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空港のはなし

私は大学生になるまで海外に出たことがなかった。飛行機にすら数えるほどしか乗ったことがなかった。しかし今となっては、空港の思い出を語らせたらゆうに4時間は話せてしまうくらいたくさんの思い出がある。旅行の予定がなくてもフラっと行きたくなるし、海外へ行くときには直行便があってもあえて乗り継ぎの必要なルートにして空港に寄り道する。時間はかかってしまうが、この国境を超えた寄り道がなんとも楽しいのである。直行便なら目的地の国にしか行けないが、あえて寄り道をすることで2つの国へ行ける。なんとなくお得な感じがするのだ。

さて今回はそんな空港や飛行機にまつわる思い出を、いくつか書いてみたいと思う。海外旅行のできないこのご時世、脳内空港バーチャルツアーといこうではないか。ヨーロッパ編、中東編、アジア編といこう。

シュールな荷物ピックアップとまちぼうけ@カウナス

ヨーロッパからはリトアニアのカウナス空港。成田を発ってヘルシンキで一泊、エアバルティックという聞き慣れない航空会社の飛行機で降り立った(タイトル写真)。小型機のせいかよく揺れたし、高度の下げ方が急だったので、先ほどまで隣で余裕の表情でメイクをしていたお姉さんは、いつの間にか手にはブランケットを掴み瞼を閉じていた。わかる。これは怖い。タワーオブテラ―かな?と思っているうちにやっとのことで着陸し、荷物を受け取りに向かった到着ロビーで目にしたのは、ローラー滑り台の切れ端みたいな台とその横に並ぶ屈強そうなお兄さんたちだった。

何だろうと思っていると飛行機から降ろされたばかりと思しきスーツケースたちが運ばれてきた。それをひとつずつ受け取り、ローラー滑り台のような台に乗せたかと思うと、まるでバケツリレーの要領で順番に横へと流していく。なんとシュールな光景か。リトアニア滞在記初っ端からエンジン全開じゃないかと思いながら荷物を受け取った。

市街地へ出るバスに乗るためバス停に向かう。空港のエントランスにはKISS&FLYの標識。フィギュアスケートでよく聞くKISS&CRYとかけたものか。なんともユニーク。バス停にいる人の中でどうやら外国人は私だけっぽかった。リトアニア語にテンションが上がっているとバスが来た....とみんないそいそと乗る準備をしているのを横目に.なぜか乗客を降ろして走り去った。回送でもなさそうである。リトアニア語ミリしらの私でも周囲の人が驚き、呆れ、怒っているらしいとわかった。そうしてみんなで再びバスを待つ。もう一度言う。リトアニア滞在記初っ端からエンジン全開ではないか。

ちなみに首都のヴィリニュス空港では毎年クリスマスの時期に空港で没収したもので作り上げたクリスマスツリーが出るという。意外と拳銃なんかもぶら下がっているらしい。いつか見てみたいものだ。

そこは世界をギュッと凝縮した場所だった@ドーハ空港

さてところ変わってカタールはドーハ国際空港。中学時代からの友人とのヨーロッパ周遊に行く途中で降り立った。アラビア半島に降り立つのは初めてである。

アラブといえば石油王なんて短絡的な連想をしていた私は、この空港はやばそうだと思っていた。実際、やばかったのである。夜中でもひっきりなしに飛行機は発着、お店は24時間営業、人も多く、深夜にも関わらず空港内は賑やかである。そしてなんと空港内をモノレールが走っている。空港が広すぎるがゆえにターミナル間の移動はこのモノレールに乗るのだが、近未来的でまるで遊園地のアトラクションのようだった。ここは空港ではなくまるで小さな街のよう。よく新宿なんかが"眠らない街"なんて言われるが、ドーハ国際空港は"眠らない空港"だと思う。

友人と2人で空港内を歩き回り、見たこともない食べ物や何に使うのか予想のつかない雑貨、謎の巨大なクマのぬいぐるみに目を輝かせる。行き交う人々が話す言語は英語やアラビア語、聞いたこともない耳に新しい響きの言語。場所は違うが、古代のイスファハーンってこんな感じだっただろうか。世界の半分、いや世界そのものがここにはある。

乗り継ぎに寄るだけだからと一つ失念していたことがある。売店でお菓子でも買おうかと思ってやっと気づいた。せっかくならカタールの通貨も少しは持ってくればよかったか。あれ、カタールの通貨ってなんだっけ。

海外で空港泊@仁川国際空港

アジア編は韓国、仁川国際空港。中国への短期留学をしたときに直行便を選ばず、あえて韓国に寄り道した。しかもこのときは行きも帰りも韓国で一晩明かす必要があった。普通の人なら空港の近くにホテルをとるであろうところだが、私は空港泊を選んだ。「翌朝の便も早いし、ホテルから空港への交通手段とか時間とか考えるのは面倒だ。ずっと空港にいれば搭乗時間に遅れそうになって焦ることもない。あと、ホテル代と交通費が浮く」というのが当時の私の考えである。ズボラといえばズボラであるし、ケチといえばケチである。そんなこんなで、韓国に行くのは初めてな上にハングルも満足に読めないくせに、初の海外空港泊を強行したのである。

空港泊をするとなれば、空港のことは調べておかねばならない。幸い仁川国際空港は利用したことのある日本人も多く、情報収集は容易かった。いやいや、結局調べものをするならホテルから空港への交通手段や時間を調べるのと手間は同じじゃないかと言われそうなものだが、そこは一旦置いておく。

どうやらシャワーとサウナがあって、仮眠をとれるところがあるらしいと知った。いざ行ってみると行列であった。仁川、空港泊する人が多い。ただドーハとは違って、聞こえてくるのは韓国語ばかり。旅行以外で普通に空港に遊びに来てる人もいるのでは?というくらいだった。行きの便では諦めたが、帰りの便では2時間くらい待ってやっとシャワーにありつけ、雑魚寝をする人たちの間にスペースを見つけ無事眠ることができた。

だが、大きいスーツケースは店舗の入り口に置きっぱなし、時間制限もあるので午前3時か4時ころには着替えてそこを出た。一番短いコースにだったが、シャワーを浴び、人目を気にせず少しでも横になれるのはよかった。また仁川に寄るときには利用しよう。

空港内の案内図を眺めて朝ごはんをどこで食べようかと考える。せいぜいお店があくのは7時くらいかなと思っていると、シャッターがあく音がする。朝の5時、もうお店があき始める。やはりアジアのハブ空港だけあるなと感心しながら、胃に優しそうなおかゆを食べた。

やっぱり一番落ち着くのは…

いろいろな空港の話をしたが、やはり落ち着く場所といえば成田国際空港である。海外から帰国して最初に見るあの「おかえりなさい」の文字に安堵感を覚える人は多いはずだ。旅行や留学で楽しい時間を過ごし、少し名残惜しく思いながらも帰路について、ああ日本に帰ってきてしまったなと寂しい気持ちになっていると目に入る「おかえりなさい」の文字。

思わず「ただいま」と涙してしまいそうになる。ぎゅっとだきしめてくれるような、世界で一番あたたかい7文字である。

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