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令和5年 行政書士記述民法問46分析

令和5年民法46問の分析です(令和5年11月17日時点)。
以下のYOUTUBEと同じ内容です。
https://youtu.be/hhxi8TmibR8

問題文を簡潔にまとめると、
工務店Bが材料を供給し設計も担当する建物建築請負契約の場面で、
注文者Aは完成した建物の引渡しを受けたが、直後に雨漏りが3か所判明したので、請負人である工務店Bに通知した。
この場合に、「民法の規定に照らし~権利行使できる根拠を示した上で」、
修補請求以外の3つの権利行使の方法について」記述する問題です。

ここで、「権利行使できる根拠を示した上で」という部分だけを切り取って、問いに答えてしまうと、「3か所雨漏りしているから」とか、「通知をしているから」などの、事実(出来事)を解答に書いてしまう可能性が出てきます。

ここで、「権利行使できる根拠を示した上で」という部分だけを切り取るのではなく、前後の文章を含めて問いかけている内容を確認すると、
民法の規定に照らし権利行使できる根拠を示した 上で」(注文者側の)「修補請求以外の3つの権利行使の方法について」記述するよう問いかけているので、3つの権利行使ができる民法上の根拠(法律上の根拠=権利行使の相手が負う責任)を書かせたいのだとわかります。3か所雨漏りしているとか、通知をしているなどの、事実(出来事)を答えてほしいわけではないということなのでしょう。
まとめると、
事実(出来事)ではなく、注文者が権利行使できる民法上の根拠(法律上の根拠)として、請負人にどんな民法上の責任が発生しているかを解答せよということです。

ということで、試験委員が解答するよう誘導している注文者側の「修補請求以外の3つの権利行使の方法」とは何か? から検討して、その民法上の根拠(権利行使をする相手である請負人の責任)を検討した方が効率がよさそうです。

 ここで、質問の内容として、問題文に忠実に「修補請求以外の3つの権利行使の方法」とありのままを、質問内容として受けとめた人は、注文者は4つの権利を行使する方法があるが、そのうち、修補請求を除いた他の3つの権利を行使する方法をあげなさいという趣旨だと理解し、修補請求のほかに、どんな請求ができるかを3つ、思い出そうと考えるでしょう。
 他方で、「修補請求以外の3つの」という部分を無意識にカットして、「権利行使の方法」という部分だけを切り取って質問内容を勝手に短く編集してしまうと、修補請求と並ぶ修補請求以外の請求内容が問われているとは連想しにくくなり、「注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知をする」(637条1項参照)などと、権利行使前に必要な要件を書きたくなる人もいるかもしれません。無意識に問題文を短く切り取って日本語を読もうとする傾向にある人は、問題文で与えられたヒントや誘導文言を全部活用できず、出題意図を外す可能性が高まるので注意が必要です。

問題文の事実から、注文者が何を言いたいか(言える可能性があるか)を抽出していきましょう。

この問題は、住宅に雨漏り3か所あり、請負契約の不適合で、注文者は、
請負人に文句を言いたい事例だとわかります。

そこで、注文者が言いたいことをあげ、それを民法上の請求に変換すると
❶雨漏りなおせ        ➡ 修補請求   ➡ 問題文で除外
請負代金をまけろ      ➡ 代金減額請求 
❸損害について賠償をしろ   ➡ 損害賠償請求
❹契約をやめる        ➡ 解除

これら4つの権利は、みなさんの教材にはのっていますし、
問題文の誘導に素直にのれば、「修補請求以外の3つの権利行使の方法について」の問いに対する解答は❷❸❹となります。

次に、「民法の規定に照らし~権利行使できる根拠を示した 上で」の問いかけとして、これら代金減額請求、損害賠償請求、解除ができる民法上の根拠(権利行使をする相手である請負人の責任)を書きたいのですが・・

ここでどんな用語を使うかが、一番難しいところです。用語として、
契約不適合責任」も浮かぶ、「債務不履行責任」も浮かぶ、「担保責任」も浮かぶ。試験委員はどれを書かせたいのだろう?と疑問になります。

なぜ、3つの用語が浮かぶのか説明していきます。

前提知識として、売買の規定が、請負にも準用されているので、両方の条文を確認していきます。
(有償契約への準用)
559条
 この節(第三節 売買)の規定は、売買以外の有償契約(例
:請負)について準用
する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
➡「売買」の条文は、「請負」にも準用されるということ

今回の問題文の事実に適用される「売買」の条文をPIC UPします。

(買主の追完請求権)
562条1項
 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、
買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
👨👆条文に「契約の内容に適合しない」とあり契約不適合責任というニックネームがついている。

