に売上が立っているの?が論点になりがちです

――注目する論点が企業によって全然違うんですね。「それって本当に売上が立っているの?」ってどういうことですか?毎回特殊な取引をしない限り、ちゃんとルール通りに売上が立つと思うんですが。。
■うーん、基本はそうなんですけど、運用の部分でもっと啓蒙というか風土として根付かせることが大切で。。。納品書の回収をきちんと、〇日までに行う、という業務が徹底されない限り売上が立てられない、ということをアナウンスしつつ、ちゃんと売上を立てるために必要なことをガイドしていますね。
■あと、新規事業がどんどん出てくるので、その事業を回したときにどういう売上・費用が立つのか?経理処理が行われるのか?の整理もしていきます

――新規事業のルールメイキングですか?詳しく聞きたいです
■例えば、新しくこういうサービスを始めたい、売上の見込みも立っている、ということを聞かされて「そうであれば、こういう費用がかかりますね。これは原価に含めるので、こういう利益が出ます」ということを会話していきます。

――それって、前提として、新事業で何を売るのか?どういう登場人物がでてきてどういうお金がかかるのか?モノがどう動くのか?を全て理解していないといけないということでは?
■そうです。事業部にヒアリングしてビジネスモデルはきちんと理解します。その上で会計処理の案を作って、監査法人の方にOKをもらいます。
■ただ、新規事業系で大変なのは、どちらかというと会計処理を整えることよりも内部統制なんですよね。。。

――新規事業の内部統制が大変、というと?
■誰が決裁して、誰がどういう書類を残して…という統制フローを、監査の基準に適合するように整えることです。
――社内の承認ステップと、書類をいくらでも増やして良ければどうにでもなりそうなんですけど、そうじゃないってことですよね?
■そうです。特に新規事業だと社内のリソースもなく、責任者1人で全部やります!ってなっちゃいがちで。。。複数の承認者を巻き込む、複数の部署が互いに監視しあえる……という流れを組んで、監査法人と事業部双方のOKをもらう部分ですね。

――なるほど。でも今それを仕事としてやっているということは、これから先、どんな新規事業が出てこようと、「こういう流れでこういう資料を出してください。そうすればこういう会計処理を経て、こういう利益を立てます。ちなみにこういう手続きで内部統制してください」というフローを組めるスキルが身についているということ?
■理屈上はそうですね。上司にも助けてもらいながらですけどね笑。

――最初に経理の良かったところとして「色々な企業で通用するスキルが身につく」「分類していく楽しさ」を聞きました。最後に聞く質問としては良くないかもしれませんが、経理をやっていて大変なことは?
■うーん。直接的に売上を立てる部署じゃないのに、社内に対してお願いが多いことですかね笑。売上を立ててくれている部署に対して、会計士みたいな立場で「こうしてください」「ああしてください」とお願いすることは多くて、ちょっと申し訳ないなという気持ちになることはあります。

(語り手 20代女性 大手メーカー 経理 ⇒ ベンチャー 経理)



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