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【京都からだ研究室】身体へのアプローチを通じて”安全”をみつめる - はじめてのポリヴェーガル理論®② (22/08/20)

(100円有料設定ですが全文無料にてお読みいただけます)

後藤サヤカさん昨年2021年から立ち上げた、"自身のからだと心そして魂の調和をとりもどし、自身を活かすための"からだ探究コミュニティ"、「京都からだ研究室」

田中千佐子さん(アレクサンダー・テクニーク教師、ソマティック・エクスペリエンス(SE)プラクティショナー)をゲスト講師としてお招きしての2022年度中期第2回講座が行われました(2022年8月20日)。

前回中期第1回講座の模様はこちらから

この中期のテーマは「身体へのアプローチを通じて”安全”をみつめる - はじめてのポリヴェーガル理論®」。
神経生理学の最新理論「ポリヴェーガル理論®」を身体の感覚を通して学び体験してみるワークショップの前回第1回講座の模様は、下記note記事からご覧ください。

ポリヴェーガル理論の3つの原則

前回の講座で学んだ、ポリヴェーガル理論の基本的な理解の復習として、『セラピーのためのポリヴェーガル理論 - 調整のリズムとあそぶ』(春秋社刊)の著者であるデブ・デイナ(Deb Dana)氏(認定臨床ソーシャルワーカー)の説明を下敷きにして、ちさこ先生がPowerPointのレジュメをたくさん使って、分かりやすく解説してくださいました。
このnote記事をまとめるのにも、この本を参考資料としています。


自律神経系のはしご - 3つのチャンネルの「階層構造」

デブ・デイナさんは、自律神経系の成り立ちとはたらきを、はしごを昇ったり降りたりすること(The Autonomic Ladder)に例えて説明しています。

このはしごは、下から上へ向かって行けば行くほど良い…というものではなく、私たちは日々の暮らしの様々な場面で、この自律神経系のはしごを上がったり下がったりしています。

・朝、気持ちよく目覚め、たいへん良い気分で職場へ向かって車を走らせている(←腹側迷走神経が活性化しているはしごのてっぺん)
・そのとき、自分の車の後ろでサイレンが鳴っているのに気づく(←警戒のモードとなりはしごを素早く降りる)
・心臓がドキドキし、何か交通違反をしたのではないかと心配に…(←はしごを下りた場所に留まる)
・車を車道の脇に寄せて止まっていると、パトカーは走り去っていく。安心して再び車を走らせる(←はしごを昇っていく)
・職場に着くころには、パトカーの一件などはすっかり忘れて、仕事に没頭する(←はしごのてっぺんに戻る)

『セラピーのためのポリヴェーガル理論』16ページ参照


「不動化(immobilized)を引き起こす背側迷走神経系
「可動化(mobilized)を引き起こす交感神経系
「社会交流システムとしての腹側迷走神経系
この3つが、ポリヴェーガル理論を提唱したステファン・W・ポージェス博士が示す、ポリヴェーガル理論の3つの原則の一つ「階層」です。

ちさこ先生ご自身のblogでも、このはしごを昇ったり降りたりで見える風景が違うということを書いてくださっています(下記リンク)。


バックグラウンドではたらく「ニューロセプション」

階層構造を成す自律神経系の3つのチャンネルから送られてくる「合図」を監視しているのが、ポリヴェーガル理論の第2原則「ニューロセプション」

このニューロセプションの特徴は、思考を介さない「無意識レベルではたらく」プロセスということです。「知覚(Perception)」に対して、知覚に依らないはたらきであることから「Neuroception」という造語なのですね。
まるで、いまこのnote記事を作成したり読んだりしているパソコンやスマートフォンの画面上で走っているアプリのバックグラウンドで動いているプログラムのようです。

講座の中では、ちさこ先生がこのような例を挙げてくださいました。

「カフェに不審者が入ってきた」というシチュエーションで、友人と顔を見合わせて目くばせしたり、不審者の様子や態度によって恐怖で身体が動かなくなったり目を逸らせなくなったり(凍りつき反応)、不審者が立ち去った時には、「何かヤバい人来たよねー、怖かったね、でももう大丈夫だね」と、お互いに安全を確認し合ったり…という反応を、たしかに頭で考えて行なっているわけではないですよね。
この例示は、知覚や思考が介在しないところでニューロセプションが動いていることを理解するのにとても分かりやすいと感じました。