(買主の代金減額請求権)
563条1項
前条第一項本文に規定する場合
において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、
買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
請負にも準用され、問題文で除外されていないので、解答に入れる
👨👆前条の「契約の内容に適合しない」ときの条文なので、やはり
契約不適合責任というニックネームがついている。

(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
564条
 前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使妨げない
👨👆前2条の「契約の内容に適合しない」ときの条文なので、やはり
契約不適合責任というニックネームで呼ばれることがあるが、
損害賠償解除については、415条と541条等の権利行使を妨げないとあるので、債務不履行責任と表現することもできる。

実は、さらに、売買の箇所で、見落としがちな条文が存在していて、
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限
566条本文
 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。👨👆4つの権利をまとめて担保責任と呼んでいる条文

また、請負の箇所にも同じ用語「担保責任」が使用されている!
(請負人の担保責任の制限)
636条本文
 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
👨👆請負の条文でも、不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除について規定されているが、ここでも4つの権利をまとめて、条文の見出しに、担保責任と表現されている。

民法の規定に照らし~権利行使できる根拠」(権利行使の相手である請負人の責任)の名称は、条文を根拠にすると「担保責任」と表現できる。

以上をまとめると、
民法の規定に照らし~権利行使できる根拠を示した上で」の問いに対する解答は、以下ABCの3パターン考えられます。
Aパターン
代金額請求、損害賠償、解除、ともに、根拠を「担保責任」で一本化

Bパターン
代金額請求、損害賠償、解除、ともに、根拠を「契約不適合責任」で一本化

Cパターン
代金額請求  の根拠を「担保責任契約不適合責任)」で説明
損害賠償、解除  の根拠を「債務不履行責任」で説明

それぞれ、字数制限におさまるかを確認するため、解答例を作ってみます。
ここで、試験委員が作った問題文には「代金」と書いているので、「代金」の減額と書いてもよいと考えますが、請負の条文(636条)は「報酬」となっているため、一応「報酬」の減額と表記していきます。

Aパターン★★★ ☚私は、この解答を書きます
請負人の担保責任に基づき、報酬の減額請求、損害賠償請求及び契約の解除をする方法がある。(42字) 

Bパターン★★ ☚民法の専門家がつけたニックネーム
契約不適合責任に基づき、報酬の減額請求、損害賠償請求及び契約の解除をする方法がある。(42字)

Cパターン★ ☚適用される条文を個別に分析した場合
担保責任(又は契約不適合責任)に基づき報酬減額請求、債務不履行責任に基づき損害賠償請求と解除の方法がある。(42字~45字)
➡無理やり字数ギリギリにおさめた感じ。行書試験でここまで分析させる?

まとめると、条文に一番忠実な用語を使うなら、Aパターンの「担保責任」となります。民法に「不適合」という用語は登場しますが、「契約不適合」とか「契約不適合責任」という用語はどこにも登場しません。その代わり、売買契約の不適合の条文の続きに位置する566条で、「目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限」という用語が登場し、準用先の請負契約の条文の箇所でも、636条「請負人の担保責任の制限」、637条「目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限」という用語を使用しているため、民法の条文に忠実に書くなら、「担保責任」となります。
ただ、民法学者の基本書では条文上の用語ではなく、「契約不適合責任」という用語も使っていますので、「契約不適合責任」でも正解にすると思われます。試験委員が作成する解答は、おそらくAパターンの「担保責任」か、Bパターン「契約不適合責任」のどちらか、あるいは正解例を2つ公表することもありえます。また、Cパターン「債務不履行責任」も併記した場合は、試験委員が公表する正解例にはならないかもしれませんが、なんとか字数制限におさまりますし、「担保責任も債務不履行責任の一種」なので、減点はないのではないかと考えます。

最後に、問題文が、工務店Bが材料を供給し、住宅の設計は工務店Bにゆだねていた事例にしている理由について、636条を見ながら解説します。

(請負人の担保責任の制限)
636条本文
 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない
👨👆
問題文が、工務店Bが材料を供給し、住宅の設計は工務店Bにゆだねていた事例にしているのは、この民法636条の適用により、報酬の減額請求、損害賠償請求、解除ができなくなるケースにならないようにするためです。

 以上、あくまで私見ですが、いろいろと述べさせていただきました。
どんな正解例を試験センターが発表してくるのでしょうか。

 令和5年の記述を総括すると、1とおり学習が終わった標準的な受験生ならば、何かは書ける問題が3問そろいましたので、大崩れする受験生は少ないかもしれませんが、行政法では意表をついて憲法で学習する事例を出題してきて悩ませたり、民法45問では字数制限に悩み、民法46問では用語選択に悩む問題でしたので、解くのに時間もかかり、3問とも多少は何かしら不安になるような内容を解答をした人が多いのではないかと感じました。



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