つながりを希求するいのち「協働調整」

ちさこ先生は、「私たち人間も含め、動物は他者とつながることを、生まれながらにしていつも求めています」と仰います。
ポージェス博士によると、自律神経の3つのチャンネルが相互に調整し合うことによって(協働調整)、私たちが安全を感じ、互いにつながり合って、信頼関係を作り出すことは、生命を維持するために満たさなければならない必須条件だということです。

背中合わせで呼吸

「階層、ニューロセプション、協働調整」、この3つの原則からなるポリヴェーガル理論。
しかし、理屈は理屈として、身体を動かしながら、愉しく遊びながら「理論をこの身で体験・体感する」のが、ちさこ先生のワークショップの特色。この日皆で行なったワークのいくつかを紹介します。

2人一組で立位で背中合わせになって、背中越しに自分から相手の背中へ息を送ったり、相手の呼吸を感じます。
しばらくすると、2人の呼吸のリズムがだんだん同期してくるのが感じられることがあります。こうしたことからも、ポリヴェーガル理論が説明していることを、体感覚として感じることができます。

遊びワーク①:雪合戦

「室内用雪合戦スノーボール」というおもしろい道具を使って、皆で雪合戦で遊びました。

こんなグッズがあるんですね!
握ると「ギュッ、ギュッ」と雪が締まる感じがリアルに再現されています

とはいえ、特にルールも設定せず、なんとなく2チームに分かれて雪玉を投げ合っていたのですが、やっているうちにだんだんムキになってきてしまうものですね(笑)。
他の参加者からは、「ただノールールで投げ合っていても、だんだん向かい側の人とキャッチボールしているような関係性になっていくのが興味深かった」という感想もありました。

遊びワーク②:だるまさんが転んだ

みんな子供の頃に一度は遊んだ「だるまさんが転んだ!」。

上のパワポ画像にあるようなルールで、鬼さんが例えば「だるまさんが転んだ!」を6回言ううちのどこかの1回で、その他の人は全員同じポーズを取った時に、鬼さんはどんな気持ちになったか、どんな感情が出てきたかを観察してみるワーク。
これは、前回第1回講座で皆で遊んだ「にらめっこ」のワークのヴァリエーションともいえますね。

大人も無邪気に遊べ!

先月の中期第1回講座では、にらめっこジェスチャーゲームなどの遊びを通じて、自律神経系の3つのチャンネルのはたらきを"体感"しました。

人とつながるシステムとしての腹側迷走神経系は、出生直後の赤ちゃんには見られず、親や兄弟、親戚、幼稚園や学校での友達との交流を通じて、概ね思春期ごろまでに発達していくとされます。

乳幼児期・小児期の遊びの体験が、腹側迷走神経系を健やかに発達させるのに寄与しますが、遊びはなにも子供だけのものではないわけです。
この講座でしたような、いわゆる子供の遊びを大人になってからやってみると、けっこう恥ずかしい気持ちがするものです。そうであれば大人がするようなスポーツやレジャーでもいいわけです。

大事なのは、恥ずかしい気持ちやいわゆる"大人面(おとなヅラ)"をいったん外して脇に置いて、思いっきり無邪気に遊んでみることなのではないかと思いました。

自律神経系を調える自己調整

ちさこ先生の元々のご専門である「アレクサンダー・テクニーク」の要素も取り入れて、身体の構造と動き・はたらきに着目して、脳内に描かれた"身体の地図"を実際の身体のありように即したものに修正していく「ボディマッピング」の考え方に基づいて、後頭部の骨と頸椎1番(環椎)との接点「環椎後頭関節」を意識して、首が身体の真後ろまで回るフクロウのように首を回したり、

胸骨と鎖骨の関節(胸鎖関節)から頭骨の乳様突起につながる「胸鎖乳突筋」を実際に(皮膚越しに)触れてマッサージしたり。

顔や首周りにある「鰓弓由来器官」は、腹側迷走神経の支配を受けているので、特に手入れするのがいいみたいですね。
普段から身体に少しずつこまめにアプローチして、自律神経の3つのはしご階層を適切に昇り降りするはたらきの健やかさを維持するセルフケアのヒントをいただきました。

質疑応答:安心の背側優位

一緒に講座を受講していた、ヨーガをよく学ばれている方から、こんなことを質問されました。

ヨーガや瞑想、坐禅などで、自分の身体の感覚に自ら親しんでいる状態のときは、腹側迷走神経が優位なのか、それとも背側迷走神経が優位なのか?

確かにそうですよね。

ヨーガや瞑想などをしていると、心がだんだん静かに穏やかになっていくので、自律神経系の従来の2チャンネルモデルで考えるなら、副交感神経が優位になっているとは考えられますが、ではその副交感神経のうちでは、腹側迷走神経優位なのか、背側優位なのか、どちらなのでしょう?

この質問に対して、ちさこ先生はこのように回答してくださいました。

"生命の危機"的な状況でサバイバルモード(不動化、凍りつき反応、シャットダウン)に入ると、恐怖や不安からくる背側迷走神経優位になるのですが、ヨーガや瞑想などで心が静まって(鎮まって)いくときには、「安心感のある背側迷走神経系優位」になっていると考えられます。

ここで思い出したのが、昨年の京都からだ研究室の4月・5月の前期講座でお招きした小笠原和葉さんが、ポリヴェーガル理論の導入的なお話をしてくださった時のこと。

社会的なつながりを持つことで安心感を感じさせるのが腹側迷走神経系ではあり、デブ・デイナ氏による説明では、

孤独な人間は、不幸せを感じるだけではなく、自律神経系の防衛システムを活性化させ、「安全ではない」と感じます。慢性的な孤独は、絶えず「危険」のメッセージを送り、私たちの自律神経系は「生き残りモード」に固定されたままになります。

『セラピーのためのポリヴェーガル理論』59~60ページ

とされます。しかし、また背側迷走神経系が防衛システムであればこそ、時には集団から離れてひとりで過ごすほうがホッとする…という場合もあるわけです。

昨年の講座で和葉さんは、

「皆と共に過ごして安心を感じることと、ひとりで過ごすとホッとできる時間(お背中タイム)。このどちらもバランスよく大事にしていけたらいいと思います」

と仰っていました。

ヨーガや瞑想、坐禅などで自分の身体感覚と向き合っている時には背側迷走神経優位になっていると考えられることは、和葉さんが教えてくださったこのようなことからも理解できるかと思います。

後期(10月・11月)は小関先生の韓氏意拳講座!

10月から始まる、京都からだ研究室2022年度後期講座には、4月と5月の前期講座にもゲスト講師として来ていただいた小関勲さん(バランストレーナー、"ヒモトレ"創案者、韓氏意拳中級教練)を再びお招きして、小関先生がライフワークとしてお稽古されている中国武術「韓氏意拳」の講座「韓氏意拳から学ぶ~自然観~」を開いていただくことになりました。

(小関先生による今年度前期講座の模様は、下記リンク先のnote記事にてご覧いただけます)

私も、小関先生の韓氏意拳講習会で何度か教えていただいたことがあり、次回の後期講座でまた小関先生の指導を受けられるのを楽しみにしています。
また、今度の講座は、これまでこの研究室に参加されたことがある皆さんには特におすすめしたいです。これまでの研究室での学びが"ひっくり返る"ような、驚きと戸惑いの体験になると思います。

下記リンク先「京都からだ研究室」公式Webに、後期講座へ向けての小関先生からのメッセージもいただいています。これがまたとても素敵な文章ですので、ご興味ご関心をお持ちの皆さんは、ぜひお読みいただきたいと思います。

8月25日(木)から参加申し込み受け付けが始まりますので、ぜひご検討、お問い合わせ、お申し込みをお待ちしております。

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